【後日談】例えばこんな日常も
「お願い、お願い!!一生のお願い!!」
「絶対やです!」
目の前で繰り広げられる攻防を見ながら俺はため息をついた。
やるなら他所でやってくれ、仕事が進まないじゃないか。
なんでまた、執務室でやってんだ。
そんなことお構いなしにアイナとレティシアの押し問答は続く。
「一回だけでいいのー。夜会に出て」
「嫌です。だってドレス着て壁にくっついてればいい話じゃないでしょう?」
「……そうね、最低一回は踊らなきゃいけないわ」
「私のダンス歴なめんなよ。ラジオ体操と毎年の運動会で踊る創作ダンスだぞ。直近では授業でやった「自分達でダンスを考えよう」企画で寄せ集め女子五人で踊った「天道虫のサンバ」だよ!」
「あら、なんだか楽しそうじゃない」
「夜会で踊るのと躍りの系統が違いすぎるでしょ!」
「あら?大丈夫よ。簡単なのを一つ覚えておけば!!」
「絶対やです!」
不毛なやり取りを見ながらチラリと上二人をみる。
「楽しそうだねぇ」
「あれを楽しいと言うのか?」
「まぁ、見てる方は楽しいと思うけど?」
「当事者じゃないからだろ?」
こちらも不毛な会話だった。
「もう!わかった。出ればいいんでしょ、出れば」
投げやりなアイナの言葉に「やったー」と小躍しながら、「準備はすべて任せて!!」と部屋から出ていくレティシア。
ぐったりしながら、アイナが席につき、突っ伏す。
「死にたい」
「まぁまぁ。そんなこと言わないの」
ノアが直ぐに慰めに行く。
「でもさ、アイナちゃん優しいよね」
「……どこが?」
「嫌っていいながらも最後には首を縦にふったじゃん」
「それはこれ以上面倒が長引かないように諦めただけでは?」
「それでも僕は、優しいと思うよ」
「……」
会話が途切れたところで、珍しくアレンが会話に入る。
「あと、自分に課題を課しすぎじゃないですか?自分に厳しいですよ」
「そうそう、もっと気楽にいけばいいのに。ウォルターぐらいとは言わないけど」
「……具体的には?」
「そうですね。ベラベラと話せとは言いませんが、もう少し気楽に話をしたらいいのではないでしょうか」
「そうそう、ウォルターとリアムの間ぐらいで」
急に自分の名前を呼ばれてビックリする。
「それはどういう意味ですか?」
「え?お堅過ぎず、ちゃらんぽらん過ぎず、みたいな感じ?」
「堅い、ですか?」
「うん。そこら辺はアイナちゃんと似てるねよ」
その言葉に伏せったままコメントがかえってくる。
「え、ちょっと何て言うか……そこはノーコメントで。」
おい!!
「あとは、そうですね。たぶん、泣き虫なのに負けず嫌いで頑張りやさんでしょうね」
その言葉にアイナはパッと顔をあげた。
なんだか難しい顔をしていた。
なに?どうした?
「え?どうかした?」
「何か気にさわることを言いました?」
「……違います。気にしないでください」
そう言うと、また突っ伏してしまった。
三人で顔を見合わせる。
何がどうしたんだ?
でも、一つ気付いたことは髪に隠れた耳がほんのり赤色に染まっていたのだった。
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