第一章 第二幕「死んでいるのは誰なのだろうか?」
第29話 “abnormal days-①”
【翌 9/3 8:08 明石市中心付近 私立中名革高等学校】
……昨日は、あの後は特に何もなかった。せいぜい戸籍の確認や銃火器の受け渡しを多少行いはしたものの、逆に言えばその程度。
まあ、あまりに慣れなさすぎる環境に苦しんだくらいが精々ってなところだ。別段敵の攻撃があった訳でもなく、一応眠れるは眠れたからな。
「ねえ、大丈夫なのあなた? 目がちょっと充血して……」
「いや、僕は何ともない。寧ろこの程度なら、十二分に寝られた方さ。」
なんて事を歩きながら話す内にも、だんだんと過ぎて行く朝。友人と歩いているのならばこれほど気まずくはなかったのだろうが、残念な事にこちとらは昨日で初対面ときたものだ。
……“初対面の美少女と1日で仲良くなれる可能性”か。論文が書けるな、これは。
「ねえ、本当に大丈夫なの? 朝からため息出るまで疲れてるんなら、別に……」
「何だよ、僕に守られるのがそんなに嫌か? 仕方ないじゃないか、そういう家の元で生まれたんだから。」
「……ああ、そう。ええそうよね、そういう家なのよね……。」
……と、ジャブ程度に放ったその言葉はまさかの顔面クリーンヒット。かなり落ち込んだ様子の彼女は僕とは逆の方に頭を傾けて俯き、これにて僕のKO勝ちだ。
さて、お遊びはここまで。校舎が目に入るのを確認すると、僕は彼女の肩を左手で軽く叩いてその手に握られている板を差し出した。
「……?」
「ほら、何してる? さっさと取れよ、必要になる。9mmだと少しばかり火力は低いが、流石にあそこも公的機関だからな。不審者対応とかその辺も色々とやってるだろうさ、自衛用にはこれで十分だろうよ。」
……肩を叩かれた彼女は呆然となった様子でこちらを見てくるが、何も行動を起こそうとはしない。
続く沈黙、どこからか反響してくる足音。そんな察しの悪さに僕は痺れを切らし、スカートのポケットにその板を突っ込もうとして……その手を、止められる。
「ちょっと、何すんのよ!」
「何って、こいつが君に必要だから渡そうとしてるんでしょ。“Ideal conceal”、個人携行型の携帯電話型拳銃だ。9mmパラベラム弾を2発装填可能、安全装置は機能ごと取っ払っておいた。
「け、拳銃って……⁉」
「切れ込みが入っている部分を開いて引き金を引けば、すぐに撃てるようになってる。まあ、それを使わなけりゃならん事態になった時点でほぼ
……さ、そろそろ時間だ。教室にはできるだけ早いこと着いていたほうがいいだろ? 落ち込むのはやめて、僕らもそろそろ行こう。」
「ちょ、ちょちょちょちょ⁉ あんた、ちょっと待って! 待ちなさいってば!」
……落ち込んだかと思えば今度は焦ったりと、忙しい女だ。昨日の彼女が見た景色は、自衛用の携帯拳銃一本で焦りくさってしまえる程度の惨状ではなかったはずなのだが……まあ、学校だから見つかるかもしれないという懸念かな? にしては少々、焦り過ぎな気がするけれども。
「……これを、持ってろっていうの? 私に、ここで? 学校なのよ⁉」
「大丈夫だって、何のための教員側の内通者さ。彼らがいる以上は銃の所持は何があってもバレないんだから、そんな事を気にするよりかはもっと酷い緊急事態への懸念をした方がいいって。」
「いや、そういう事じゃないから! あなた、感覚おかしくないかしら⁉ 学校よ、学校に銃を持ち込むのよ⁉
外国でだって犯罪だし、それに……」
「犯罪ったって、そんな事言いだしたら僕らの敵の方こそ超凶悪犯罪者集団でしょ。生物兵器って聞いて何となくわかんない? 相手のヤバさってもんがさ。たとえ君がどれほど気にしたとしても、そんなもん校舎内で乱射事件起こされれば関係ない。
……という訳で、もし君がそれを持っておきたくないって言うならぶん殴ってでも鞄に突っ込むからね。じゃあそういうことだから、もう今すぐ学校までレッツゴーってことで。時間ないし。」
ああ、段々と自分の発言が適当になっているのを感じる。話しているのがかなり面倒臭いとかなり強く思っている事は確かだけれども、まさかここまで自分の行動に現れてしまうものとは考えてもみなかったなぁ。
こうまで行動と精神がひっついていると、作戦に影響も出かねない。まったく、ブランクのようなものも全くないというのに、何故僕はここまで鈍っているんだろうな?
