やる気スイッチ sideアレン

 馬に乗ったことないだろうとアイナに聞いてみると、反応をみるに「ない」だろうとの反応が返ってくる。


 それならば、「2人乗りで」と伝えると一瞬困った顔をする。


「どうしました?」

「二人も乗ったら重くないですか?」


 この間、梯子から落ちてきたときのことを思い出す。


「大丈夫です」

「雪のなかじゃ大変じゃないですか?馬が」

「雪に強い種なので大丈夫です」


 どうやら、乗りたくないらしい。

 なにがそんなに嫌なのだろうか。


 しばらく質問をされ、それをはねのけるという押し問答の結果、ようやく馬に乗る気になってくれた。


 そこでまた一つ問題が。

 前に乗るか、後ろに乗るか。

 前ならば俺が乗せて後ろから手綱を引けばいいのだが(身長差もあるし、前が見えなくなることもないだろう)、掴まるところがない。

 後ろなら俺に掴まってもらえばよい話だが、乗り降りが手伝えないし、初心者に後ろはキツイだろう。


 初心者に聞いてもと思いつつ聞いてみる、と本人は後側が希望だと言うので、意思を尊重し乗り降りはノアが手を貸すことになった。


 さぁ出発となり、後ろに乗るとおずおずと背中をつかんできた。


「落ちますよ」


 手をとって腰に回させるとビクリとして固まっている。


 そのまま動き始めれば、さすがに初めてで怖いのかなと思ったが、すぐに慣れた様子でキョロキョロと周りをみる気配がある。

 アイナは自分では運動ができないと言うが、言うほど運動神経は悪くない。

 むしろいい方に分類されるだろう。


 護身術とかも練習すれば割りとすぐ出来るようになるし、覚えも早い。


 ただ、運動、経験、体力、やる気と不足しているものが多いのだ。

 で、出来ないと「やっぱり自分はだめだ」と落ち込み、また動かないと悪循環になり、結果「運動神経が悪い」という結論に達したのだろう。

 本人曰く、「やる気がすぐ旅に出る」らしい。


 スピードを上げてみても特に怖がる反応がない。

 思い返してみれば、窓から飛び降りたこともあるくらいだ。

 怖くないのだろう。

 逆に楽しそうな雰囲気すらある。


 雪が強くなるなか、途中で休憩を挟みつつ夕方には北の森の手前の町まで来ていた。


 町の名前は「シュフー」という。

 さすがにこれから先は馬では行けないし、夜になれば危険が増す。


「とりあえず、今日はこの町で休みましょう」


 宿屋を探して、一泊することにした。

 馬から降りて後ろを確認すれば上着が真っ白になって、下手したら雪だるまではないのかと勘違いする姿のアイナがいた。


「アイナ?」


 手を貸して馬から下ろすとまるで水で濡れた動物が体についた水を弾こうとぶるぶるするかのように体をふるふるして雪を飛ばす。


 しかし全然雪は飛んでいかず、雪だるまのままだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る