第9話「奇襲の秘訣は衝撃力です」
……途轍もない衝撃が、僕らと共に施設を揺らす。そしてそれと同時に、下の方から何かが爆発する事が聞こえてきた。ここは4階のはずだが、かなり音は大きかったように思える。
「うぉっ⁉︎ な、何や!」
「ちくしょう、大丈夫ですか組長!」
「っ、何なのよ⁉︎」
「この音……! 皆、戦闘準備だ! たぶん
場にいたほとんど全員が、突然頭を横殴りにされたかのような衝撃と爆音のせいで判断力を一瞬失う。しかし、ある1人の男だけは違った。目の前の彼……タケフミだけは。
そして彼の次に僕は判断力を取り戻し、周囲を確認。柱や壁にヒビはないし、建造物自体に被害は出ていないようだが……しかし、1階にいた人間には間違いなく爆発で大きな被害が出ているだろう。
VIPは大丈夫なのか、敵の戦力はいかほどか……考えることが多すぎて頭がパンクしそうだ。そんな焦りが、声にまで出てくる。
「く、僕らが来た途端にこれか! 情報が漏れてるんじゃないのか⁉︎」
「いや、それは違うぞルース! もし情報漏れがあったのなら、私達の到着より前に仕掛けてきたはずだ。だが現に今、ここには私達がいる!」
「なるほど、道理だな! それじゃあ早速、仕事するかな!」
……まあ、ごちゃごちゃ言っていても始まらないというのは確かなことだ。とりあえず、やるべき事をやろう。
そのためにまず弓の入っていた箱からナイフのシースを取り出してズボンの左側に突っ込むと、すぐに窓の方へと駆けて顔をガラスにくっつけて眼下に陣取る出入り口付近の敵を確認。
……とりあえず真下には作業服を身にまとった手ぶらの歩兵が2名と、敵が乗ってきていたであろう非武装の大型トラックが1両だな。当然ながら屋内には相当数の敵が突入してきている事請け負いだが、逆に言えばここはもうあまり敵がいないだろう。
となれば、このタイミングこそが攻撃の好機。機を逃さないためにも僕はいったんハンドガードから手を離し、空いた左手で窓を開ける。そして降下のために左足を窓枠に乗り上げさせ、身体を前に倒し……その直後に後ろから聞こえてきた声で、僕は動きを止めた。
「ちょ、ちょっとルース! アンタ着任早々自殺でもする気⁉ わかってないようだけどここは4階よ! 落ちたら足が折れるだけじゃ済まないのよ⁉」
何やらかなり焦った様子で後ろからそう言って来たのは、さっきまで組長と話していた姉御だ。
……まあ確かに、高度はあるな。しかしまあ、方法さえ間違えなければ問題のない高度でもある。無論僕とて、なんの策もなしに4階から自由落下をする訳ではない……が、別に彼女が飛ぶわけでもないのだから丁寧に解説をする必要もなかろう。首を右に回して彼女に目線だけ送り、僕は姿勢を変えることなく言葉を返す。
「姉御、ここの真下は出入り口だ。見える敵は2人しかいないから、ここで降りれば1階の敵の不意をつけるはずだよ。」
「いや、そういう問題じゃなくて……! ってか大体、その場所から銃で狙えないの⁉」
「できるけれど確実じゃない。僕は戦闘をしようとしているんじゃなく強襲をかけようとしているんだから、奇襲性が失われる行為は御免被る。というわけで、僕はここから降ります。」
「ちょ、ま……! 靴下、靴下のまま降りるの⁉」
……このままでは面倒くさいし敵に気づかれる恐れもあるから、ここで話は終わりだ。僕は一旦前を向いて深呼吸をし、左手で上の窓枠を掴みながら身体の向きを反転。そして室内に残っていた右足も引き上げて窓枠を踏み、落ちないように注意しつつ足を室外へと出してやる。そしてこれによって、僕は伸ばした左手だけで身体を支えて宙ぶらりんになっている形となった。
……おっと、いけないいけない。最後にもう一度彼女の方に顔を向け、言い忘れていたことを一つ伝える。
「……じゃあ、行ってきます。押し付けるようですけど、VIPはよろしく!」
