第4話 死刑は一日にしてならず

 さて、処刑を早めてサッサと殺してもらうと決めたからには、やる事は沢山ある。これから待ち受ける冷遇を拒絶せず、むしろ促進させる為にも、周りに流されるだけでなく俺からだって積極的に働きかけなくてはならない。死刑という大事を一日にして成し得るわけがないのだ。いや、いきなり国王の王冠ひっぺがすとかすればできるかもしれないけど……心の病と思われたら不敬罪止まりで死刑になれないので、これは確実ではない。なんにせよ、黙って手をこまねいているだけでは何もなし得ないのだ。


 手始めとして、先ずは今日の祝勝パーティーで俺はを実行せねばならない。まず手始めに大きく最初の1歩を踏み出すのだ。そしてただ今パーティーの真っ最中。決意も新たに、俺は無気力人間にしては珍しくも意気込んで、祝勝パーティーに参加し王からの祝辞に耳を傾けていた。死刑という目的の為なら、目の前の面倒事もある程度我慢ができるというものだ。


 俺の記憶が確かならば、今日は俺が企んでいる沢山不興を買おう大作戦に必要な、が訪れる。そのビッグチャンスを物にする為にも、俺は必ずやミッションをこなさなくてはならない。その瞬間を逃さぬよう、俺は油断なく虎視眈々と目を光らせていた。


「……最後になったが、今回の魔物の王討伐の立役者であり、王太子婚約者でもあるイーライ・フレネルに盛大な拍手を」


 長々と祝辞を述べていた国王の結びの言葉を皮切りに、広い大広間のあちこちから万雷の拍手が起こる。俺は一応王族の婚約者だからと上げられた高台の席から立ち上がり、予め教えられていた通りに拍手をしてくれた聴衆に向かって返礼をした。そのまま席には戻らず段取りに従って王の前に進み出る。玉座の前まできてそこに跪き深く項垂れると、国王が再び口を開いた。


「イーライ・フレネル。そなたの偉業を称えて、今ここに勇者の称号を授与する」

「身に余る光栄でございます」

「イーライよ。将来の義理の息子がこうして世の為人の為、身を粉にして働いて実績を築き上げていて、私はとても誇らしいぞ。また、我が王家の血に纏わり着いていた呪いを解き、我が息子であり王太子でもあるジェレマイアの健康を取り戻し、命を救ってくれた事も深く感謝する。際限なく湧き出る魔物の討伐に、終わる事ない王太子の呪いの看病と緩和、お前はよくよくこの国に尽くしてくれた。その忠誠心は他に類を見ない程だ。その忠誠心と献身に酬いる為に、私からお前に1つ褒美を与えよう。さて、なにか望みはあるか? 何でも遠慮なく言ってみるといい」


 これまでは呪い由来の体調不良なんかもあって厳しい顔つきで、滅多に微笑む事すらしなかった国王も、長年の憂いが晴れ、また偉業を成し得た勇者を身内に取り込めてニッコリ満面の笑みだ。ふむふむ、見た限りかなり上機嫌な様子。だが、そのいい気分も残念ながらここまでだ。予言しよう。その笑顔はこれから俺が口にする台詞で、呆気なく瓦解すると。


 国王の感謝の台詞を聞いた瞬間俺は、よし、来たぞ! この言葉を俺は待っていたんだ! と心の中で叫んだ。今しがた口にした言葉を、きっと国王は未来永劫後悔する事になるだろう。俺が魔物の王を斃したのが人類にとって希望溢れる新たな歴史の始まりなら、俺にとってはこここそが全ての破滅の始まりだ。


 為政者として普段から感情を表に出さないように訓練を積んでいる国王だったが、先程も言った通り慶事が重なり、今日ばかりはかなり浮かれているのが傍目にも分かる。普段なら慎重に言質を取られて後で自らに不利に働かぬよう『何でも』なんて脅されても口にしないだろうに、浅慮にもポロリと零してしまった事からもその浮かれ具合が透けて見えるようだ。これは一国の長として、かなりまずい失態だ。


 一人息子が健康になった事や、人類を脅かす存在が消えた事、そして人類史に残る大事を残す人間を自国から排出したのがそんなに嬉しいのだろうか? ひょっとすると、これまで何でも命じられるがままに何でもはいはいとこなしてきた俺なら、荒唐無稽で分不相応な願いなんてしやしないだろうと高を括っていたのかもしれない。確かに、今までの俺だったならそうだったろう。そう、……ね。


 なんにせよ、絶好の好機には違いない。この隙に付け込まない、いわれはないだろう。無理を通すなら今しかない。王の油断と、それに続く褒美は何がいいかというご下問。これぞ、好機と言うべき素晴らしいベストタイミングだ!


 相手が隙を見せたら、間髪入れずに攻め込み斃す。戦いにおける鉄則である。勿論、魔物を相手にする時だけでなく、国王を相手にする時も有効に違いない。待ちに待った絶好の機会なのだ。このときを逃してなるものか! 直答を許可されて直ぐ、俺は予め考えていたとんでもないものを、公衆の面前で国王に要求した。


「陛下、それならば俺は、魔法使いとして魔の王討伐に同行し共に戦った、ヨシュア・ベンデマン公爵令息殿を自らの愛人として所望します」

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