地球の知識で外れスキルと言われたスキルツリーはチートでした。
あに
第1話
道行く人の全て他人。
俺は俺のことだけ考えて生きてきた。
そう、他人なんか俺には関係無かった。
「オラっ!あはは!コイツ泣いてんぞ!」
「あははは、いい歳したおっさんが殴られたくらいで泣くなよなぁ」
俺の目の前には派手な格好をした男が3人。
「ぐっ」
俺は殴られ蹴られて地べたを這うように逃げるが、
「はーい、行き止まりぃー!いいからさっさと金出せよ!」
派手な奴が逃げ道を塞ぐ。
「おっ!財布発見!」
握られた胸ぐらからこぼれ落ちる俺の財布。
「あ、ダメだ!」
「うるせぇよ!オラッ!」
気付くと仰向けに倒れていて、財布が腹の上に乗っているが確認する必要もない。
空の財布だろう。
「いだっ!っー…」
俺が何をしたって言うんだ…ただ目が合っただけの他人にここまでするか?
身体を起こして財布を確認すると札だけ抜かれていた。
カード類が無事だったから良かった…
まぁ、一万数千円だが俺が稼いだ金をこうも簡単に奪われてしまうなんてな。
派出所に行き、警察に相談すると相手の容姿などを聞かれたが、あまり当てにならないだろう。
「よろしくお願いします…」
派出所を出ると痛む身体でなんとか帰り道を歩いて行く。
俺の親はもういない。
残してくれたのは借金だったので相続放棄していまは血の繋がりは誰もいない。
本当に一人だな。
流石に小銭だけ持っていてもしょうがないのでコンビニに寄りATMで二万おろしておく。
「…たまにはいいか」
家に帰って食事を作る気にならなくて、弁当を買い家に帰る。
「…ふぅ」
ようやく自分の住んでるアパートに到着する。郵便受けから郵便物を取り出して部屋に向かう。
俺の部屋は2階の一番奥の角部屋だ。
「いてて、なんでこんな」
自分で擦りむいたところや切れたところを消毒し手当する。
「俺はこんなに運が悪いんだよ」
思えばいいことなんて一つもないような気がしてきて滅入ってしまう。
「はぁ、せめてこの腹の肉がなかったら、もうちょっと機敏に動けたかもなぁ」
と自虐的に笑うと缶ビールを開ける。
俺も今年で31歳…いい歳してカツアゲされるなんてな。
会社もブラックで今日もサービス残業だ。
そして住んでるのは小さなワンルームのアパート。
窓から見える月を見ながらそろそろ人生に幕を下ろそうかと考える。
「まぁ、いなくなって泣く奴なんかいないしな」
さてと立ちあがろうとすると部屋が揺らぐ。
「おわっ!」
俺は頭から倒れた。
…と言うわけで、運が悪い事に地震のせいでそのまま頭をテーブルにぶつけて死んでしまったようだ。
「で?なんで俺はこんなところにいるんだ?」
俺はちゃぶ台に置かれたお茶を啜る。
「だから何回も説明した通り、輪廻の輪から外れた貴方はあちらの世界では転生出来ないんですよ」
さっきから何回も同じことを言っているのは自称神様らしい。
女神と言われればそうなのかと思うほど美人だと思うが、ただそれだけだな。
「で?そっちの世界で転生するの?」
「そうではなくて、タイミングよく死ぬ予定の子になってもらいます」
「そこがよくわからないんだよ」
他人の身体に入るってことだろ?それはあまりにも都合が良すぎる気がする。
「簡単な事です。輪廻の輪に入って貰うために他人の身体で一回、生涯を終わらせます。そうすればこちらの輪廻に入れるのですから、他人になったら後は好きにすればよろしい」
この神も大概だなぁ。
「んじゃ、今までのそいつの記憶とかは?」
「もちろん必要でしょうからそのままですよ」
「…気味が悪い」
「しょうがないです。これは決まりですから!」
他人が嫌いなのに他人と融合と言ってもいいのか?するのはなかなかどうして嫌な気分だな。
「さぁ、拒否は認めないですからさっさと行ってください!」
「は?え?」
自分の身体が半透明になって消えて行く。
「ふぅ、これで一丁上がりです!」
目が覚めると目に入ってきたのは緑。
木々が揺れ、光が眩しくて手で覆う。
その手は赤く血で汚れていて、俺が死んだ時のことが鮮明に思い出された。
俺はルシェールと言う名前で、王弟、公爵の息子だが、スキルが外れスキルのおかげで出来の良い弟に決闘を申し込まれて殺されたんだっけ…
「はぁ、まぁ、レビンに殺されても仕方ないか」
レビン…弟には邪魔で無能な兄貴だっただろうからな。
まぁ、外れスキルを持つ兄はいらないと言われたらしょうがないけどな。
…と、前世?と言うかこの身体の本当の持ち主はそんな風に思っていたようだな。
「よっと!…へぇ、身体が軽いな。流石18歳と言ったところか」
俺は立ち上がり体を動かす。身体能力は高いように感じるし、何よりスマートな身体で甘いマスクのルシェールは女にモテていたのだから。
「俺と正反対の奴になったんだなぁ」
剣のスキルはなかったがなんとかものになるよう父親に扱かれていた。なので剣術は得意だが、レビンの聖騎士のスキルには敵わなかった。
まぁレビンも努力は認めていたようだが、このざまだからな。
血だらけの服は切り裂かれ、鎧も穴が空いている。刺されたのだから仕方ないが刺されたところは傷ひとつない。
「…まずはこの血をなんとかしないといけないな」
ここは森の奥になり、レビンに連れてこられた王都の外だが、よく通っていたので何処に何があるのかも分かっている。
湖に向かうと鎧と服を脱いで水に浸かる。
「冷た!っー…ふぅ」
暑い時期なのでちょうどいいが、湖の水に慣れるまでがちょっとあった。
血を洗い流し鎧や服も洗っておく。
近くの木に干しておき、また水に入って行く。
「あぁ、なんて気持ちがいいんだ」
自然に身を任せるのは気持ちが良いな。
「綺麗…」
「ん?」
誰かが来たようで立ち上がる。
「あ、え!その!水浴びしてるなんて思わなくて!す、すいません」
「あぁ、別に気にするな、それよりも後ろを向いていてくれるか?」
腰まで水に浸かっているのでギリセーフのはず。
「は、はい!」
と後ろを向く女は、格好からして冒険者なのだろうな。
さっさと切り裂かれた服を着て鎧はまだ干しておく。服を何処かで調達しないといけないな。
「悪いな。俺はルシェ…ルシエだ」
「わ、私はリミよ!色々とごめんなさい」
と振り向きざまに頭を下げるリミは、赤い髪を後ろで一つにまとめていて、顔を上げると可愛い感じの美人さんだな。
「リミは冒険者か?できれば俺も冒険者になりたいのだが、どうすれば良い?」
驚く顔をこちらに向け、リミは口を開く。
「え?ギルドに登録してないの?なんで?」
ファンタジーによくあるあのギルドか、そうだな。よく考えたらあることは知っていたな。
「登録はしてない。だが何処にあるかを教えてくれ」
俺はルシエと言う名にして、王弟の息子を辞めて気ままに暮らす事に決めた。
まぁ、別に目的なんかないのだからいいんじゃないかな。
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