「え、えぇ⁉ ちょっ、待っ……」
姉御の驚いたような声を前から受けつつ、僕は窓枠から左手を離す。すると一瞬だけ浮遊感が来た後、ハイスクールで習った物理法則と同じように重力に引かれて地面へと真っ逆さまとなる。
「おっほぉ……!」
しかし、焦ることは何一つない。すぐさま僕は下を向く。そして落下速度が上がりすぎないうちに、真下を通っている大きめの排水管を肉眼で補足。そうしたらちょいと腕を壁側に寄せ、もう一度ゆっくり手を開いた。
……そして、排水管の来る位置に置いておいた手に、まるで全力走行中のF1カーの衝突のような衝撃が来る瞬間。僕の耳に、降下してきた肉の塊による衝撃に耐えきれず塩ビ管の一部が破損する異音が入ってきた瞬間。僕はすぐさま手を握り込み、衝突した物体を離すまいと力ある限り踏ん張った。すると2階層分落下の勢いは排水管への衝撃となって減衰され、一気に降下速度が下がる。
……しかし、もう一度落下は始まった。掴んでいた排水管が折れたのだ。しかも今度は、折れた排水管を掴んでいるせいで空中ブランコ状態である。流石に危なすぎるのですぐに用済みの排水管から手を離すと、今度はまあまあの落下速度で更に下にあった管を掴む。とりあえず、これで一旦安全だ。
……しかし僕は、また宙ぶらりんになった。更に、面倒な事態にも発展する。
「⁉ おい、何が……! 何だ!」
「何の音だ、今のやばいぞ! 原因を探せ!」
幾らこんな真っ昼間に襲撃を仕掛ける馬鹿な敵であろうとも、流石にここまでの音には気づいたか。下の男たちは2人してアホのように周囲をきょろきょろと見回した後、最後に僕の方を見てから指をさしてきた。
「おい、あいつだ! 排水管にぶら下がってる男!」
「上の排水管が1つ潰れてる、あいつは上から落ちてきやがったんだ! なんて奴だ……!」
しかし、これに関してはもう遅い。最初から右手でしっかりと掴んでいるトンプソンで狙いをつけ、振り子のように少し照準と身体を揺らしながらもフルオートで45口径をばら撒く。
「なに……ぐぁあっ!」
「がぁああああっ!」
右肩に衝撃は流れ、照準が狂いに狂いまくる。だが、それもあってか弾が広範囲に当たったことで敵は2人とも死んでいる様子だ。
そうして安全確認終えて高度を確認してみると、もう既に一階層分の高度くらいには落ちていた。というわけで、そのまま地面に落下。着地の際には足裏、 ふくらはぎ、太もも、ケツ、背中、肩の順……俗に言う“五点接地”で着地。だがそれでも衝撃は抑えきれず、トンプソンを落とした。
……まあいい。とりあえず、見上げつつもう一度深呼吸。そしてそうしていると、上から何か小さな声が聞こえてきた。
「……! っちょ、ウソでしょ⁉ アイツまさか、本当に4階から飛び降りて……⁉」
「姐さん、そんな事あいつがする訳ないでしょ? 下見りゃわかりますよ、窓の外御覧なさいな。」
その質から考えて、恐らく姉御とタケフミだな。どうやら彼ら、僕が4階から降りたのがまだ信じられないらしい。しかし、これは現実だ。条件さえ揃えば、やりようはあるという訳だな。
……まあ、地上10数メートルとのおしゃべりを楽しむ時間もない。すぐにトンプソンを拾って弾倉を入れ替えると、僕はビルの入口の方を見ていた。
一応鉄製だったはずの薄いドアは本来あるべき場所とはかけ離れた場所に中央が大きく凹むような形で落ちており、本来それがあったはずの所の壁は血糊と爆炎の黒ずみで赤黒い感じに変色している。
路肩爆弾系のような“
……さて、それでは今から本格的な撃ち合いだ。ケツの穴締め、気は引き締め、ハンドガードは握りしめ。そんな具合の感覚で、僕は1階のドアをくぐり抜けていく……。
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