死にたがり令嬢の嫁入り

水澤シン

Prologue-ある日の一コマ

「前世も実家も、嫁入り先ですらこんな扱いをされるくらいなら、いっそ死んだ方がマシだわ!」


『天性の悪女』『神殺しの聖女』

 そんな風に呼ばれている入嫁──ルーリエの叫ぶような言葉に、その場に居た誰もが目を丸くした。


「これを企てた“誰かさん”はよっぽど私をおとしめたいみたいじゃない。私さえ居なくなれば貴方達は、何の問題も起きない元の幸せな生活に戻れるんでしょう? だったらさっさとこの首を跳ねなさいよ!」


 吊り上がった強気な目をしているのに、出て来る言葉は随分と後ろ向きだ。

 だが何かに気付いた様子になった途端、キッと夫を睨み付けた。それから彼が持っていたノートを乱暴に取り上げる。


「勝手に読まないで! 本当に、私に対してはプライバシーなんてものも無いのね!」


 物言いだけを見れば、噂通りの『悪役令嬢』だ。しかし彼女の言葉には一つ一つに根拠も証拠もある。


「……確かに、ルーリエ穣が犯人とする確たる証拠は無い。今回のことは不問としよう。謹慎も解く」


 当主がそう言い、その場は解散となったが、ルーリエは不満気な様子だった。

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