第1話 彼女は初めての
「彼女が本格的な活動を始める。そうすれば、
「....了解。」
ーーー
「聞いた?今日から戦闘部隊に配属された女の子、十九歳でS級隊員なんだって!それに凄い美人だって男性隊員達が騒いでたよ。」
「戦闘部隊の女性でS級隊員って初めてらしいよ〜?凄いよね〜。」
「男に媚び売ってS級にしてもらったんじゃないの?」
「ブフッ!!!ちょっとそれ言い過ぎ〜!!」
嗤笑の声が響き渡る城のような建物内の長い廊下で三人の女性隊員がとある一人の少女の話で盛り上がっていた。そんな三人の後ろを、毅然とした態度の少女が長い髪を揺らしながら通り過ぎた。
彼女こそが、噂話の張本人の少女である。
「何あれ、見向きもしなかったねぇ!」
「まぁ、こんな話ししてるウチらに愛想振り撒かれても困るけどねぇ〜。」
少女はそのまま女性隊員達に見向きもせずに長い廊下の先へと歩いて行ってしまった。
少女が暫く歩いていくと、“戦闘部隊隊長室”と書かれた札の掛かった一つの重厚感のある扉の前で立ち止まった。
軽く深呼吸をし、ゆっくりと扉を叩くと、
「どうぞ。」
中から男性の声が聞こえた。
「やぁ、いらっしゃい。」
扉を開けるとそこには椅子に腰掛ける髭を生やした、年老いてはいるが筋肉質で貫禄のある男性と、その男性の向かいに立っているお団子ツインテールの人形のような幼い顔立ちの少女の二人がいた。
部屋の内観はまるで学校の校長室のようだ。
「今日から戦闘部隊に配属されました。
二人に向かい、頭を下げる。
先日、走行中の電車内でメドゥーサが出現した事件。だが、停車後八咫烏戦闘部隊員が乗り込んだ際には既にメドゥーサが退治されており、なんと退治したのは一般人の少女だったという話は、隊内で大きな話題となった。
そして、メドゥーサを退治したその現場で、莉瀬は隊員から八咫烏へのスカウトをされたのだ。本来、隊員になるためには一年間の訓練生期間が設けられるが、莉瀬は訓練生期間を省かれ、いきなり八咫烏戦闘部隊員として隊に入隊することとなった。
「初めて隊に来た時に軽く自己紹介させてもらったが、念の為もう一度。私の名は
年老いた男性、稔が自己紹介をし前に立つお団子ツインテールの少女を手で指す。入隊のスカウトをされた際、莉瀬は一度八咫烏基地を訪ねていた。その際に既に稔とは顔を合わせている。だが、少女と会うのは初めてだ。
「
先程までのミステリアスな雰囲気と打って変わり、突然満面の笑みで莉瀬の手を取る少女、彩葉。印象の変わり具合に莉瀬は動揺で言葉を失う。
八咫烏には上からS、A、B、C、Dの階級があり、強さや活躍によって階級は決まる。入隊当初の階級分けでは、A級以下になる事が殆どだが、莉瀬は入隊時から、そして女性戦闘部隊員初のS級隊員として入隊したのだった。
「藤白さんには今後彼女、蓬田さんと今日は別の任務で顔合わせが出来なかったがもう一人、沖永くんと三人で班を組んで動いてもらうことになる。八咫烏戦闘部隊は常に二人か三人一班で行動してもらうようにしているのでな。」
「は、はい。」
一人で任務にあたるものだと思っていた莉瀬にとっては想定外の出来事だ。いくら同性の同い年と言えど、初日から知らない者と班を組まされるのはなんだか緊張する。
「戦闘部隊って女の子が少ないから嬉しいっ!仲良くしてねっ!!」
それに彩葉の明るい性格は莉瀬とは真反対だ。未知の性格の相手。どう接していいのかすら分からない。
「これが君の隊員証と、隊服、そしてターシェと呼ばれる、八咫烏支援部隊作成の耳につける通信機器だ。休暇の日以外は常にこれを着けるように。後のことは蓬田さんに頼んでいるから、彼女から色々と教えてもらうといい。」
「....ありがとうございます。」
机の上に置かれた八咫烏の隊員が身に纏う、一般市民の憧れとも言われる八咫烏の紋章の付いた黒い隊服、耳にかける通信機器“ターシェ“、そして莉瀬の顔写真が貼られた手帳型の隊員証。それらを手に取り、大事そうに両手で抱える莉瀬。すると、稔が真剣な顔付きで話し始めた。
「本来八咫烏に入隊する際は、一年間の訓練生期間が設けられる。だが、君は例外だ。成宮くんの推薦での入隊だからな。」
「え?!あの情報部隊の?!」
稔が挙げた
だが、彩葉に話を遮られた稔がわざとらしく咳払いをし、話を続ける。
「とはいえ、推薦だけで訓練生期間が省かれることが決まった訳では無い。君の強さを十分に理解した上での決断だ。....訓練生期間を省かれる隊員は極めて稀であり、君は女性初のS級隊員。言われなくとも分かっているとは思うが、成宮くんの推薦を受けた立場として、訓練生期間を省かれた立場として、規律正しく生活し、きちんと職務を全うして欲しい。」
