鳴けば、踊り

世界の半分

             *


鳥は鋭く、ピィと鳴いて見せる。

底も無い様な闇に響く音は、孤独を色濃く残していく。

森に響き渡る静寂。


雫が、葉の先から垂れて水溜りに落ちる。

音こそしなかったが、垂れるときに光を反射して輝くのが見えた。


また、鳥が鳴いて見せる。

鈴の音の様に静かでか弱く、なのに美しさを感じる艶のある声。


「煩(うるさ)いぞ? 少し黙らんか」


彼の手には、金色の細い針金で作られた鳥籠が一つ。

中には端と端を繋ぐように木の枝が置いてある。

途中で蛇のように曲がり、またある所は直線に伸びている。


其の枝の上には、青に近い緑の様な美しい鳥が居る。

尾はしなり、長く垂れている。その目は薄らと開き、心の内までも覗かれそうな翠(みどり)だ。


此処は、彼の世界だ。

他の誰の物でも無い。

彼だけの、彼の為の、たった一つの……



蒼(あお)い空が、地面に映っている。

鏡の様に磨かれた床は、青い空に暢気(のんき)に浮かぶ雲さえもはっきりと形を映す。


太陽は昇らない。

太陽が昇れば、必然的に其処には影が出来る。

此処は差別の無い世界だ。

光も、影も、差別が生まれてはいけない。


鳥が鋭く、ピィと鳴いた。

太陽の昇らない蒼い空に、翼を広げた鳥が一匹飛んでいく。

限りない蒼に響く音は、孤独を色濃く残していく。




花火が、上がった。

白い光が空中に放り出され、淡い赤や青の涙を散らせる。

其の前を、鳥は翼を広げて飛ぶ。

鳥が鋭く、ピィと鳴いた。

光の涙が創り出す花を背景に、鳥は鳴いた。

限りない悲しみに響く音は、孤独を色濃く残していく。



世界が、変わった。

少しずつ、色が抜けていく。


赤が、蒼が、翠が、闇が。


全てが白黒(モノクロ)の写真に閉じ込められた。


写真が世界を侵食していく。

記憶は劣化する、消える。


そんな中、鳥は鮮やかな軌跡を残しながら飛ぶ。

鳥が飛んで創り出す虹は、永遠と続くだろう。


鳥が鋭く、ピィと鳴いた。

彼だけの世界への、一つだけの架け橋。虹。    

                   

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鳴けば、踊り 世界の半分 @sekainohanbun17

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