ミックスワールド
後左衛 春散
01_It's my life
夏の日差しにギラ光るビル群、人込み、熱波、そして、そんな現実とは真逆の夢が入り混じる都市…東京。ちまたでは天国やら地獄やら、宇宙人侵略やらいわれている。
遠い昔の東京の繁栄を残しつつも、いつどこに出現するかもわからない―なぜか東京に集中しているが―滲んだ水彩のような夢世界は多くの災害をもたらした。
人類初の夢事象的災害はゴジラであった。作品でいうと庵野監督の『シン・ゴジラ』にあたるらしい。作品では鎌倉に上陸し東京駅で凍結の流れであるが、まんま同じルートを闊歩し東京駅で無として消えたのだ。現実の自衛隊は映画のようにそう上手く機能はしなかった。東京は壊滅状態、首都は北海道に移転してしまい、東京は人が寄り付かない孤独の月面基地となった。だからこそ外界と東京に物資配送を行う配送屋が重宝されるようになった。
それが私だ。株式会社 歩 東京特区事業部 特殊配送係。今年の5月からこの部署に配属されたが、これは実質の左遷通告であった。思い当たる節は数個ある..が今は考えないでおこう。
今日もどこぞの誰かが趣味で流しているくだらないラジオを聞きながら、私は交通量皆無の道路でトラックを走らせている。配送先は歌舞伎町。東京が混濁災害を受けた弊害の一方、恩恵を受けた町の1つだ。
歓楽街、歌舞伎町..、若者のネグレクト問題が顕在化した頃から、愛を求める人達が歌舞伎町に集まり始めた。その結果?、夢世界と混濁した。当時の歌舞伎町タワーと重なるように中空のシャボンからホテルが出現した。ホテル部分のみの外観で言えばお城をモチーフとしているのは確実で、ラブホテルであることは明確であった。
ホテルは歌舞伎町に集まった人達の快楽、安寧を具現化し提供する、人間の夢の聖地。ちまたでは「夢見城」と呼ばれている。ホテルの効力を知った特に若者が歌舞伎町に集まり始め、日夜活気に満ちた世界へと変貌したのだった。
私は新宿西ゲートから見える「夢見城」に目をやった。千葉か東京にある夢《ゆめ》のテーマパークを彷彿とさせる。遠目から見ても物語の中に引き込まれそうな感化を覚え、今にでもその幻想の中に身をやりたいと..ため息をついた。大学の有人は皆、結婚するし..独身なんて私くらいで東京で働いていると知れたら白い目でみられるに違いない..。悲観した思いでトラックをゲートに近づける。窓口にいたのは顔なじみの自衛官だった。
「どうしたんですか、後藤さん?悲しそうな顔して。彼女にでもふられたんですか?」
自衛官はにたにたしながら、話しかける。彼の名前は知らないが、その職業の都合上しょうが無いことであった。だが若さと人なつっこさは彼の長所であることは確かで、私が東京に来てからまだ1ヶ月であったが、この自衛官ほど心を許せるやつはいなかった。
「いつもうるさいなぁ。歳をとったって悲しいときはあるんだよ..第一、彼女に振られたって?おれに彼女がいるわけないだろ。」
彼はまだ顔をにやつかせていたが、私が通行許可証をみせると職業顔になり許可証に目を走らせ、タブレットに目をやった。
「後藤さん、5~10分くらいで潮が引くみたいなのでもう少し待っていてください。いつもどおりだったらですけど..」
「わかった。」
13分後。潮が引いたらしい。今日は運が良いようだ。
パトライトが赤く点滅する。ランプの赤い光は夕方の薄暗さに対比され眩しい。
「ゲート開きます!後藤さん事故んないでくださいよ!」
私は手でその言葉に返し、ゲートの中にトラックを進めた。
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