風水僵尸・抱水(バオシュ)

第32話 福峰の街へ

 客桟やどに着いて早々に探路はベッドに寝かされた。


 だが、今回の症状はなかなか良くならなかった。その『普通ではない頭痛』にたいし、冽花たちができることといえば、賤竜の按摩ぐらいのものであった。薬が効かず、気には気で対抗するより他ないのだから。


「お前、後ろから見てたよな? どんな時機タイミングで探路がこうなったか分かるか?」


『先の蟲人が出現して以降である。頭をかかえ、呻吟しんぎんを漏らしだし……抱水バオシュの――』


 その一言を賤竜が口にした瞬間に、傍らの探路の呻きが高くなった。賤竜は口をつぐむ。


『かの水蛇すいだの出現以降だ』


 端的に告げると、彼はまた淡々と探路に按摩をほどこす作業に戻った。


 先の蟲人と抱水。この二つの要素が引き金となり、探路は倒れたことになる。

 冽花は顎を撫でさすり、唇を曲げた。


 ――抱水。抱水って……ここの風水僵尸のことだよな? 水を使うのが得意で、お偉いさんを手伝える凄い僵尸だっていう。で、あの蟲人……。


 ――探路って、この街の人間だったんじゃないか?


 口には出せないので、そう脳内で結論づけた。そして、探路の記憶には、抱水とあの蟲人が深い関わりを持っている可能性がある。


 しばらくすると、ようやく探路の容体は落ち着いた。といっても、気絶するよう眠りについたと言った方が正しい。痛苦に耐えかね、体力を使い果たしたのである。


 冽花は顎に手を添えたまま固まっていたが、その手をおろした。賤竜を見やる。


「賤竜、街に出るぞ。……妹妹、探路を見ててもらえる?」


『……いいけど。どうするの? 冽花』


 呼び声に応じて二つ返事で応じる賤竜と、冽花の体から現れ、探路の牀横に添う妹妹。二つの視線に頷きかえし、冽花は口をひらいた。


「飯を調達しがてらに情報収集と……あと、薬問屋を探してみようと思う。どの道、『水蛇』関連には手ぇつけなきゃいけなかったし――」


 下手に固有名詞を告げると、また頭痛を引き起こす可能性がある。念のため、ちらりと探路を見下ろす。大きな反応はない。一つ息をこぼすと、冽花は言葉を続ける。


「それに、やっぱりこの街は大きいから。ここなら探路に効く薬も見つかるかもしれない」


『そっか。分かったわ。気をつけて行ってきてね』


 再び妹妹へと頷くと、賤竜を促し、冽花はその場を後にしていく。


 向かうは大都市・福峰の雑踏である。客桟の者に一応の道を聞いてから、賑わいのなかへと繰りだしていくのであった。

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