黒い影
気分がどんどん暗くなっていく……と思っていると、実際に部屋の中も暗くなっていることに気がつく。
日が落ちれば夜になるのだから当たり前である。
暗くなったことである程度の時間経過を感じる。
あぁいつまでもめそめそと泣いている、私はなんてダメな人間なんだろうか。
しかも、オリバーになにも言わずに来てしまった……
それに気づいてまた一層落ち込む。
やっぱり、自分はダメなやつだ……
これ以上落ち込んでもなにもでないだろうと、ノロノロと顔を上げる。
シーツの隙間を通して外を見れば暗い中でもうっすら灯りが射し込んでいる。
月明かりだろう。
そう思い、そっとシーツをずらして顔を出す。
いつものように月を見上げようかと思ったが、なにか違和感が……
ベランダに黒い影が立っていた。
またここで、「きゃー」とか「ひっ」とかの反応をすることもなく、「なんかいるなぁ、なんだろう」ぐらいにしか思わない自分に腹が立つ。
「……だぁれ?」
とりあえず、確認は大事だろう。
ノロノロと問いかけてみる。
「お前の悩みを解決してやろうか?」
黒い影が話しかけてくる。
「悩み?」
「もし、私がお前の悩みを解決することが出来たなら、お前の『不安』を貰ってもよいか?」
何をバカなことを言っているんだ。
電波か?
反応を返さない私に、黒い影が手を上げる。
硝子を挟んでいるはずなのに、叩かれると思い身を固くするが痛みは訪れなかった。
その代わりに黒い影が手招きをする。
その瞬間、私の胸元にキラキラと光るトゲトゲのボールが浮かび上がった。
なに?これ?
クイズ番組に出てきたモヤッとボールみたいだな。
バカみたいな事を考えている自分に吃驚する。
今まで落ち込んでいたはずなのに、そんな発想をするなんてなんてお気楽なやつなんだ、私は。
それに今ならなんでもできる気がする。
動揺する私をよそに黒い影がまた、ちょいちょいと手招きをする。
ふわふわとキラキラトゲトボールが黒い影の方に飛んでいく。
あぁ、今なら空を飛ぶ勇気が持てる気がする。
なんだって出来る気がする。
このまま不安が無くなれば、私は幸せになれるかもしれない……
うん?
『幸せになれる』?
そう思った瞬間、私はキラキラトゲトゲモヤッとボールを掴んでいた。
握り締めた手のひらにトゲトゲが刺さる。
地味に痛いし、黒い影の方に引っ張られるのでギュッと力を入れ直すと手のひらにトゲが突き刺さる。
手のひらからさっきまでの不安が私のなかに帰ってくる。
さっきまでの幸福感がなくなり、気持ちが暗くなる。
こんなもの、欲しいと言っているやつにあげてしまえばいいじゃないか。
手に込める力が緩む。
すると、暗い気持ちが薄くなり、キラキラトゲトゲモヤッとボールは、黒い影の方に引き寄せられていくのだった。
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