とある侍女のつぶやき

 私は、マルサ王国の王宮に勤めている侍女である。


 今回、勇者召喚の儀でこちらの世界にこられたアイナ様の身の回りのお世話を任されたのだけど……


 はじめの印象は、まるで人形のように表情の動かない方だった。

 しかも15歳だという。

 一緒に来た聖女様は、明るくて自由な方だと聞いたが、何だか正反対だった。


 私たち、世話係は、魔物の討伐に対して「役に立たないので」と出ていこうとしているので、なんとか引き留めろと言われている。


 もちろん、全力で引き止めようとする。

 この年で全てを諦めてしまった顔をしているなんて、なんて可哀相なのだろうと世話係全員で話し合い、なんとか笑っていただこうとするのだが、なかなかうまくいかない。


 聖女様は、ドレスやアクセサリーなどを好むようだか、アイナ様は、兎に角、地道を好むようだった。

 ピンクやオレンジのが絶対似合うと思うのですが、首を縦に振ってくださらない。


 髪型はなんとか下ろす方向で決まったけど。


 お茶を、と紅茶をだすがじーっとカップを眺めたかと思うとまるで何事もなかったかのようにすーっとカップを遠ざけた。


 なにか不味い事でもあったのだろうかとドキドキしたが、紅茶が苦手でにおいも苦手だと済まなさそうな小さな声で答えてくれた。

 済まなさそうとは言っても、顔は無表情だったが。


 では、好きな飲み物は?と尋ねると暫く動きが止まってしまった。


 ?


 すぐに水でいいと返事がもらえる。

 なんだろう。今の一瞬の間は。

 はっ。

 まさか何か嫌なことを思い出されてしまったのだろうか。

 気を付けなければ……


 と、思っていたのにレモン水を出したらまた動きが止まってしまった。


 すみません。よけいなことをしましたね?

 察する能力が上がるかも知れない!!


 あと、少食すぎて心配になるほどしか召し上がらない。

 そのうち倒れてしまうのでは?と心配をしているが、ご本人はこれといって問題は感じていないらしい。


 お世話をするようになり、アイナ様をよくよく観察すると表情がないなかにも、反応があることに気づく。


 たとえば、魔法の話は興味があるらしく真剣に聞いているし、逆に興味のない歴史の話のときは、目の焦点があってないというか、暗い目がより一層暗くなる気がする。


 あと、食事をモグモグ食べる姿が小動物が食べてるようでとても可愛らしい。


 一瞬のうちに泣きそうな目をしたり、優しい目をするときがある。

 それは、よく観察すると分かる事であって彼女のことをよく見ていない人はきっと気づけないのだろう。

 興味がなければ、そんなものかも知れないが、私は何だか目が離せない。


 とてもさみしそうな顔をする子がいつか心から笑う日が来てほしいと願いながら、今日も彼女を観察するのだ。

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