一般的とは

 すまん。本気では思ってないよ?


「で、どう……」


 そこまで言って雪グマの頭部に気づいたらしい。


「雪グマ……?」

「今、空から降ってきた」

「何を熱心に見ているかと思えば……」


 別に熱心に見ていたわけじゃないんだけどなぁ。


「じゃあ、なんで?」

「ラブでソウでスイートを感じる的な?」

「意味がわからない」

「うん。私も意味がわからない」


 何故恋愛ものは見つめ合うだけで、なにかが始まるのだろう。

 そんなに見つめたら失礼にならないのだろうか。

 あと、こっぱずかしくないのだろうか。

 この状況で見つめあって何かが始まったら、それはそれで恐怖だろうけど。


「驚いたり、怖いとか思ったりしないのか?」

「へ?あぁ、生首のはなし?」

「……生首、ほかに言い方が……まぁいいや。それ。随分と冷静だな」

「まぁ」


 私だって、生首が翔んできたら悲鳴をあげるか、腰を抜かすかと思っていたよ。

 元々ギャーギャーいう方じゃなかったと言えど、ここまで感情が凪だとは思わなかったよ。

 こちらに来てから色々あって慣れたのかな?


「そう言うのに慣れるなよ」

「でも、こっちの世界の人は慣れてるでしょう?」

「いや、慣れてるのは、それを仕事にしている人だけだから。は、慣れてないから」

「でも普通の一般人は崖から落ちることはそうそうないでしょう?」

「……そうだな。窓から飛び降りたり、怪我をしそうな凶器を握りつぶしたりもしないな」


 じゃあ、いいよ。

 普通じゃない括りで。

 それにたぶん、向こうの世界でもそれは普通じゃないと思う。


 とりあえず、立ち上がろうとするが、いかんせん身体中打ち身だらけであろう。


 痛い。

 どうかにか立ち上がろうとすると、リアムが手を貸してくれる。


 しかし、リアムだって私と似たような状況である。


 お互いに向かい合って肩を掴みながら、二人で生まれたての小鹿のように足をプルプルさせる。


 すると、がさごそっと後ろで音がする。


 まさか次の雪グマが?


 音の方を振り返れば、縄が山肌に沿って降りてきていた。

 その縄がゆらゆらと揺れている。


 私たちは息を飲みながら、じっと縄を見つめる。

 その縄を伝って降りてきたのはウォルターだった。


「よかった~。無事だったっすね。ってなにやってんすか?」

「いや、お前のが無事じゃなさそうだよ」


 降りてきたウォルターは、結構な返り血を浴びていた。


「これは、雪グマのっす。ちょっと避け損なって……」

「そりゃわかってるよ。あれが翔んできたし」


 チラリと視線を雪グマ頭部に送れば、


「あ゛ー。分隊長がスパッと……あ、分隊長!」


 急に降りてきた縄を振りながら、上に向かって叫んでいる。

 しばらくすると先程と同じように縄が揺れ、上からアレンが降りてきた。


 もちろん、次にノアも。

 その間に小鹿状態から何とか立てるまでに回復した。

 懸垂下降ラぺリングは、一般教養なのですか


「無事でよかった……どうしました?まさか、何処か怪我を?」


 動くのを忘れて降りてきた縄を見ていると、勘違いされた。


「いえ、ただ、すごいなと」

「なにがすか?」

「懸垂下降」

「え、もしかしてやってみたいとか思ってる?」


 憧れではあるよね。

 ノアの質問に頷けば、リアムが本気であきれた目をしてくる。


「正気か?」

「うん。後、上から落ちるのならば、命綱をつけてバンジージャンプがいい」

「何故自ら落ちようとする」


 楽しそうだから?

 死なない保証がついていれば。


「もういい。お前が普通じゃないのは知ってた」

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