と、軽い脳内反省会議を開いているうちに彼女はこちらに詰め寄ってきた。それはまるで、飛来するように……いや、なんでもない。
「……後で、この辺りはじっくり聞くわ。でも確かに、今はとりあえず学校に向かったほうが良さそうね。私は先に行って頭を冷やしているから、あんたはゆっくり来なさい。」
「えぇ? いやいや、途中で襲撃されたら……」
「同じ道を通ればいいだけでしょ⁉ 女子には色々と事情があるのよ、いいから黙って後ろにいなさい! こいつっ!」
激しい怒りとともにそう言われると、僕は胸板を彼女に押される。まあ、一般的な高校生からしてみると異常なほど鍛えている僕と普通の少女たる彼女とでは流石にパワー差がありすぎたので、別に体勢を崩されるとかそういう事はなかったんだけれど。
「……あー、めんどくさ。」
なんて、少し日本人らしい台詞を吐きながら。僕は彼女に少し重くされた足取りを、なんとか歩み始めていた……
【8:17 目標教室付近】
さて、そんな訳でついに学校に到着した僕である。そしてそんな微妙な状態の僕を待っていたのは、思ったよりも普通の校舎。そして、思っていたよりも普通の設備であった。
「ねー、昨日のアレ見たぁ?」
「見た見た、凄かったよねー!」
私立というだけあって金がかかっているのか知らないが綺麗な廊下、教室の壁に隣接する多数のロッカー、開いた教室のドアから零れ出てくる冷気。残暑の蒸し暑さと冷気のお陰でずいぶん息苦しい……のは、恐らく僕がこういう類の暑さに余り耐性がないせいなのかな。
そして、少し広い中央階段を抜けて三階へと移動。ホールに似た広い空間の壁に貼り付けてある校内地図は、“転校生”にはずいぶん優しいものだ。目的地が右なんだか左なんだかわからんようなこういう広い空間には嫌気がさしてくるものだが、ご丁寧にマップがあるのは大変結構だな。
「おい、お前見事に振られてたな! スッゲー面白かったぞ! 一部始終の動画取ったけど、要るか? それともやっぱ要らない?」
「あのなぁ、お前さぁ……他人が人生かけて告って振られたもんを、そりゃないだろ?」
「……あーはいはい、悪かった悪かった。ラーメン奢るから元気出せって、な?」
これでいつものようにいちいち内部マップ入手しなけりゃいけないってんなら泣いていたけれど、そんなことないし。
というわけで、右方向に行って2つ目の教室が目的地。もう先に入っていてもいいとのお達しだったはずなので、少し周辺を警戒しつつ入っていくと……早速、僕は“問題”に遭遇する。
「ねぇ、どーなのよ!」
「ちょっと、口の一つくらい開けないの?」
「そうよそうよ、言え言え!」
「何よ、その通りですから口も開けないですって言うの⁉」
……あっちゃー、だ。彼女、かなりの問題児だったらしい。まあ、想定はしていたんだけれども。
四人の
さて、と。このクソみたいな状況、放って置くべきか否かが問題かな……!
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