未來予測機
ボウガ
第1話
Bさんという地元で有名な美人と結婚し、婿養子となった証券会社勤務のAさんは、Bさんの地元ではひどい評判だった。休みや休日は遊び歩いているとか、借金がひどいとか、家ではBさんに暴力をふるうとか、Bさんは、よく顔を晴らして実家に帰ってきていた。
実家に尋ねてくるときは変なところは何もないものの、やはり、Bさんの話にきく彼の素顔をきくと、内心親も近所の人もびくびくものだった。
ある時、Bさんが大病を患い入院すると、人々のイメージはずいぶんかわったものになった。献身的な介護と、自宅へ戻れるときには美しい花々をみせたり、庭でずっと話しかけたりしていた。そうすると決まってBさんは笑って
「私が間違っていたわ」
と意味深な言葉を口にして泣いた。
その姿と娘のやせほそりかわりはてたすがたに、母親は胸をいためていたが、Bさんの父はずいぶん前に他界していたため、強く問う事も出来ないでいた。
それからしばらくしてBさんはなくなった。母親は、その時からAさんの狂気が自分に無垢のではないかと思い続けてきた。AさんとBさんの間には子供がいたし、その子をどうにかして引き取れないかとおもったいた。
しかし、なせるすべもなく、地元で有名な少し高い依頼料をとる拝み屋を訪ね、娘の傷の原因や、将来のことなどを尋ねることにした。その話を聞いた母は驚き、そして泣いてその話を墓場まで持っていくことにきめた。またそれからしばらくの年月がながれ、今度はBさんの母が介護が必要なほど衰弱し、Aさんが付きっ切りになった。そのころには、義理の母はBさんに満面の笑みをうかべるようになっていた。
Aさんの賢明な介護のおかげか、それでもだめだったのか、3年1か月後に義理の母はなくなった。
Bさんの母の兄にあたる人が、その後、遺産相続なりの話とともに、ある手紙を彼女から渡された。墓までもっていく話だったが、彼にだけは伝えておこうと考えたのだろう。
手紙の中身はこうだった、あの拝み屋が話すことは、かつてBが顔を晴らしたり借金をしたりという話はすべてBが犯していた不義によるもので、別の不倫相手からうけたものだったという。BさんはAさんの生真面目な性格にはっきりとモノを言えず、その不満から彼の悪口をいいふらしていたのだ。
その中でも彼の気真面目さや融通が利かなさ、仕事があまりうまくない話だけは本当だったという。そして、拝み屋がいうには、未来自分が彼に介護を受けることになる、それで寿命が縮まるが、老人ホームなどに預けるよりは、短くて幸せな生活が送れるだろうと予言され、彼に介護されることを選んだ、と書いてあった。
「結果的に介護しない方が長生きをしたとはいえ、彼に与えられた恩はほんものだ、彼はたしかに生真面目で融通がきかない男だが、いい男だった、その物語のほうがお互ためだ、真実だけが人を救うわけじゃない、実際彼の悪評は、妻につくられたものばかりだったのだから」
誰にでもいうでもなく、その人はつぶやくと、いずれ老後をここで過ごすと彼が言い出した時には、彼に優しく接し恩を返そうときめたのだった。
未來予測機 ボウガ @yumieimaru
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
近況ノート
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます