マザーク共和国戦線 4

夜が明け薄明かりが戦地を照らし出す中、マザーク市街地へと向かうランス国兵士たちの心は昂ぶっていた。

日の出とともに希望の光を背に受け、彼らは一丸となって進んだ。

彼らの顔には緊張が張り詰めていた。

幾度も足を止め、耳を澄まして周囲の音を探る。

心拍が速まり、胸の鼓動が耳の奥で響く。


突然、前方にかすかな光が見えた。

兵士たちは瞬時に注意を向けた。

光の源に近づくにつれ、次第に輪郭がはっきりとしてきた。

そこには、友軍の兵士たちが静かに佇んでいた。

彼らのシルエットが灯火の陰に浮かび上がる。


先に到着していたポルトットの兵士たちは、慎重に周囲を見渡しながらも、ランス国兵士の到着を待ちわびていた。


ポルポットの兵士の姿を確認した瞬間、遅れて到着したランス国兵士たちの顔には安堵の色が浮かんだ。

緊張が解け、肩の力が抜けるのを感じる。

優勢から一変、事態が急変した事を思い幾度も不安と恐怖に襲われながらも、ついにここまでたどり着いたという実感が胸に広がった。


ポルトット軍の一人が手を挙げて合図を送り、ランス国兵士たちは頷き返した。

言葉はなくとも、心の中には共通の理解が生まれていた。


「あれは、軍神!ポルトットの軍神がいるぞ!」

「おお...!」


身長は他の者に比べ圧倒的に高く、その立ち姿から只者ではないオーラを放つ彼は、戦場の英雄として知られていた。

一部では彼を「軍神」と呼び、その理由は多くの者が語り継いでいる。


数多くのマザーク兵が縄に結ばれ一箇所に集められていた。

ランスの兵士が戦況を確認するためポルトットの軍神に近づく。

「バルドル殿。此度は加勢いただき感謝いたします。既に制圧されていたとは...流石軍神ですな...」

沈黙を貫く軍神バルドル。

静寂が破られたのは、突然の伏兵の出現によってだった。


周囲の暗闇から矢のように飛び出してきたマザーク兵の姿に、

「伏兵だ!」という声が上がると同時に、ランス国兵士たちは素早く反応した。

長年の訓練と本能が、彼らを即座に動かしたのだ。

剣が鞘から抜かれ、盾が構えられた。

しかし、敵の数は多く、部隊は一瞬にして包囲されたランス国兵士達に緊張の糸が張り詰めた。

誰もが予期していなかったその瞬間、空気が凍りつくような静けさが訪れた。


ランス国の兵士たちは武器を手にしたまま、恐怖と絶望の表情を浮かべている。


廃墟から現れたコリンは深く息を吸い込んだ。

そして、力強く、だが冷静な声で言葉を放った。


「聞け、ランス国の諸君!」

彼の声は、周囲の静けさの中で鋭く響いた。

「今、君たちは完全に包囲されている。逃げ場はない。我らの兵は四方に配置されており、いかなる逃亡も無駄に終わるだろう。」


彼は一拍置いて、敵の兵士たちの顔を一人ひとり見渡した。

その眼差しは厳しく、しかし同時に冷徹な現実を伝えていた。


「しかし、無駄な血を流す必要はない。ここでの戦闘は無意味だ。我々はただ、君たちを無力化するためにここにいる。そして、それは君たちにとっても最善の選択だ。無抵抗で武器を捨て、降伏することを強く勧める。」


彼は一歩前に進み、手を広げた。

「降伏すれば、命は保証される。君たちが戦い続ければ、無駄な命が失われるだけだ。ポルトットの加勢により、我々の力は圧倒的。ここでの抵抗は無意味だ。」


彼の言葉に、周囲の兵士たちも静かに同意を示すように頷いた。

ランスの兵士たちは顔を見合わせ、次第に武器を下ろし始めた。

その行動に、コリンは再び口を開いた。


「その意志を尊重する。我々は君たちを無力化するために、必要な措置を取る。だが、命を奪うことはない。我々は敵ではなく、ただの兵士だ。戦いが終われば、我々は同じ人間であり、同じ空の下に生きる者だ。」

その言葉に、敵の兵士たちはついに武器を捨て、降伏の意を示した。


コリンは静かに頷き、仲間たちに合図を送った。

そして、彼らは敵兵を無力化しつつも、尊厳を持って対応した。


その日の戦いは、無駄な血を流すことなく終わりを迎えた。

そして、コリンの冷静かつ決断力ある対応は、彼の仲間たちにとっても、敵兵にとっても、忘れられないものとなった。


「あとは本陣の制圧だ。戦闘は避けられないぞ」

大きな矛を左手から右手へ持ち替え軍神バルドルはコリンに歩みより声をかけた

コリンは息を整え、バルドルへ堂々と言い放つ

「いえ、これ以上血は流させません」

軍神はコリンを見下ろし、侮蔑の目つきを向けた。


——————


彼の優しさの奥に潜む冷酷な目は、敵の心を折るための最善策を見据えていた。

マザーク陣営には多くの敵兵捕虜がいた。

彼らの存在を利用し、無駄な血を流さずに勝利を収めることを決意したコリンは、捕虜たちを集め、厳かに命令を下した。


「捕虜たちを国境へ連れて行き、そして、敵軍に我々の意思を伝えるのだ。」


捕虜たちは不安げな表情を浮かべながらも、コリンの命令に従い国境へと連れて行かれた。

戦場の空気は張り詰めていたが、マザークの軍勢は動きを止め、敵軍の出方を窺っていた。


コリンは高台に立ち、大きく息を吸い込んだ。

そして、敵軍に向けて声を張り上げた。


「敵兵諸君!よく聞け!ここにいる捕虜たちは、君たちの仲間だ。彼らの命は我々の手の中にある。今、我々は血を流すことなく戦争を終わらせることを提案する。」


コリンの言葉は戦場に響き渡り、敵軍の兵士たちは動揺を隠せなかった。

彼らの仲間が捕虜となり、その命がマザーク共和国の手に委ねられていることを知り、緊張が走る。


「我々はこの戦争に勝利を収めることができる。しかし、それには多くの血が流れるだろう。それを避けるために、我々は捕虜たちの命を担保に、無条件降伏を求める。我々が望むのは、無駄な命の損失ではない。君たちが降伏すれば、捕虜たちは解放し、君たちの命も守られる。」


ランス軍の指揮官は逡巡した。

その場での戦闘は避けられないと考えていたが、仲間の命を危険に晒すわけにはいかなかった。

指揮官は提案に応じることを決意しようとしていた。


しかし、そこへ国王の金魚糞と揶揄される男が声を上げた。

「ふっっざけるなあああ!!やれ!!やるんだよぉ!!お前ら誇りを見せろ!!!」

勢いに反して決して前には出てる事はなく、護衛に守れ矢が届くか届かないか距離も保っていた。


コリンは眉間にシワを寄せ、困惑顔を見せた。

「んだよアイツ。あんなとこから...」

シュアも呆れた表情を浮かべる。


この状況に軍神は黙っていなかった。

捕虜の前に歩を進め、大きな矛の柄を地面に叩きつけ咆哮する。


「喝ッ!!!」


空気が振動する。動揺するランス兵とボド。

「あれは...軍神だ...」

圧倒的威圧感を放つバルドルの姿に完全に戦意を喪失。

降伏の意を示した。


———


「ふーん。お優しいリーダーがいるんにゃね。それでここからが私の仕事かにゃ?」

「はい。よろしくお願いします。」

ミケはハニに持ちかけられた取引を遂行する為、動き出した。

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