転生した先の物語、原作者が俺なんですが……誰よりも設定知ってる俺が世界最強じゃね?

山親爺大将

第1話 原作者、気付く

「お前のような役立たずは必要無い! 今すぐこの城から出ていけ!」

 豪奢な広間で僕はこの国の王子と名乗る男に、そう宣告された。


「そんな! 勝手にこんな所に連れて来られて! 勝手に出ていけってあんまりだ!」

「こんな所とは何事だ! 誉あるセイクリア王国を侮辱するとは許さんぞ! 今すぐその首叩っ斬ってやる!」

 目の前の王太子が剣を抜く。

 現代日本ではフィクションの世界でしか見た事のない状況に自分が当事者になってしまった。


「ヒィィィ!」

 ダメだ、腰が抜けて動けない。


「殿下! おやめください! 異世界より召喚した物を殺すと呪われますぞ!」

「クッそうだった」

 忌々しそうに僕を眺めた王子は、剣を鞘に納めた。l

 ギリギリ助かったらしい。


 そんな光景を僕と同じ境遇のはずの奴らがニヤニヤとしながらこっちを見ている。


「目障りだ! とっとと追い出せ!」

「仰せのままに」


 ー時間を少し巻き戻すー


「え? ここは何処だ?」

「ようこそ異界人よ! 我が世界に!」


 王子と名乗る男が長々と講釈をしている。

 無駄な話も多かったが、日頃からアニメや漫画、小説もよく読んでる僕にはこれが異世界転移だというのを理解するのに時間は掛からなかった。


 周りと見ると僕以外にも四人ほど同じような境遇の人がいるようだ。


 文官のような男が僕に近づいてくる。

「ステータスと唱えて、そこに出ている数値を読み上げろ」

「え、あ、はい、ス、ステータス」

 いきなり命令調で言われたのでちょっと緊張してしまった。


「えーっと、上から全部9です」

「9……」

 文官が難しい顔になる。


「え! なにかマズイんですか?」

「まずくは無いが……この世界の人間ならば何の変哲もない数字なんだが……優秀な能力を持つ異界人としてはほぼ最低だ」


「スキルは何を持っている」

「えーっとはい、アナライズってスキルですね」


「アナライズ? 聞いたことの無いスキルだな」

「え! そうなんですか!」


「何ができる?」

 スキル保持の恩恵なのか何が出来るかが頭の中に受けんでくる。


「対象をよく知る事の出来るスキルのようです」


「ほほう、鑑定スキルのようなものか」

 王子が僕のスキルに興味を持った。


 王太子の側仕えらしき人と兵士らしき人を引き連れて僕に近づいてきた。


「ならばコレを鑑定してみろ」

 そう言って、懐から一本の短剣を取り出した。


『アナライズ』


「えーっと、高貴な者が持つ短剣、現在は簒奪者の手にある為本来の効果を発揮していない」


 その瞬間、王子の表情が固まった。


 そして……。


「お前のような役立たずは必要無い! 今すぐこの城から出ていけ!」

 豪奢な広間で僕はこの国の王子と名乗る男に、そう宣告された。



「ほら、行くぞ!」

 兵士に無理矢理立たされて、城の外へと連れていかれる。


「国に居るのを見かけたならば一年後に必ず殺す」

 側仕えがそう言いながら俺に小さい袋を投げてよこした。

 ガチャッと金属音をたてながら袋が地面に転がる。


「ま、待ってくれ! 僕は大人しく生きていくから、殺さないでくれ!」


「そう思うならこの国から出ていくんだな。

 呪いは召喚してから一年以内に誰かに殺されると発動する。

 どういう影響出るか分からないから、この国に居られると困るのだ。

 他国でなら、どうなろろうが構わないから、その為の処置だ。

 国内に生息しているのを見つけたら、一年後に殺す。

 死にたくないなら、早急にこの国から出て行け」


「そんな……酷い……」


「この国にいなければ問題ない。

 死にたくないなら国から出て行く。

 ただそれだけだ」


 側仕えが地面に転がっていた袋を僕の方に蹴飛ばす。


「この金でさっさと国から出て行け。

 分かったな?」


「……はい」


 最悪だ……現代社会の日本からこんな場所に連れて来られて、訳も分からず国から出て行けなんて……。


 グゥゥゥ


 そういえば、何も食べていない。

 まずは何か食べよう。


 そして、早急に馬車でジマーリの街まで移動しよう。


 俺は角を曲がり、食堂に入る。

「おばちゃん! 特盛肉定食!」


 ここの食堂は安くて美味い。


 ……ん?

 なんで、俺は知ってるんだ?


 初めてで、何も分からない場所に召喚され。

 アナライズという、今まで誰も聞いたことの無いスキルを持った俺が……え?


 俺?


 俺は自分の事を、俺って言っていたか?


 え? あれ? まずい記憶が混乱してきた。


 一回整理しよう。


 俺の名前はダイ、作者である山崎大師のダイをとっ……

 ちょっと待てぇぇぇ!


 俺、山崎大師じゃねぇか!


 え、あれ?

 でも、感覚的には『ダイ』だな。


 いや、でもはっきり分かる。


 ここは、俺の唯一にして最大のヒット作。


『追放先で古代王国の天空城を見つけた俺は、スローライフに精を出す。

 天空城を見つけましたどうしますか? (見なかった事にする/そっ閉じする)』


 の、世界だ!


 俺はその主人公に転生してる。

 この食堂も俺が設定した食堂『コハク亭』だ!


 俺が何かイベント起こそうと思って設定したけど、何も思いつかなくてただご飯を食べるだけのシーンになってしまった『コハク亭』だ!


 なんて事だ! 俺は自分の作品の転移者に転生してしまった!

 コレってジャンルは異世界転移になるのか? 異世界転生になるのか?

 いっそ、両方のジャンルにしれっと登録できるんじゃ無いか?


 って、そんな事心配してる場合じゃ無い!

 話の盛り上がりの為に、結構な試練を主人公に与えた俺の作品の当事者になってしまった!


 あんな酷い目に遭うとか冗談じゃ無いぞ!


 ……でも待てよ、世の中にはやり込んだゲームや、読み込んだ物語の世界に転生するってのはよくある。

 そこで知識チートするもんが、そもそも原作者が俺なんだから、これは最強なんじゃないか?


 だって、全部俺が決めた世界じゃないか!

 究極の知識チートだぞこれ!


 勝つる! この世界の勝利者に俺はなる!

 何を持って勝利者っていうかわからないが。


 よーっし決めた!

 小説では優しい主人公にスローライフしたいって言わせたが、当事者になるなら話は別だ!


 あのクソ王子!

 天空城で城ごとぶっ潰してやる!


 作者やってる時は

『ザマァ展開すると、その後困るんだよなぁ』とか!

『スローライフを基本に息の長い作品にしていこう』とか考えてたけど!


 実際自分が当事者になるなら、そんなの全っっ然関係ねぇ!

 さっさと天空城引っ張り出してきて、目にもの見せてやる!


 俺は今! モーレツに燃えている!


【後書き】

 お読み頂き、ありがとうございます。

 この作品はカクヨムコン参加作品です。

 カクヨムコンは星の獲得が非常に重要になりますので、少しでも入れて頂ければ作者は泣いて喜びます。

 この作品を『おもしろかった!』、『続きが気になる!』と少しでも思ってくださった方は↓の『☆☆☆』を『★★★』に評価して下さると本当に助かります。

 よろしくお願いします。

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