第20話


 さすがに次の日は休みだと言って部屋に戻り少し仮眠を取る。


 起きて下に朝飯を食いにいくと、ラビオン達がいた。

「ん?ダンジョンに潜ったんじゃないのか?」

「やはり緊張してしまったようだ。まぁ、急ぐわけでもないから10階層で帰ってきたよ」

 するとラビオンはニコリと笑い。

「それでいいと思うぞ!慎重なくらいがちょうどいいからな!」

 席に座ると朝飯にパンとハムエッグが出てきた。


 それを食べていると、みんなが下に降りてくる。

「ふぁ、まだ眠いわ」

「…わかる」

「ダメですよ、朝ごはんは食べないと」

 三人も席に着くとすぐに朝飯が並ぶ。


「おはよう三人とも、今日は休みだから」

「ふーん、それじゃ何しよう?」

「普通に休めばいいんじゃないか?」

 休みに休まないと疲れが取れないと思うが?


「えー!つまんないよ」

「ルシエの防具」

「あ!私も思ってました!いつまでそれ使うんですか?」

 レザーアーマーだが、ボブとの戦闘やここでの訓練で結構傷だらけになっている。


「ん?あぁ、そろそろ買い替えないとな」

「お前…それじゃダンジョンで早死にするぞ?」

 ラビオンにも言われる始末だ。

「いや、替えようとは思ってたんだが」

「じゃあ決まりね!ルシエの防具を見に行こう!」

 リミが言ってみんなが頷く…まだ使えると思うのだがな。


 迷宮街にはいくつもの防具屋があるのだが、ラビオンが教えてくれた防具屋に行くことになった。


 まぁ、どこがいいのかは分からないからな。


 大通りを少し奥にいくと鍛冶屋街になっている。

 やはり鍛冶屋街に入ると少し埃っぽく、鉄の匂いがする。

「確か『ブラウン』って鍛冶屋よね?」

「あぁ、そこに見えるのがそうじゃないか?」

「あった」

「だ、大丈夫ですかね?」

 ネイルが心配するのも無理ないな。

 今にも倒れそうな店構えだな。


「紹介状まで書いてくれたんだ。行くしかないだろ?」

「そ、そうね!」


 とりあえず入ってみることにして、扉を開ける。

「すいませんが、誰かいますか?」

 店には誰もいない…と思ったらいた。

「うぃ?なんじゃお前らは?」

「酒臭ぁ!朝から酒飲んでるの?」

「臭い」

「大丈夫?お爺さん」

 この酒臭い爺さんがラビオンの言ってた鍛治士か?


「これを預かってきた」

「ん?これはなんじゃ?」

「ラビオンからの紹介状だ」

 開けて見ることもせずにそのままカウンターに置いて酒瓶を口に持っていく。


「ぷはっ!ワシはもう鍛治はやらん!」

「は?なんで?」

「…関係ないじゃろ」

 確かに関係ないが、ラビオンの知り合いだ。

 …いちおう見ておくか。

 スキルツリーを見て見ると大量のポイントがあるのにブラックスミスのスキルツリーが途中で止まってる。


「はぁ、壁か…」

「…う、うるさいのぅ!!」

“ガチャンッ”と酒瓶を投げつけてくるので避ける。

「あんた何すんのよ!こっちは客よ!」

「うっさいんじゃ!ワシはもう鍛治はやらん!」

 はぁ、仕方ないか…


「アダマンタイト」


「な、なぜそれを…」

 この爺さんも壁を越える事がどうしてもできなかったのか。

「なぜ?」

「…高価なアダマンタイトじゃ、そう何度も手にできるもんじゃない。習得する為に金も時間も惜しまずやってみたが…」

「そうか…じゃあ、背中を押してやる」

 俺は爺さんのスキルツリーの『アダマンタイト加工レベル1』を習得してやった。


「…な、何をやった?!」

「アダマンタイトを買って来いよ」

 と白金貨を1枚渡してやる。

「し、白金貨?!な、何故じゃ、ワシなんかに」

「俺は背中を押しただけだ、あとは爺さん次第だ」

「…す、すまねぇ!これは借りる!」

 と言って外に出て行った。


「ルシエ?またやったの?」

「あぁ、俺にしかできない事だからな」

「ルシエがそれならいいけど…本当にいいの?」

「後は爺さん次第だな」

 俺は本当に背中を押しただけだ。

 これでダメならそれはしょうがない。


「か、買ってきた!」

「お爺さん!買ってきたはいいけど酔ってるでしょ?」

「こんなもんドワーフには問題ない!」

 背の低い爺さんだと思ったらドワーフだったのか。

「なら試すのか?」

「おう!久しぶりに燃えてきたぜ」

 と店の奥へと行ってしまった。


「今日は無理そうね」

「だな、また今度だな」

 帰ろうと店のドアに手を置くと、

「おう!なんか用事だったんだろ?」

 爺さんが出てきた。

「あぁ、レザーアーマーがもう限界近くてな」

「ならそうだな、あ、いいのがあるぞ!」

 と奥に戻り、出てくると黒いレザーアーマーを持ってきた。

「これは飛竜の皮で作ったやつじゃ、最初は硬いかもしれないが馴染んでくるはず」

 と俺に着せて調整してくれる。


「よし、こんなもんじゃろ」

「お、なかなかいい感じだな。いくらだ?」

「いらん!その代わり少し金は待っててくれ、すぐに返せると思う!」

「あぁ、なら貰っておくよ」

「おう!また来てくれ」

 爺さんはそう言うと店の奥に行ってしまった。


「ルシエ、似合うよ!」

「似合う」

「黒くてかっこいいですね!」

 俺もこのレザーアーマーは気に入った。

 動きにくいのは最初だけだろうから我慢するか。


「それに買えばそれなりにするでしょ!」

「だな」

 俺らは店を後にする。


 壁を越えてからの努力は爺さん次第だからな。


 俺はきっかけを作ったまでだ。

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