第11話 マドンナ先輩と親友の対面と音声から知る真実
金曜日16時50分
俺と涼子さんが、以前鉄男と何度か飲みに来た事がある居酒屋、『とりQ』に着くと、小洒落た格好のかなりイケメン男子が店の前に立っていた。
「あっ。お〜い、鉄男!」
「おう。広樹!あっ。そ、そちらが例の…彼女さん…か?」
俺が手を振って近付くと、鉄男は笑顔で手を上げ、そして、隣にいる涼子さんの姿を見て目を丸くした。
涼子さんは、ちょい肩出し半袖のブラウスに花柄のフレアスカートという上品かつスタイル抜群の身体の線が綺麗に出る格好で、綺麗なストレートの長い髪を揺らし、美の女神のような笑顔を鉄男に向けた。
「はい。広樹くんとお付き合いをさせて頂いている槇村涼子といいます。
広樹くんから、金田(鉄男の苗字)さんの事は大切なお友達だと伺っています。今日はよろしくお願いします♡」
「は、はいっ!広樹の友達の金田鉄男です。こちらこそよろしくお願いします!(ちょ、ちょちょっ、広樹!)」
涼子さんに丁寧に挨拶をされ、鉄男は、しゃっちょこばって挨拶を返すと、俺は鉄男に手招きされて、こそっと耳打ちされた。
「(お、おいおい!美人とは聞いていたけど、なんだよ、あの芸能人クラスのS級美女!お前、あんな、すごいのどーやって捕まえたんだよ?!)」
「(いや、だから、大学で同じサークルの先輩で、飲み会で一緒に話す内に…。)」
涼子さんが、お前に元カノをNTRされた話に興味を持って、その謎を解き明かす為に恋人のフリをしてくれているだけで捕まえてはいないんだけど…。
とはもちろん言えず、曖昧に言葉を濁して愛想笑いをすると、鉄男は勝手に納得したように頷いていた。
「(サークル繋がりかぁ…。お前の大学の女子、レベル高いんだなぁ…!!)」
そして、鉄男は俺と涼子さんに陽気な笑顔で呼びかけた。
「広樹、槇村さん、今日は色々話聞かせてもらいますよ?行きましょ、行きましょ。」
「そうだな…。」
「はい。」
俺達を先導するように店に入って行く鉄男の後に続きながら、俺と涼子さんは一瞬目が合った。
「(広樹くん…。手筈通りお願いね?)」
「(涼子さん…。分かってます。)」
昨日、涼子さんの家に呼ばれ、打ち合わせした事を思い出し、俺は覚悟を決めて頷いた。
涼子さんに立てられた作戦の下に、俺と鉄男の元カノを巡るNTRの謎が解き明かされる時が来たのだった。
✽
居酒屋『とりQ』は個室席の入口にそれぞれレースカーテンが垂らされ、中が容易に覗けないようになっていて、周りに気を散らされる事なく、気の合う仲間でまったり飲むには持って来いの場所だった。
「はえ〜!去年のミスコン優勝者!通りでそのお美しさ。」
「いえいえ、そんな…。かなりの接戦だったので、その時支持してくれた友達の宣伝力があったおかげですよ〜。」
「ああ〜。そう言えば、サークルの先輩方、涼子さんのショート動画を展示室で上映してましたね。」
おつまみの枝豆や、焼き鳥をお供にビールを飲みながら、鉄男、涼子さん、俺の間で、楽しい雰囲気で会話が進んでいた。
「いやいや、宣伝力もあるかもしれないけど、それだけ応援したくなるスターオーラが槇村さんにあったって事じゃないですか〜。お前は当然、槇村さんに投票したんだよな?広樹。」
「え?い、いやぁ。その時は俺、ちょっとバタバタしていて、投票自体ちょっと出来なくて…。」
気まずく頭をかくと、鉄男は信じられないという顔で大声を上げた。
「え〜!!ひでぇなぁ!」
いや…。ミスコンの投票は去年の学祭の最後にあって、ちょうどその時、当時の彼女如月実兎さんと
まだ1年も経っていないのに、鉄男はあの事をもう忘れてしまっているんだろうか?
怒りよりは呆れる思いで鉄男を見遣っていると、鉄男は更に涼子さんに同意を求めた。
「彼氏失格じゃん?ねぇ。槇村さん。」
「いいのよ。その時は、まだ付き合ってなかったし、サークル展示で頑張ってくれてたの分かってるから。ね?」
「涼子さん…。」
ニッコリ笑顔で、フォローしてくれる神対応の涼子さんに、胸が温まっていると…。
「かーっ。目の前でイチャイチャされるなんて、やってらんねーな。
もう、俺、飲みます。グビグビッ。」
鉄男はやけになったように、手元にあったビールを飲み干すと、メニュー表をさっと涼子さんの前に置いた。
「さ、槇村さん、次何飲みます?」
「じゃあ、ピーチフィズで。」
「了解です。広樹は?」
「あ、俺はまだ中生があるからまだいいよ。」
「何だぁ?広樹、今日はいつもよりペース遅いなぁ。彼女の前で緊張してんのか?」
「は、ははっ。そうかも…。」
なかなか酒が進まないのは、これからNTRの謎が解き明かす為の作戦を決行することへの緊張によるものだったが、からかうような口調の鉄男に、俺は誤魔化し笑いをし、頭を撫でた。
「ふふ。広樹くんたら可愛い♡」
対して、作戦の首謀者かつ実行者である涼子さんは全く緊張を感じさせない余裕の笑顔。
流石だぜ、この人!
「もう、またイチャイチャしてるよ。
お姉さん!追加の中生とピーチフィズで!」
「は〜い。」
鉄男は呆れたように言うと、声を張り上げ、お店のスタッフさんに追加の注文を頼んだのだった。
✽
ブーッ!ブーッ!
「あっ。ごめん。ちょっとバイト先から電話入っちゃって…。」
「おう。」
「はーい。」
あらかじめセットしていたスマホのアラームが鳴り、俺は涼子さんと立てた作戦通り、電話をするフリをして店の外へ出た。
プルルル…♪
俺が店を出たタイミングで今度は本当に電話がかかって来た。
着信元が涼子さんになっている事を確認して、通話ボタンを押すと…。
ザワザワ…。
『ああ…。広樹、確か喫茶店でバイトしてんだっけ。涼子さん、行ったことあるんですか?』
『はい。この前のデートで、待ち合わせをそこにしたんですよ。』
…!
店内の雑音の中でも、鉄男と涼子さんの会話がハッキリ聞こえた。
通話画面の録音ボタンを押すと俺は固唾を飲んでその会話を聞く事にした。
『え〜。広樹の奴、デートなのに、こんな美人をバイト先に呼び付けるとか…。
涼子さん、大丈夫ですか?あいつ、結構人を振り回すとこあるから…。
あの猫目な顔で自分カッコイイって勘違いしてて、何してもいいと思ってるみたいなんですよね〜。
「俺イケメンだから」って言われたら、否定し辛いから合わせてやりますけどね?
あいつの親友やってられんの、俺ぐらいのもんですよ。』
!!!?
俺は親友の鉄男の思いも寄らない言葉に、愕然としたのだった。
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