第9話 皇帝ベイザー現る

王宮の庭園がよく見えるバルコニーで昼食をとる。きれいな青空とよく手入れのされた木々や草花がこころを安らがせる。……あまりにもいろんなことがありすぎた。こんなリラックスできるひと時を過ごせることに感謝せねば。


「アルさん……お疲れさまでした」


と王女リファイアはオレをいたわってくれた。


「王女さま……建国姫イリスはどういう方だったんでしょうか?」


憧れている人物だ、だからリファイア王女はまちがいなく詳しいに違いない。


「アルさん……イリス姫が気になるのです?」


とリファイア王女は聞く。


「はい、きっと庶民の伝承とは実像が違うでしょうから、なかなか聞く機会もございませんし、たずねております」

「アルくん……は、勇者レンだと思う。私もう確信している……」


とエリルは脈絡もなく言った。表情をみるからに嫉妬しているのが伺えた。

他の女の話を彼女の前でするとこうなることがあるが、まさか建国姫相手にそれは反則だろう。


「いや、村人だって」

「あのね……300年前から来たから忘れただけだよ?」

「だから、オレはレンの村で育った記憶がキチンとあるんだって! 妹だっているんだぜ」

「妹さんね……、それも確信の理由のひとつなんだよね!」

「どういうことだよ?」

「結婚式の時あったじゃん。私に敵意むき出しだったし」

「あいつは、ブラコンなだけだって」

「私、アルくんの妹のエルさんなんだけどさ……名前は似ていても、双子とは思えないぐらい……似てないよね?」

「そうかな? でも、スゴイ気が合うんだぜ? 喧嘩もするけど」

「……痴話喧嘩なんじゃないのっ?」

「は? ちょっと待てよエリル。あいつは妹だぜ、いくらなんだって」

「でもアルくん、エルさんには頭あがらないよね? ……私以上にっ」

「おい、オレの妹に嫉妬してどうするんだよ?」

「私知っちゃったの、朝王女さまから聴いて」

「何を?」

「300年後に行くのに、レンとイリスはその反動で若返っていき、最終的に、たどり着いたさきで赤子になっている可能性が高いんだって!」

「つまりなんだ、オレとエルが……、レンとイリスっていうことかよ?」

「うん、そうだと思う」

「つまり、オレとエルが……300年前に婚約していると?」

「そうだよね! 歴史が正しければ」

「いやいやいや、どういう歴史よそれ? 知らんしっ」


その時だ意外な人物が昼食に現れた。


「なんか、楽しそうだな? 仲間にいれてもらっていいかね?」


と。そちらを見ると、胸には帝国の紋章をつけた壮年の男がいた。

階級章は軍最高司令官を意味するものをつけている……こいつは。


「皇帝ベイザー、なぜ、お前がここにいる!」

「ははは、居たらわるいのかい? 穏便にたのむよ」

「失礼ですが、訪問の知らせを我が国は受けておりませんが……」


リファイア王女が問いただす。


「わがうるわしのエリルの君に逢いに来ただけだからなっ」

「おい、エリルはオレの妻だ!」

「まあまあ、そう怒らず……それは……知らなかったよ」

「どこからそもそも来たんだよ!」

「鏡から……といえばわかるかな?」

「語るにおちたものだ。古代魔法語が使えるのは300年前の存在であることを意味する。……魔王なんだろ? お前」

「アルくん……」

「なんだよ?」

「アルくん……やっぱり勇者レンなんだ……」

「違うって、ホントにそんな記憶ないから!」

「……君は勇者レンじゃないか! 私がいえば君は信じるかな?」


と皇帝ベイザーは言った。


「……アルさん、申し訳ないのですが、わたくしも、あなたがレン様であることを確信しております……」


と王女リファイアまで言うのだ。


「……あんまりだ。こんなのってありかよ!」

「アルくんは明らかに魔法戦士だよね?」


とエリルが言う。勇者レンは魔法戦士だったと伝えられている。


「そら、攻撃避けたよ、古代魔法語使えたよ? それだけじゃん!」

「……それだけって……じゃ、イリス様の肖像画そっくりの妹のエルさんは?」

「……肖像画なんてみてないし……イリス様の顔は記録ないだろうに!」

「アルさん、機密情報ですが、王宮にはあるのですよ……」

「そ、あるの。さっき私みてきたから!」

「まさかと思うけど、勇者レンの肖像画もあるのか?」

「……ありますね」


とリファイアが言った。


「他人のソラ似かと想いましたが、……イリス様そっくりの妹がいるとなると話は変わりますね……」


……マジかよ!

ってそうじゃない!


「おい、ちょっと話それているぞ! 皇帝ベイザー! お前魔王なんだろ?」


ということはやつが魔王であることも自明ということだ。

それに対して皇帝ベイザーはそれをあっさりと認め、意外なことを切り出したのである。

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