ある太陽の話

澄鈴

 ある夏の日のことです。太陽は考えました。

「僕はどうして生きているんだろう」

考えても考えても、答えは出ません。

地球の人間の声を聴きます。

「毎日毎日暑い、たまには雨降ってくれよ」

「あーもう、暑くてうざい!まったく、これだから夏は……」

「太陽いらない」

そんな声が聞こえました。

「ああ、僕は居なくてもいいんだ」

太陽はそう思い、どこか遠くに行くことにしました。

  


水星が見えます。

「太陽さん、そんな暗い顔してどうしたんですか?」

「僕は居る意味がないみたいなんだ。だから、遠くに行こうと思って」

そう言いました。

「そんなことないです。太陽は人間からも、僕達からも必要とされているんです!だからそんなこと言わないでください」

「あんなに文句を言われて、うざいと思われているのに?だから僕はもう光らない。嫌われるのなら遠くに行くよ」

太陽は、自ら光るのをやめてしまいました。


太陽の光が地球に届くまでの時間は、約八分です。地球に太陽の光が届かなくなった時のことは、よく知っています。

そして八分後、地球は暗闇の中に落ちていきました。

「なんてことを!あなたが居なくなれば、人間が、僕達惑星が!それに小さな星たちも月も、あなたの光がなければ輝けません!」

「僕なんかにこんな、自分が光る力なんてなければいいのに」


水星と話をしていると、火星に呼ばれました。

「太陽くん、大変です。地球が、人間が……」

太陽は地球を眺めてみました。

「なんで太陽が消えてしまったんだ」

「太陽が無くなったら、俺達は生きていけない!」

「死にたくない!太陽帰ってきて!」

そんな声が聞こえました。


太陽は叫びました。

「お前らどうして!さっき俺の事要らないとか言ったくせに、俺はお前らの都合で生きているんじゃない!必要な時だけそうやって呼んで、要らなくなったら悪く言うんだ、都合が良すぎるんだよ!」

そんな太陽の声を聴いた人間は、静かに涙を流して、そのうちゆっくりと息絶えて行きました。

その時間は、太陽が生きてきた時間よりずっと短い時間でした。


太陽は、自分の事を要らないと言った人間達が居なくなり、何故か涙が止まりません。

そして気付いたのです。

『必要とされていた事が、自分が生きていた意味だったのではないか』と。

人間に必要とされ、人間の笑顔を見ることが幸せで……。

太陽は、もう戻らない人間の亡骸を眺め、大声で泣きました。

そして、自分の力すべてを使い、地球を燃やします。

人間の亡骸は灰になり、空へ舞いあがります。

それを見ながら太陽は、遠くに消えていきました。

                                      おしまい。

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ある太陽の話 澄鈴 @s-mile

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