第4話

白木さんが僕たちを褒め、「お前らだけでこの数のヴァンパイアを仕留めることができたのはすごいことだ」と称えた。


綾美は僕を睨みつつ、「こいつは一人も倒してませんよ。全て私が倒しました」と手を挙げた。


白木さんは苦笑いを浮かべた。


ヴァンパイアを救えなかったことに悔やむ中、白木さんが「俊也、敵のヴァンパイアの血を吸って人間に戻そうなんて考えるなと言っただろ?」と言う。


綾美は自分の席に腰を下ろし、足を組みながら、「ヴァンパイアは殺すしかないのよ」と厳しく言い放った。


「でも……」と僕が反論をしようとすると、綾美はデスクを叩いて「いい加減にしなさい!無理なものは無理なのよ!ヴァンパイアを全員始末すればこれ以上人間はヴァンパイアにされないわよ。私はそう思ってヴァンパイアハンターやってるのよ」と自分の想いを吐き出した。


白木さんが綾美を宥め、今からミーティングを始める提案をすると、綾美は渋々了承した。


白木さんが担当の13区で暴れているとされる瞬足のジャックというヴァンパイアの討伐作戦について説明し始めた。


「瞬足のジャックはここ数年、ジワジワと強くなり、今ではBランクに相当する強さを持つヴァンパイアだ。ちなみにハロウィンナイトのカボチャの化け物がAランクほどと推定されているので、瞬足のジャックも相当な実力だ」と語る白木さん。


僕はあのカボチャの化け物ほどではないにせよ、かなりの強敵と戦わないといけないと思うと手から汗が滲み出た。


そして、白木さんはジャックの特異能力が高速移動であることを説明した。


ジャックの高速移動能力について白木さんが詳しく説明し、複数のヴァンパイアハンターがチームワークを発揮して攻撃する必要があることを強調した。


「私だってかなり高速よ」と綾美が自信たっぷりに言うと、白木さんは「確かに綾美はヴァンパイアハンターの中でもトップレベルのスピードだが、少しスタミナが足りない。ジャックはスピードもスタミナもあるぞ」と警告する。


白木さんの表情は、油断するなというメッセージを含んでいた。


こうして、瞬足のジャック討伐のためのミーティングは続いた。



ミーティングの後、帰り道で綾美と一緒に歩くことになった。


僕と綾美は最寄りの駅も近く、近所に住んでいることが分かった。


「あのカボチャの化け物ほどじゃなくても、ジャックって強いんだよね?」と僕は綾美に尋ねた。


綾美は冷たく「私も戦ったことないから知らないわよ」と答えた。


「そうなんだ」と僕は返し、しばらくの間をおいて今日の戦いでの失態について謝罪した。


綾美は「うん」とだけ答え、無言で歩き続けた。


後に、僕らは可愛らしいカフェを見つけた。


「ここオープンしたんだ」と綾美が呟く。


「ヤバい、めっちゃ美味しそう」とカフェの前に大きく張り出されたモンブランの看板を眺める綾美。


そんな彼女の様子を見て、やっぱり女の子だなぁと僕は思った。


「ここにしよう!」


綾美がカフェに入ろうと提案し、戸惑いつつも僕は彼女の誘いに応じることにした。


「モンブラン奢ってよ。奢ってくれたら今日のミスはチャラにしてあげても良いわよ」


僕は内心、突然の出費に少し痛みを感じたが綾美との関係性が改善するのならと思い、店に入ることにした。


ショーウィンドウのケーキを眺めながら、綾美は他のケーキも美味しそうだと迷いつつ、最終的にはモンブランとコーヒーを注文した。


一方、僕はシンプルにコーヒーを選んだ。


注文を待つ間、綾美が自分の両親がヴァンパイアに殺されたことを話した。


「もしかしたら白木さんから聞いているかも知れないけど、私の両親はヴァンパイアに殺されたんだよ……」


僕は首肯し、彼女がヴァンパイアを殺すことにこだわる理由を改めて理解した。


綾美が「だから、ついつい感情的になんちゃうんだよ。ごめんね」と言うと、ウェイターがモンブランを持って僕らの方へやってきた。


モンブランが綾美に届くと、「うぁ、最高」と彼女は言った。


その瞬間、彼女の表情が一変し、何とも可愛らしい姿に思わず微笑むこととなった。


このモンブランが、少し繊細な話の空気感を甘く和ませてくれた。


「頂きます」と言いながら、綾美はモンブランを食べ始め、「やっぱり、美味しい」と嬉しそうに笑った。


その笑顔を見ながら、僕はヴァンパイアから力を奪うことが難しいなら、綾美の言う通り、目の前のヴァンパイアを倒して増えないようにするのが正しいのかもしれないと考え始めていた。


綾美がカフェを出ると、微笑みながら「ご馳走さま、ありがとう」と言ってきた。


僕は彼女の笑顔に何か温かさを感じて、軽く頷いた。


「ねぇ、結構モンブラン好きなの?」と僕が尋ねると、綾美は少し目を細めて答えた。


「そうだね。給与のほとんどはモンブランに消えちゃってるかも」とにやりと笑う。


僕が驚きを隠せずにいると、綾美は「でも、私って、かなりモンブランマニアだと思うよ」と言って、帰り道の道中、モンブランの魅力について熱く語り続けた。


見た目によらず、綾美は案外オタク気質なのかもなぁと思った。



白木さんは綾美と僕に、ジャックとの戦いの要点を説明してくれた。


ジャックの左腕は大型の刀になっており、攻撃力が極めて高く、我々にとって非常に危険な武器だとのこと。


彼は続けて、ヴァンパイアが持つVセルは変幻自在で、触手や武器へと変化可能だと教えてくれた。


そして、殺鬼刀もまた、ヴァンパイアから得たVセルから作られた武器であり、様々な形状に変化させることができることを補足した。


ジャックが戦闘時に左腕に大量のVセルを集め、大きな刀を形成してくることを知り、僕は彼との戦いに備えることを決意した。


綾美が「その大型の刀に加えて、高速で移動するのね。それは厄介ね」と口にする。


白木さんは「そうなんだ。通常スピードタイプはやや攻撃力が劣るため、多少攻撃を受けても致命症になることは少ない。しかし、ジャックは違う」と説明した。


我々は頭を悩ませ、白木さんは「ジャックに狙われた者は反撃を考えるのではなく、引きつけることを考えよう。そして、他のメンバーがジャックの隙をつき、攻撃を決めるようにするんだ」とアドバイスした。


これに僕はなるほどと思った。


確かに、狙われた者が逃げに徹することでジャックの大型の刀からの攻撃を受けるリスクを減らせる。


どうしてもこちらから攻撃するとなると、隙は生まれる。


綾美が「私は逃げに徹するなんて嫌よ。そんなのカッコ悪いじゃない」と言ったが、白木さんは「ジャックはお前が思っている以上に危険だ。お前が実力があるのはわかっているが、今回は従ってくれ」と厳しく言った。


綾美は少し膨れつつも「了解ですー」と応えた。


白木さんが「じゃあ、パトロールに出るか。もし、今日ジャックが現れたらさっきの作戦の徹底を頼むぞ」と僕と綾美に告げた。


我々は即座にパトロールに向かった。


未知の夜に身を委ね、暗闇の中、ジャックの影が見える可能性を考えると緊張せずにはいられなかった。

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