【1000pv達成!】最強マフィアの死神共よ、ヤクザの娘(美少女)を救え!……あっ、ついでに世界の方もお願いします。
おにいちゃんです
第一章 第一幕「死神共は悪夢を見た」
第1話「シチリア島は今日も平和です」
……青い海、真っ白な砂浜、そして一点の曇りもない青空。これぞまさしく、理想的な海日和……と言いたい所だが、刺すような暑さで照りつける太陽はそれを許してはくれないようだ。
ここは、イタリア半島の西南部。そして眼前に広がる地中海に浮かんでいる中でも、最大の島。パレルモを州都とする、シチリア島……の、端っこである。
「お客様、こちらがご注文の“
「……
ここに限らず、このイタリアという国は往々にして暑いものだ。しかし地中海という注がれた熱湯を受け止めるボウルの一部と思えば、この熱さも当然か。
そんなわけで、僕はこうして涼しい店内で冷たいハニーレモネードを受け取る。そして代金と共にチップを支払うと、すぐに店の外のテラス席に出た。
……眼を覆っていたサングラスを頭の上まで動かし、眼前の街道を渡った先にある海岸を見つめつつ、ゆっくりとグラスに氷の音を響かせる。
甘味と酸味の混じったレモンの味わいを愉しみつつ耳を澄ましてみれば、聞こえてくるのは風の音。そして、それに運ばれてくるのは親子の楽しげな声、或いは談笑する男達の声か。
「……ここは、良い所だ。本当に。」
やはり、我々の故郷たるシチリア島は、例えいついかなる場所であっても美しくなくてはならない。
「僕も、少し海に入ろうかな……いやでも、服を汚すのはちょっと、な……」
……僕が今着ているこの服は、防弾仕様の特注品だ。
かなり高密度のケブラー繊維からできたスーツで、弾丸を防ぎ止められるだけの防御能力がある。そしてその素材でできているのは上だけじゃなく、下もそうだ。
だから、僕が仕事をする上で一二を争うほどの重要アイテムだけれど……当然これは服であるから、汚れたら洗わなきゃならない。そして、そうなると仕事に支障をきたす。
とはいえ、白い砂浜に点々と存在しているパラソルやその下で楽しんでいる観光客や地元の人たちを見れば心の一つや二つは惹かれるものだ。
「……いや、よそう。一応僕は、仕事で来ているわけだからね。というか、ここも集合場所だし。」
……なんて独白を口にしていると、視界の端に黒いスーツを着た大男が映る。どうやら、漸くのご登場らしい。
近づく足音。面倒だとは思いつつその方向に向き直ると、もう男は店の入り口付近にいるようだ。そして僕を見つけると、すぐに近づいて呼んで来た。
「失礼します。ミケーレ・カナヤマ様、お待たせいたしました。」
「いいや、そう待ってはいないよ。だけど暑いし、早く話を終わらせてさっさと帰ろう。
それで、今回は誰を殺せばいいんだい? やっぱり、敵対マフィアの人間かな? それとも公的機関の人間……いや、誰かのお礼参りというのも考えられるのかな?」
「……いえ、今回はそのようなお話ではありません。」
「え、えぇ? じゃあ何で僕が呼ばれたんだよ。」
「そのお話に関しましては、私ではなく幹部の……」
……と、黒服の男がそんな事を言ったのとほぼ同時。聞き覚えのある声が、耳を刺した。
「やあ、兄弟!」
「……フェデリコ? フェデリコ・ジュリアーノ、なのか?」
その声の方に顔を向けてみると、やはり我々の旧友であるフェデリコ・ジュリアーノの顔が見えた。数年分の老けこそあるものの、やはり彼の顔である事に違いはない。それに、雰囲気も彼を思わせる陽気なものだ。
……僕と彼は、ほとんど同期だった。時には共に仕事をし、時にはぶつかり合いながらも成長し合った仲だ。といっても、その方向性は全くの別物だが。
「そう、俺だよ! 懐かしいな、ミケーレ・カナヤマ!」
「おぉ……! 久しぶりじゃないか、兄弟!」
感極まった僕は、そう言ってからすぐに彼の方に駆け寄って軽く抱き合う。少し年齢差や身長差はあるが、例えその目線が合わなくても心は通じ合うもの。彼の方もまた手を広げ、二人で喜びを分かち合った。
そして離れるやいなや、少しばかりしどろもどろになりながらも必死こいて心の奥底から湧き上がるものを言葉にしようと舌を回していく。
「フェデリコ! 数年ばかり経ってずいぶん出世したなぁ! 聞いたよ、幹部になったって話!