「....はい、分かりました。」
成宮蓮の名前を出されてから明らかに莉瀬の顔が曇っている。それに気づいた彩葉は早く話を切り上げようとうずうずしていた。
「後はこれから私が色々説明しながら、寮を案内するから、行こーっ!隊長、失礼いたしました!」
稔の話が一段落したところで彩葉は強引に話を終わらせ、莉瀬の手を引き戦闘部隊室を後にしようとした。
「蓬田さん。明後日の藤白さんの任務についても説明しておいてくれるか。」
「はーい!」
「....失礼いたしました。」
こうして二人は隊長室を後にし、八咫烏の隊員が住む寮へと向かった。
「ふぅー、入隊してしばらく経つけど未だに隊長室入るの緊張するんだよね〜。あの人、貫禄あるしぃちょっと怖いよねぇー!」
戦闘部隊長室を後にすると、彩葉は直ぐに莉瀬の手を離し、並んで廊下を歩き始めた。
友達のような距離感で少し馴れ馴れしく話しかける彩葉だが莉瀬はぼーっと床を見ながら歩いており、彩葉の話は耳に入っていない様子だ。
「....ね、ねぇ、聞いてもいーい?」
「えっ、あ、はい。」
はっと小さく息を漏らし、顔を上げ彩葉の目を見る莉瀬。一体何を聞かれるのか、と顔が強ばっているのが彩葉にも分かった。
「え、えぇーっと....、莉瀬ちゃんって何の能力持ってるの?!入隊早々S級ってよっぽど強いんだね!!」
この雰囲気の中、蓮についてを聞くほど彩葉はデリカシーのない人間ではない。そのため雰囲気を変えるべく、不自然ながらも能力の話に持ち込んだ。
「....能力操作です。」
ー藤白莉瀬、能力:能力操作
蓮の事を聞かれず、安堵した様子の莉瀬は答えた。
だが能力操作、と言われたものの彩葉は今一つピンと来ていない様子で首を傾げた。
「能力そーさ?」
「他人の能力を分析、無効化、コピーなどが出来ます。」
「なにそれぇ!一人でいくつも能力持ってるみたいな感じじゃん!すごぉ!じゃあじゃあ、私の能力も分析出来るの?」
「はい。」
あどけない瞳で莉瀬を見つめる彩葉。すると、莉瀬の目がパッと光り輝き、彩葉の体の周りに文字が現れた。能力を使う際、人は目が発光するものだ。
「能力は、雷。電撃や落雷などが可能。」
彩葉の体の周りに現れた文字を読み上げる莉瀬。
「わぁ!ほんとだ!合ってる!」
ー蓬田彩葉、能力:雷
「蓬田さんの能力も強そうな能力ですね。」
「えへへっ、ありがとうっ。私、こんな感じの見た目で背も低いから、舐められることが多いんだけど能力聞いたらみんなびっくりするんだよねーっ!」
確かに彩葉は莉瀬よりも十センチほど背が低い。そして、お人形のような可愛らしい見た目をしているため、初見の者は彼女が戦闘部隊所属だとは思わないだろう。
その後も、彩葉が能力や八咫烏についてなどの説明をしながら歩いていると、気づけば寮の敷地の前へと到着していた。
「さ!ここが寮だよ〜っ。男性寮と女性寮は建物が分かれていて、基本的に異性の寮には立ち入り禁止だから気をつけてね!」
「はい。」
寮の敷地内には広い芝生や、食堂、コンビニがあり、この敷地内だけで生活出来てしまいそうだ。そして同じ外観の建物がいくつも並んでおり、建物の側面に記された数字を見なければ、どこが自分の部屋のある建物か分からない。
「私たちは、あそこのA-2の二階だよ!」
そう言い彩葉は一つの建物を指さした。どうやら幸い、莉瀬たちの部屋は寮の敷地の出入口のすぐ側の建物内にあるらしい。
早速建物に入り、階段を上る。
「綺麗な建物ですね。」
「改装したり、増設したりしてるからね〜。」
八咫烏は数十年前から存在する組織だが、どの建物もそれなりに綺麗だ。流石国のトップの組織。どこも手入れが行き届いているらしい。
階段を上ったすぐ横に扉があった。そしてその扉には小さく藤白莉瀬と書かれた札が貼ってあり、その隣の部屋の扉の横には小さく蓬田彩葉と書かれた札が貼ってあった。
「隣同士の部屋なんですね。」
「うんっ!今日からよろしくね!莉瀬ちゃんっ。」
「はい。」
彩葉は莉瀬と過ごすのが嬉しいようで、弾けるような笑顔を見せる。その純粋な笑みに莉瀬もぎこちない笑みを返した。
藤白莉瀬には夢がある。それは“メドゥーサのいない世界を作る”というもの。今日からそんな莉瀬の夢を叶えるための八咫烏での生活が始まるのだ。
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