第4話 主人公補正ってすごいね

「リ、リーダーくん。どうしたの?」

 僕は引き気味に尋ねる。


「どうしたもこうしたもあるか! この国、いや世界が滅んでもいいのか!!」

「ま、待てリーダーくん! 落ち着くのだ!!」

 僕の胸倉をつかもうとするリーダーくんに王様が慌てて声をかける。


「スキルというのは自分でその性質を理解していないと使えない代物なのだ。君たちもまだ自分にどんな能力があるかわからないだろう?転移前と比べ、何か体に変化はあるか?」

「た、確かに何も感じないが……。」

 お、リーダーくんが少し落ち着いた。今のところ僕も変化は感じない。


「だから君たちがスキルを使うために、ナイスーに鑑定してもらおうと思っているのだ。彼は鑑定のスキル持ちだからな」

 王様がナイスーを見て言う。


「そういうことだ。自分のスキルを知らなければ誰もスキルを使うことはできないのだ」

「絶対か……? 俺の抑え無しにあいつらがスキルを使ったら本当にまずいことになるぞ?」

 リーダーくんが問いかける。


「絶対だ。鑑定スキルを持っている者達が国中を周り、10歳になった国民を鑑定しスキル持ちを選別しているのだ。その選別から洩れた者が『スキル』を使った記録はない」

「……。とりあえずはわかった。だが『スキル』が使えないとしても、あいつらは危険なんだ。早く見つけるに越したことはない」

「そんなに危険な者達なのか……。統率は取れるのか?」

 王様がリーダーくんに聞く。


「力がないと難しい。俺のスキルが弱いものだった場合、あいつらには自分のスキルの内容を教えない方がいい」

「なるほど。では今は君のスキルの確認をすることが先だな」

 と王様はナイスーに目線を向ける。


「は! では早速スキル鑑定といこう!」

「ああ、頼む」


 ナイスーがリーダーの前に立った。


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!」

 ナイスーが叫ぶ。彼の髪が逆立ち、目が光を放ち始める。

 その光はどんどん大きくなり、最後に目を開けていられないほどの光量でその場を包み込み――、

 そして消えた。


「リ、リーダーくんのスキルがわかりました……。」

 相当に体力を使うのか、肩で息をしているナイスーが言う。


「して、なんだったのだ!」

 王様が期待に満ちた目で問う。


「スキル名は『喧嘩』!! 武器を所持していない場合に限り、徒手での攻撃は鉄をも砕くほどの威力に、そして物理・魔法攻撃を無効化する肉体となります!!」

「おお!!」

 王様から感嘆の声が上がる。


「単純な戦闘なら負けなしということだな!? これはいいスキルだぞ!」

「なるほど……。あいつらを抑えるのに役に立つ力だな。『喧嘩』か」

 この場にいる皆の祝福を受けながら、リーダーくんは自分の拳を真剣な目で見つめている。



 ……。え、ちょっと待って、僕は!?

 なんか『主人公が力を手にした!』みたいな姿を見せつけられてるんだけど!?

 僕まだ、リーダーくんに胸倉つかまれそうになっただけなんだけど!

 全然話に入れてないよ。完全に傍観者になっちゃってたよ。


「あ、あの、僕は……」

「おお! そうだった! 君の『スキル』も鑑定しよう」


 興奮冷めやらぬ中、ナイスーが僕の前に立つ。

 それを見て王様も静まり、僕をじっと見詰める。



 ナイスーと目が合う。そして――、



「よし、わかった。君の『スキル』は」

「いやちょっと待って?」


 なんで普通に発表しようとしてるの?

 リーダーくんの時と全然違うじゃん。小テスト返却くらいのテンションになっちゃってるじゃないか。こっちとしては第一志望の合格発表くらいのテンションなんだけど。


「あの、なんかさっきみたいな光る演出とかって……」

「光る演出……? ああ、発動させた時か。私の『鑑定』は一度使えば効果は一日持続するからな。もう光る必要はないんだ」

「そうなんですか……。じゃあ光らなくていいです」


 僕もかっこよく教えてほしかったよ。


「それでは君のスキルだが――、『会話』だ。」

「はい?」

「『会話』だ。会話ができるようだ」

「はい。えっ……、はい? それだけ?」

「うむ……会話ができるスキルのようだ。ただ『何』と会話ができるかという部分ははっきりとしない。もしかしたら対象は人間ではないかもしれない」

「さすがに人間以外と会話できる能力であってほしいんですが……。例えば動物とか……」

「いや、動物と会話ができるスキルというのはあまりお勧めできない」

「なんでですか?」

「会話できる範囲に昆虫などが含まれると悲惨だからだよ。例えば森に近づくと頭の中でひっきりなしに不特定多数の声が響くようになってしまうのだ。実際そういうエルフがいた記録が残っていて、彼女はエルフの森を出てシティガールとしてハイカラな生活を送る羽目になってしまったのだ」

「そんな危険な能力かもしれないなら教えないでほしかったんですが……」

「すまない、スキルを所持者に開示するのは義務なのだ。しかし鑑定結果から推測するに無機物が会話の対象の可能性が高いとみている。おぼろげながらそういうイメージが浮かんでいるのだ。」


全然使えないスキルの可能性が高いね……。

対象がフォークとかだったらどうするんだよ。

せっかくの異世界無双チャンスだったのに……。


「そう落ち込むな。転移者なのだから強力なスキルであることは間違いない。これから対象を特定していけばいいさ。早速明日からこの城にあるものでいろいろ試していこう」

「ナイスーさん……!」


 ナイスミドル……!

 よし、頑張ろう。学校に向かう勇気だって出せたんだ。僕ならできるはずだ。


 落ち着いたタイミングを見計らって、王様が咳払いをした。

「幸いにも各地に散らばった4人を集めてからが本格的な魔王討伐だ。それまでに会話の対象を確定させればよい。今日はもう遅い。リーダーくんとアキラには部屋を用意した。ゆっくり休むといい」


 そう言って王様は部屋から出て行った。


 僕らは城にある隣同士の部屋にそれぞれ案内された。

「では、また明日迎えに参ります。部屋には軽食も用意しておりますのでご自由にお召し上がりください」

 ではおやすみなさいませ、と言い残し案内してくれた使用人は去っていった。


 とても豪華な部屋だね。来賓用とかそんな感じかな。

 自分で思っていたより疲れていたのか、そんなことを思いながら僕はその足でベッドに倒れこんでい意識を手放した。

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