第16話 全力で狩りに来る女豹なマドンナ先輩と抗えないダメ猫な俺

『そして、これからは本当の恋人として、よろしくね?』


「え?りょ、涼子さん?今、なんて…?」


再び繋がれた彼女の手の熱さと柔らかさを感じながら、聞いた彼女の発言が、どうも自分に都合よく聞こえてしまったらしい。


俺が聞き返すと、彼女は、ぷうっと頬を膨らませた。


「もうっ。広樹くん!ココ、大事なとこなんだから、流したり、やり過ごしたりしないでちゃんと聞いていてね?」


「は、はいっ。すみません!!」


「私はね?広樹くん。偽恋人を卒業してあなたの本当の恋人になりたいのよ。」


!!!!💥💥💥


今度は間違いない!はっきりと聞こえた。


「マ、マ、マジっすか…?」

「マジっすよ…?///」


あまりの衝撃に、震え声で聞くと、涼子さんは、頬を染めてそう呟き、俺の様子を伺うように上目遣いで見上げて来た。


うおお…!年上のお姉さんの上目遣いマジパネェ!!さっきまでの凛々しい涼子さんとのギャップでより萌えるわ!!


その可愛さに思考力がバグって、この緊急事態を俺はうまく処理できなかった。


「な、なんで♀♡♂??えと、彼氏避けがまだ必要って事っすか???」


「違うわよ!本当に鈍感なんだから!」


再び、涼子さんを怒らせてしまった。

しっかりすると決意した早々ダメ猫な俺…。


「彼氏避けはただの口実!

まだ分からないの?私はずっとあなたが好きだったのよ。


実をいうなら、サークルに入部して来た時から気になっていたわ。」


「俺の事を、入部した時からっ?」


って、一年以上も前じゃん!

涼子さんのような人にそんな前から慕ってもらえる理由が全く分からず、俺は目を瞬かせた。


「え。でも、俺、容姿も実は並だったらしいし、涼子さんに好かれる要素なんて何一つ…。」


「そんな事ないわ!言ったでしょ?

私は広樹くんのその、猫目な顔と、ふんわり優しいその性格が好きなんだって!あれは私の本心よ!!」


「!!///」


さっき俺を庇うために鉄男に言ってくれてた事は、演技ではなく、本心から言ってくれてた事を知り、一気に顔が熱くなった。


「その…。広樹くんは、亡くなった健太くんにあまりに似ていて、最初のうちは、この気持ちが恋なのか何なのか分からなくて、迷っている内、あなたは、如月さんと付き合い出してしまった…。


すごく胸が痛くて、失恋と同時に自分の気持ちに気付いたの。

躊躇ってばかりで、あなたに好かれる努力を何もしなかった事に後悔したわ。


落ち込んでいる時に、友達にミスコンに出ないかって誘われて自信をつけたくて参加したの。


周りの皆もすごく協力してくれて、なんとか優勝できた。

広樹くんも、私に注目してくれるかと期待したけれど、その時あなたは如月さんに裏切られて落ち込んでいて、それどころではなかったわね。」


「涼子さん…!そうだったんすか?すいません!俺、知らなくて…!」


涼子さんがミスコンに出た理由が俺にある事を知り、元カノとのゴタゴタで、ちゃんと応援してもあげられなかった事を心苦しく思ったが、涼子さんは、カラッとした笑顔を俺に向けた。


「いいのよ。気持ちは言わなければ伝わらないものね。


恋は戦争!欲しいもの守りたいものがあるなら、躊躇わず、全力で狩りにいかなければいけないのだと、私はその時悟ったのよ。


もう二度と、広樹くんが辛い目に遭わないように、その時からミスコンで培った人脈を使って、NTRの謎を調べ始めたわ。

大体の推測と対策を立てて、満を持してサークルの飲み会で、広樹くんが魚沼くんと話を聞いているのを聞いて、NTRの謎を解き明かしてあげるから付き合って欲しいと持ちかけたわけなのよ。」


「そ、そうだったんすね…!」


飲み会で話しかけて来たあの時、涼子さんは既に俺のNTRの謎を解き明かしていたというのか…!


涼子さんは、衝撃を受けて固まっている俺の手を一層力を込めて握って来た。


「今まで、偽の恋人同士の付き合いだったけど、結構私達いい感じじゃなかった?

さっき、関係を解消しようと告げた時、広樹くん、泣きそうな顔をしていたわね。少しは私の事を好きになってくれていた?

広樹くんの気持ちを聞きたいわ…!」


期待を込めたうるうるした瞳でそんな事を聞いてくる涼子さんが愛おしく、俺は自分の気持ちを洗いざらい喋ってしまった。


「俺…、あなたが好きです…!!

涼子さんはボーッとしていた俺に喝を入れてくれた、運命の人!健太さんの代わりにはなれませんが、これからはあなたに尽くしていきたいっす。」


「広樹くんっ!!嬉しいっ!!」


ガバッ!!ギュムッ!!

「わっ。涼子さん…!!///」


涼子さんに飛び付かれ、俺はその温かくて柔い体を支えるように抱き止めた。


「広樹くん、大好きよ?今日は離れず、ずっと私の側にいてね…?」

「涼子さん、大好きです。俺も…離れたくありません…。」


甘やかな声で耳元に囁かれ、熱に浮かされたように、俺は答えた。


鉄男と元カノの事もあり、彼女を作るのを諦めていた俺の人生に、こんな事が起こるなんて…。と、信じれない気持ちだった。


心の底から湧き起こる想いを抑える事は俺にはもう出来なかった。



        ✻


そして、数十分後ー。


涼子さんの部屋のベッドの上で、俺は裸で彼女に覆い被さっていた。


「ほ、本当にいいんすか…?」

「ええ…。広樹くん、来て…?」


美の化身のような一糸纏わぬ姿を惜しげもなく俺の前に晒し、頬を紅潮させ、熱っぽい瞳で、誘ってくる彼女を前に、女豹に狙われた獲物の如く、俺はなすすべもなく陥落した。


「ああっ。涼子さんっっ!!ん、んむっ…。ちゅるるっ…。」

「あんっ♡広樹くんっ!!ん、んむっ…。ちゅるるっ…。」


俺達は本能のままに、裸で固く抱き合い、激しくキスをして、求め合った。


俺が触れる度に甘ったるい声を上げる涼子さんは可愛く、こんな時に、そう言えば、猛獣の赤ちゃんてやたら可愛いかったりするよな…。

と、こんな時に、この前動物園でみたライオンやトラの赤ちゃんの姿を思い出したりした。


求め合う俺達は、やがて、体の奥まで繋がって…。

「っく。涼子さっ…」

「っ…!っ…!〰️〰️〰️〰️〰️!!||||」


ん?涼子さん??


その反応は、一体…???




        ✻



「はぁっ…。はぁっ…。」


全てが終わった後、グッタリしている涼子さんに恐る恐る聞いた。


「えと…、つかぬ事をお伺いしますが…、涼子さん…。初めてだったり…しました?」


「……。///」


真っ赤になりながら、コクンと頷く彼女に、俺は度肝を抜かれた。


「ええーーっ!!だって、元カレの健太さんとは!?」


「??広樹くん、何を勘違いしているの?健太くんは、家の飼い猫よ?ホラッ!」

「へ?」


涼子さんは、目が点になった俺に、伏せていたベッドサイドの写真立てを見せてくれた。


「こ…これが健太さん…!!💥💥」


そこに写っていたのは、黒と白のぶち模様のある可愛い日本猫だった。


「猫なのに、狩りも出来なくてね?従兄弟の飼っていたハムスターと仲良くなってしまうような優しい子だったの。

2年前に寿命で亡くなってしまったけれど、彼は今でも私の心の中で生きているわ。」


涼子さんは胸に手を当ててそう言うと、気まずそうに俺にチラリと目を遣った。


「こうなったら、言ってしまうけれど、広樹くんが入学して来た時、最初は顔も雰囲気もどことなく飼い猫の健太くんに似ていると思って、気になっていたの。」


!??


「あっ。もしかして、引いてる?💦

で、でもねっ?

あくまできっかけで、その後はちゃんと広樹くん自身のいいところをどんどん好きになっていったのよ?


好きな人に他の好きなものを重ねてしまうのは、仕方がない事じゃないかと思うの。許してくれない?ねっ?」


ぷるんと豊かな双丘の前で、お願いポーズで俺に迫る彼女に俺は何と言っていいか分からずあんぐりと口を開けるばかり。


マジか…。健太さんは彼氏じゃなくて、猫…!俺は、皆の憧れ、マドンナ先輩の処女を奪ってしまったって事か…?!


何と恐れ多い事を…!!


「それからねっ。私、処女を捧げた相手と添い遂げたいと思っていて、もう、両親にもあなたの事、将来を共にしたい相手として話をしているの。」


!???


「化粧品会社の社長をしている父が、それなら、広樹くんに家の会社に入社して欲しいって言われちゃって。

取り敢えず、婚約の話だけでもまとめたいから、広樹くんご両親にもご都合をお聞きして、大安吉日の日に時間を作ってくれないかしら?」


あわ、あわわわ…。俺の将来がすごい勢いで決められて行くっ…!??


「マ…マジっすか…?||||」

「マジっすー!」


呆然と呟いた俺の言葉を真似して、涼子さんはいたずらっぽい笑顔を見せた。


やっぱり、この人は女豹。マジ、パネェ…!!!


『(NTRされた)理由を教えてあげる代わりに猫田くん、私と付き合って?♡』


全ては、あの時から仕組まれていた事。


既に俺の心も体も彼女の虜になっていて、この流れに逆らう気力は削がれている。


女豹なマドンナ先輩に全力で狩られたら、ダメ猫な俺なんかひとたまりもないのだという事を思い知ったのだった…。





✽あとがき✽


ここまで読んで下さり、応援下さりありがとうございます!

次回本編最終話、その次のおまけ話で完結となります。


どうか最後までよろしくお願いしますm(_ _)m


※なお、前話で、涼子さんのセリフに一部訂正がありました。大変ご迷惑をおかけしまして申し訳ありません。

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