ひまわり

王子

ひまわり

 初めてあなたの手に抱かれた日のことを、つい最近のように思い出します。

 昨年の晩夏、生まれたばかりの私は丸い布団の上でうつらうつらしていました。

 意識がはっきりしてきた頃。あなたの指先が私を優しくつまみあげ、新たな眠りへと誘う寝床に横たえました。長い長い時を暗闇で過ごしました。

 再び目を覚ますと、私の体はやわらかな水に包まれていました。春の陽射しを受けた水面は、不規則に揺らめく光の帯で輝いていました。水のぬくもりに、全身は少しずつほどかれていきました。

 水から引き揚げられ、外気を吸い込むと、自分の中に確かな生命の脈動を感じました。新たな生き方の始まり。暗く冷たい眠りから、眩く温かな目覚め。それは、まるで洗礼のようで。あなたとの蜜月は、こうして始まったのです。

 新居は温暖な土の中。あなたは毎日、足を運んでくれました。慎重に注がれる慈雨にはしたなく濡れ、愛される喜びに打ち震えました。ほどなくして芽吹いたその先端が、焦らすような指先に愛撫され、私はその痺れるほどの刺激がもっと欲しくて上へ上へと手を伸ばすのでした。

 いつしか私のそばに支柱が立ちました。それはあなたの背骨。手足を絡め、身をよじり、私の背骨は螺旋を描いてあなたに縋り付きました。

 背丈が太陽に限りなく近付いた頃、ミツバチの手助けもあり、私はついに花開いたのでした。あなたは慈しみに満ちた瞳で私の顔に指を滑らせ、手の甲に口付けをしました。ああ、この日のために生まれてきたのだと思いました。

 あなたはカメラを手にして、一枚、また一枚と、瑞々しく熟れた裸体を写していました。シャッターを切られるたび、身に着けたものを脱がされ、中身を透かされる心地がしました。軽やかな手付きで、私を覆うひだをめくり秘部を明らかにするように、小窓に収まる私をフィルムに焼き付けていったのでした。

 夏の灼熱にも劣らず燃え上がった日々が、まもなく終わろうとしています。花のほとんどが萎れ、体から潤いが失われていくのが分かります。労わるように首筋をさすられると、もう一度しゃんと背を伸ばしたくなるのですが、空元気を出す力も残っていません。

 ああ、どうか。私の残すたねを、私にくれた愛をもって育ててはくれませんか。あなたと私が結ばれていた証として、また咲かせてはくれませんか。

 黒く濁った眼に辛うじて映る、はさみを掲げるあなた。そう、その刃でこの花首を落としてくだされば、来年の夏、またお会いできるでしょう。

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ひまわり 王子 @affe

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