お見合い婚

確かに変人だったけど

「休日は何をさr」

「あ。そーゆー上っ面な質問はいーぃんで。お互い本音で話しましょ？」

…………？お見合い中に何を言ってるんだ、この人は。

「今、カノジョさんとか好きなヒトとかいますか？」

「……………なぜ？」

「いるなら親御さんにちゃんと伝えた方がいいですよ～」

ああ。なるほど。

「好きな人ならいますが、もう結婚されてしまいましたから。いない、と言っていいと思います」

「え。告らなかったんですか？ヘタレなんですか？」

「ズバズバ言いますね？」

ちょっと失礼じゃないか？この女。

いやいや。

そもそもこんな状況になっているのは、今まで相手を作らないまま『仕事が忙しい』と、見合い話をのらりくらりと躱してきたからだ。

おかげで父さんの友人の娘と " 強制的に " お見合いをすることになってしまった。

そうつまり。自業自得。

いや、それにしても失礼だろう。

「えーっと？澤原さん…でしたっけ？」

「はい。なんでしょう、" キ " さん？」

「 " はねつるべ " です。確かに桔梗の桔ですけどw」

嫌味が効かない。KYだな。あほそう。

「じゃあ澤原さん。結婚しませんか？」

「は？？？？」

何言ってんの？この人？？

「え？いやいや。今日、初めましてですよね？」

「？はい」

「なのになんでもう結婚になるんですか？もっとしっかり考えませんか？」

「？？」

いや、わかる。

自分で言うのもなんだが、確かに僕はイケメンで、医師で、金もわりと持っていて、家柄も外面もいい。

だから今までも、よくモテた。

初対面で『お友達からー』とか、『キミの彼女になりたいー』とか言われることもなくはない。

ただ、初対面で『結婚しないか』は初めてだ。

よほど頭がおかしいのか。残念なのか。

「？？？ちゃんとしっかり考えてますよ」

「なら、なぜ、その答えに？」

きょとんとした顔で言われても説得力がない。きちんと説明してもらって、その上で論破して諦めてもらおう。

「澤原さんは働いてますから」

……

……………

……………………

…………………………………………

「？？？？？は？？？？？」

意味がわからない。

「いや。私もう三十路手前なんですね？で、両親が結婚結婚うるさいんで。ここらで一回結婚しときたいなーって」

「は？」

「で！ですよ？なんかうちの父親、ヘンな友達ばっかりでね？その人らの息子サン、会う人会う人みーーーんなっ。無職なんですよー！w信じられますー？w」

それまた難儀な。口には出さないけど。

「でぇ。そこに澤原さんですよ」

「はあ」

「やっと職に就いてる人だーって思って。もう二度と現れないかも知れないんで、逃さない内に求婚したわけです」

「そうですか」

ヘンな人だなぁ。

「ああ。別に愛し合いたいとかは思ってません。合わなければ離婚すればいいですし」

「人生の一大事をそんな軽く決めてしまっていいんですか？結婚ですよ？一生の相手ですよ？」

「んー…。一生、ではないと思います。夫婦というのは紙切れ1枚の出来あいの関係ですし。まあそりゃあ、互いの間に愛とか情がある方がいいんでしょうけど。一昔前なんて当人の気持ちとか置き去りでしたし、その辺はわりとどうでもいいです。そんなことより、自分がいかに楽に面倒事から逃げられるかが大事です！」

うわー…。曇り無き笑顔ー…。

確かに彼女の言う通りだとも思う。同意しなくもない。それに僕もそろそろ身を固めて、両親や親族からうるさく言われるのを終わらせたい。

でも、結婚となると別だ。

離婚というものは、世間からの悪評になり得る。我が家は考えが多少古い。離婚は認められにくいだろうし、怒鳴り込んでくるだろう。

「あ。離婚が難しいなら家庭内別居でもいいですよ？それもダメなら諦めます」

あ、配慮とかできるんだ。意外。

「そうですか…。……………………」

……………まあ…、いいんじゃないか？

「………わかりました。『契約婚』ということなら、喜んで」

「！ありがとうございます。よろしくお願いします」

こうして、僕たちは結婚することになった。

僕の奥さんは予想以上の相当な変人だった。

だから周りからはいつも

「なんであんなのと結婚したんだ」

と、言われる。

その問いに僕はこう返す。

「面白そうだと思ったから」