第14話寂しきか鳴かぬ蟋蟀バケツ中 恋焦がれしは放つ庭先

 寂しきか鳴かぬ蟋蟀こおろぎバケツ中  恋焦がれしは放つ庭先


 数日前、職場でのこと。

 あまり使わないバケツの中に小さな蟋蟀が一匹おりました。

 何処からやってきたのかと思いつつ、バケツを揺らしましたが動きません。

 大きなプラスチックのバケツ。

 飛び込んだものの出ること叶わず、脱水か空腹でお亡くなりになられたのでしょうか。

 それならばと、火葬のために燃えるごみの中へと。

 あれ、若干ですが動いたような。

 否、動かない。

 いやいや、飛び跳ねるほどでありませんが、よ~く見ると生きておられました。

 

 ですので、速やかに庭先へ、ぽ~んと出ていただきました。

 

 バケツの中で孤独だったその蟋蟀。

 きっとその日の夜は、ライバルと競って恋を求め鳴いたのではないでしょうか。

 

 ※蟋蟀:秋の季語

 

 


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