第59話


「『クラウド』出発ー!」

「「「「「おぉーーー!」」」」」

「恥ずかしいからやめろ!」

 あれから事あるごとに『クラウド』の名を使うみんなに少ししつこいと感じるが、気に入ってくれたのだからと我慢する。

 今みたいなのは注意するがな。


「団長!」

「団長じゃない!」

「えー!じゃあなんて呼ぶのー?」

「普通でいいだろ」

「それじゃあつまんないよー!」

 つまんないだけでそんなふうに呼ぶもんじゃない。

「まあまぁ、いいじゃないか。おいおいな?」

「はぁ…普通に呼んでくれ」

 まぁ、そのうち飽きるだろ。


 ブラハムは軽快に街道を進んでいく。

 しかし山間に差し掛かった頃に人だかりができていた。

「どうしたんだ?」

「ん?そりゃ崖崩れだよ。この先通れなくて困ったもんだ」

 昨日の嵐が崖崩れを起こした様だ。

「とりあえずどうする?」

「回り道していくか?ダラーに寄って他のダンジョンも見てみたいしな」

「歓楽都市か。まぁ、それでもいいが道は分かるか?」

「王都まで戻るがな」

 ここで崖崩れの作業が終わるまで待っててもいいが、歓楽都市ダラーに行ってみるのもいいか。

「それじゃあ他の道を行こうか」

「そうですね!」

「歓楽都市か!なら魔剣伝説は知ってるか?」

「魔剣伝説?」

 ウリンがそう言うが、聖剣伝説なんて漫画かゲームのタイトルみたいだな。


「歓楽都市にあるダンジョンに魔剣が眠ってるって話だ」

「へぇ、それって見つかってるの?」

「いや、だけど古くからその物語が語り継がれてるらしい」

 魔剣か、ダンジョンなら探してみるのもありだな。

「じゃあ魔剣のこともあるし、とりあえず王都に戻るぞ」

「「「はい!」」」


 来た道を戻る。

 やはり行きと比べると少し疲れるが、みんなは後ろで『クラウド』のマークを考えている様で騒がしい。

 途中村に一泊し、2日目には王都に到着した。


「少し買い物していい?」

「あぁ、じゃあ俺たちは宿をとっとくからな?」

「了解」

「ですです!」

 女性陣は買い物に出掛けて行ったので、俺たちは宿にブラハムを預けると、昼飯がてら喫茶店に行く。


「なぁ、クラン作ったって言いに行かなくていいのかよ?」

 ウリンが言う。


「誰にだ?」

「『SOD』」

「別に関係ないだろ?」

「それなら別にいいけどさ」

 なにか含みのある言い方だな。


「どうしてだ?」

「ん?いや、言っとかないと知った時うるさいだろうなと思ってな」

「うーん、そうかも知れないが、わざわざ言いに行くのもな」

「それもそうか」

 ウリンも納得したので足を運んでまで報告するのはやめておく。


「何故報告に来ないんだ!!」

 アイズがそう叫ぶ。

 報告に行かなくても『SOD』のほうからやって来た。リミ達が偶然会って教えたらしい。

「何故?報告する義務はないが?」

「義理はあるだろ!ったく、これだから男は!」

「男は関係ないと思うが、まぁ、知ったのなら言っておく。『クラウド』と言うクランを作った。まだ8人の小さなクランだがな」

 これでいいだろ。


「ッ!…はぁ、こう言う男だったな。しかし何故『SOD』じゃなくクランを作ったのだ?」

「あー、俺が言ったら作ってくれた」

 ラビオンがアイズにそう言う。

「な!私よりこんな男が大事なのか!!」

「誤解を生みそうな言い方をするな!ただタイミングがあっただけだ」

 

「ふん!まぁいいだろう!そうだ、これは私事だがアイズではなく、アイズ・ランスになったので一応な!」

「あぁ、騎士爵だから苗字がいるのか」

「そう言うことだ」

 しかしランスなんて思い切ったな。


「すごーい、貴族なんだ!」

「凄い」

「ですね!」

「何言ってるんだ?ルシエなんて男爵を蹴ったんだぞ?」

「「「「「えぇっ!!」」」」」

 異様に驚くな。


「ん?言ってなかったか?」

「聞いてないよ!」

「初耳」

「いや、なんで断ったんだよ!」

「それは自由がなくなるからな」

 何故か全員ため息をつく。

「そうだよ、こう言うやつだったな」

「ま、まぁ、男爵なんてなったら私達もどうしていいか分からなかったしね!」

「男爵夫人」

「え、あ!もちろん私が第一よね!」

「違う、私が第一」

「な!じゃあ私でもいいじゃないですか!」

 リミ達3人は別のことで言い合っている。


「はぁ、じゃあ、話は終わりだな?」

「待て待て!ルシエ達は歓楽都市に行くと聞いたが、迷宮街には帰らないのか?」

「いや、帰るが?…あぁ、崖崩れで迷宮街に帰る道が通行止めになってな」

「そうそう、それで回り道して帰るんだよ」

 ウリンが補足してくれる。

「なんだ、それならばまた会えるな!またいつか会おう!」

「あぁ、またな!」

 ようやく帰ってくれたが、アイズは疲れるな。

「…凄い勢いだったな」

「だな。あれくらいないとクランは引っ張っていけないのかもな」

「いや、アイズは特別だろ」

 やはりみんなアイズに疲れてしまったようだな。


 さぁ、気を取り直して明日からまた馬車の旅だ。


 飯も食べ、後は寝るだけなのだが、

“コンコンコン”

 今日は誰だ?

「やっほ!私がやっぱり第一夫人だってさー!」

 リミが元気に入って来た。

「ほぅ、それはどうやって決めたんだ?」

「そりゃ、愛の深さ?」

「で?本当はじゃんけんか?」

「な、見てたの?」

 やっぱりそんなとこか。

「で、でもでも、愛の深さも一番だからね!」

「そうですンッ?!ンチュッ」

「へへ、やっぱりルシエとのキスは気持ちいいね!」

 ったく、可愛いな。

「さて、愛の深さを教えてもらおうかな?」

「いいよ、教えてあげる!」


 明日は寝不足確定だな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る