第16話


 王国には三つのダンジョンがある。

 一番大きく有名なのが迷宮街ブランドーだ。


 街道の先に街の門が見えて来て、ようやく目的地に到着した。

 門には長蛇の列で入るのに時間がかかり、ようやくブランドーに入る頃には夕暮れが色鮮やかに周りをオレンジ色に染め上げていた。


 日も落ちるので早めに宿に入ることにした俺たちは、ラビオン達に聞いていた宿に泊まることにした。

「お?」

「あ、ラビオンだ!」

「よぉ、久しぶりだな」

 と声をかける。

「遅くないか?どこかで寄り道してたのか?それに増えてるし」

「まぁ、色々あったからな」

 話を続けようとするが、

「先にやることがあるんじゃないかい?」

 宿の女将に言われて、慌てて部屋を取る。


「じゃあ、気兼ねなく話してな!エールでも持って来てあげるよ!」

「おばちゃん悪りぃな!」

 ラビオンはおばちゃんと言っていて、かなり親しいのだろう。


「他のみんなは?」

「あぁ、買い物だ。俺は留守番と一人酒」

 と言いながら酒を飲むラビオン。

「そうか、で?ダンジョンには?」

「まだ準備中だ。そう急ぐもんでもないし、それなりに準備して挑まないとな」

 ラビオンにしては慎重だな。

「そう言うお前らは?それと新顔の紹介してくれよ」

「あぁ、斥候のネイルだ。途中でパーティーに入った」

「へぇ、ルシエは女が絶えないな」

「そう言うのじゃないぞ?」

 まぁ、二人はそう言う関係だがな。


「あいよ、エールだ!お代はラビオンね」

「は?…まぁ、いいけどな」

 と片肘をつく。

「ラビオンゴチでーす!」

「いただきます」

「あ、私もいいんですか?ありがとうございます」

 三人は楽しげに席に座りエールを飲みだす。


「じゃ、乾杯」

「おう、乾杯」

 と小さな樽のようなコップで乾杯する。


 それからは必要なものやダンジョンでの決まり事なんかを聞いていると、他のメンバーも帰って来て大テーブルに移ると宴が始まった。


 Bランクパーティー、『ストロミー』

 大剣士ラビオン、盾士のワルツ、魔法使いアビー、斥候ウリンの四人パーティーだ。


「にしても、お前らがEランクってのは嘘だろ!」

「いや、まぁギルドに寄ることが少ないのは事実だが」

 ギルドに寄らないとやはりランクは上がらないしな。

「明日行ってこいよ?何ならついて行ってやるぞ?」

「いやいいよ、俺らは俺らでなんとかするからな」

 と周りを見るとみんな真剣に話をしていて、上位冒険者から何かを盗もうとしている。


「お前だけがお気楽だな」

「…そのようだ」

 リミまでアビーやワルツの話を真面目に聞いている。


「ここのダンジョンは50階層までと聞いたが?」

「そりゃ、どこで聞いたんだ?50以上あるぞ?」

「そうなのか?…勉強だけしててもダメか」

 ルシェールが勉強してたのはもう古いらしいな。

「ん?まぁいい、ダンジョンは今の所、最高で64階層まで行ったパーティーがいる」

 百も視野に入れて動くことにしないとな。


「まぁ、そいつらも荷物が底を尽きて転移陣で帰って来たがな」

「転移陣か、本当にあるんだな」

「あぁ、ちゃんとポイントだけは登録するようにな?」

「それはもちろん」

 ダンジョンには10階層毎にボスが出現してそれを倒せば後ろにある石碑で転移陣の登録ができる。

 登録することで次からはその階層から出発することができる。

 やはり異世界だな。不思議なもんだ。


「お前たちは明日から潜るとか思ってないか?」

「まぁ、準備が整えば」

「かぁー、だから素人はダメだなぁ!いいか?俺たちだけじゃなくて他の連中も死なない為にギルドで経験を積むんだよ」

 へぇ、ここで冒険者ギルドが生きてくるのか!

「なら明日はギルドに行ってみるか」

「俺がついて教えてやるよ」

「さっきは断ったが、いいのか?」

「ハハハッ!キーマンを死なせたくないからな!」


 と、宴もたけなわだが明日のこともあるので解散して、しばらくはここが常宿になるから一か月分を女将に前払い、そして自分らの部屋に戻る。


 次の日は朝飯を食べるとラビオン達とギルドに向かう。

「お、ストロミーのラビオンだぜ」

「アビーさんは今日も綺麗だ」

「相変わらずワルツはデカいなぁ」

「ウリン!俺のパーティーに入れよ!」

「やなこったー!」

 とウリンが返事する。

 本当に有名なんだな。


「さて、そんじゃ、自分に合った訓練を選んで受けろ。まぁ、斥候、近接、遠距離、盾役しかないからルシエは近接だな」

「じゃあ、私とアイラは遠距離ね」

「私は斥候ですね」

 ここはギルドであり訓練校ではないだろう?


「なぜこんなことが?」

「ん?あまりにも死亡者が多いからギルドがリタイア組を集めて講師として雇ってるんだ。為になるから受けといて損はないぞ?期間は一ヶ月だな」

「へぇ、そうか」

 そんな事もしてるのか、だがこれも経験になるなら受けないとな。


 俺たちは受付をして明後日から教育に参加させてもらう事になった。


 ラビオン達からはギルドを案内してもらい、訓練所や休憩場所など、あとはダンジョンの依頼などを見て回る。


「へぇ、ダンジョンに依頼なんてあるんだな」

「そりゃあるだろ?マジックバッグなんか喉から手が出るほど欲しがる奴は沢山いるぞ?」

「あー、そうかもしれないな」

 マジックバッグは収納に近い、バッグによって容量が違うが、数十倍の物を入れられるからな。商人なんかはこれがあるだけで運搬が楽になるだろう。


「運がいいな。お前ら明後日から訓練だな」

 期間が決まっている様で運のいいことに明後日から入れる事になった。

「そうだな、一ヶ月後が楽しみだ」

 一ヶ月の間は朝から夕方までみっちり授業が入ってるからダンジョンに行く暇はないだろうなぁ。


「よし!みんな頑張ろうね」

「うん」

「はい!私も斥候頑張ります」

 ダンジョンの立ち回りなんかを勉強するにはいいな!

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