《新装・R15版》夜伽侍女が超絶鈍感を貫いたら、皇太子の溺愛が待っていました。

七瀬みお@『雲隠れ王女』他配信中

*————Prologue(1)




 美しい青年が寝台であぐらをかいている。

 月明かりが照らす蒼白なシーツの上で、綺麗に折りたたまれた二本の長い足がしなやかな曲線を描いていた。


 ラフなシャツにトラウザーズといった軽装だが、彼が纏う衣服のたぐいはどれを取っても一流の素材・仕立てによるもので、この青年がいかに高貴な身分であるかを知らしめている。


「おいで」


 低いがよく通る美声の主は妖艶な笑みを浮かべながら、膝と膝のあいだを長い指先でトントンと叩いて見せた。


 ——まさか、お膝のあいだに座れと……?!


 中庭の温室で初めて会ったあの日。

 噴水の縁に身体を預けたこの青年——カイル皇太子殿下——が、同じ仕草をした時のことを今でもよく覚えている。


 ——隣に座るだけでもあんなに緊張したのに。お膝のあいだに座るなんてハードルが高すぎます……っ


 セリーナがなかなか応じないので、寝台の上に鎮座する美貌の皇太子はアイスブルーの瞳に悪戯な笑みを滲ませながら大きく両腕を広げた。


「寝台の上で遠慮は無用だ。ほら、おいで?」


 ——ま、まじでやばいです。心が……《無心の心》が役に立ちません……っっ


「あの……後ろ向き……それとも向かい合わせ、に?」


 消え入りそうな声で問えば、「なんでもいいから早く来い」と若干の苛立ちを孕んだ声に一蹴された。


 このままでは世に名を馳せる《冷酷皇太子》を怒らせてしまう!


 セリーナはすっかり床に張り付いてしまった足を無理やりに引きはがす。

 怖気おじけずく気持ちを奮い立たせて片膝を寝台に乗せれば、セリーナの全体重を受けとめたマットレスがぎしり、と不穏な音を立てた。


 とたん、天蓋付きの巨大なベッドの真ん中であぐらをかいていたはずの皇太子の腕が伸びてくる。

 あっ、と声をあげる間もなく——セリーナの華奢な身体はたくましい腕の中に抱き寄せられ、気付けば美貌の皇太子の胸の中にすっぽりとおさまっていた。


 体制を整え、向かい合わせになって皇太子の膝と膝のあいだに座ると、形よく筋張った手のひらがセリーナの腰元に回される。

 そのままぐいっと腰を引かれれば、互いの胸と胸とが密着しそうなほどに接近した。


 ——距離が……きれいなお顔が近いっっ。は失敗、背中合わせの方がまだマシだった……



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