君はかなり頭が切れる男だったから納得はできるけど、それでもやっぱり凄いじゃないか!」
「お前もだ、ミケーレ! お前の名前を聞かない日はないぞ、凄腕のヒットマン!
やっぱりお前には才能があったんだよ、そうでなけりゃ俺がお前を呼ぶ事なんてなかったさ!」
彼も彼で、僕と話したい事は山ほどあるようだ。しかしそれに気づいた少し後に、彼の言葉もあって僕は本来の目的を思い出す。そして、話を切り出した。
「君が僕を呼んでくれるとは、嬉しい限りだよ! 今日の仕事は何だい? 君のためなら、タダでだって引き受けるさ!」
「おいおい、落ち着いてくれよ兄弟。分かった分かった、今すぐ話すよ。
……ふぅ。それではこれより、“ミセス・ブラークス”幹部のフェデリコ・ジュリアーノとしての命令を伝える。」
彼はそう言うと、ほんの数秒前まで陽気な雰囲気をまとって明るく会話をしていたとは思えないほどに暗い雰囲気をその身に纏わせる。どうやら、彼も彼でかなり成長したらしい。
僕の方もその気迫に思わず押されつつも、仕事の方へと頭を切り替えてサングラスをかけ直す。そして黒服の男がどこかへ行ったかと思うと、フェデリコはこう告げてきた。
「まず初めに言っておく。この命令は、お前が受ける中でもかなり特殊だ。通常では、お前のような人間には任せることはない。例えどれだけ優秀で、どれほどの実績を重ね、そしてどれだけその名が知れ渡っていようと、結局お前はただのヒットマン。それ以上でも、以下でもないのだからな。
といってもその事に関しては、裏切り裏切られる関係性の最中にいるお前が一番良くわかっているだろうから、俺の口から何度も言う気はないが。」
「……御託は結構です、フェデリコ。何を殺すのか、何を消すのか。それさえ言って頂けるなら、ヒットマンが他に求めるべきものはない。さあ幹部様、ご命令を。僕が銃口をどこに向ければいいか、ご教授ください。」
……なんという事はない。まあ大方、少しばかり難しい任務といったところだろう。普通のヒットマンではできない仕事で、だからこそ彼は直々に僕に命令を下しに来た。そう考えるのが、やはり一番論理的だ。
その、はずだったんだ。理論の上では。
「おいおい、特殊な仕事だと言ったはずだぞ。お前が今回行う仕事は、厳密に言えば殺しじゃない。殺しはオマケ、本題は別にある。」
「……ヒットマンはヒットマンだ、と言ったのはそっちのはずだ。それに、僕だって自分が何者かはわかっているつもりだよ。専門外なんだ、そういうのは。」
流石に殺しの専門家に護衛をやらせに来るなんてのは想定外だったもので、僕はあまりに驚いてしまって上下関係を少し忘れた物言いになってしまう。
しかし、それも仕方のないことだろう。ヒットマンに護衛をやらせるなどという行為は、レストランのコックに釣りやら狩りやら農業をやらせる事とそう違いはない。ありえないから覚悟しろとだけ言ったって、人間には想像しうる限界というものはあるものだ。特に、僕のようなプロにとっては。
「その辺りの理由に関しても話しておきたいが、場所が悪い。移動するぞ、一旦俺についてくるんだ。」
と、事態を飲み込みきれていない僕を尻目にフェデリコは海岸の方へと歩きだす。みると、黒服の男もすでにそちらの方に歩き始めていたようだ。
……まあ、ここで悠長に話していると一般人に聞かれるというのは確かにそうだ。僕らの仕事は普通に暮らしている人々にとっては迷惑極まりない行為だろうし、通報やら何やらで面倒になる可能性も高い。
そして何より騒音のない所でゆっくりと話ができるに越したことはないだろう。少し面倒だが、仕方ない。僕は色々と少しばかり割り切りつつ、彼らに付き従って歩き始めた……。
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