外れスキル【回転】が神様の加護で化けたので、伝説の冒険者を目指すことにします。
名無し
第1話 固有技能
「アルム・クラインさん。あなたのスキルは【回転】です」
「……か、【回転】……!?」
僕が成人の15歳になった日の昼下がり。
タオリアの街を見下ろす教会、僕は祭壇前で神父さんのモーズ・オルテインからスキルを付与された。
モーズさんはこうして付与の間でスキル贈与や洗礼、色んな相談も引き受けてる街の人気者だ。
そんな人格者の彼からスキルを授かった格好だけど、結果には目が回るような衝撃を受けていた。これが俗に言うユニーク系スキルなのか……。
この世には、運命を左右する大きな三つの要素がある。
一つ目は、15歳になったら教会で贈与される【スキル】。二つ目は、2で超人レベル、3では化け物クラスといわれる【レベル】。三つ目は、神様から貰えるという【加護】。
レベルっていうのは、単純にモンスターを倒せば上がるわけじゃない。自分よりも遥かに強大な敵を倒したり、死の危機を乗り越えたりすることでレベルアップし、飛躍的に能力を向上させられるのだという。
加護に至っては、一つでも受けた時点で大化けして規格外の強さになるんだとか。幸運にも神様に遭遇した上で気に入られた人は貰えるそうだけど、そんな幸運な人は十本の指で数えられるくらい少数みたいだから考える必要はないのかもね。
スキルだけでも、大当たり、中程度、外れ、大外れの四つがある。
大当たりが【賢者】【勇者】【剣聖】【聖女】等の非常に強力なジョブ系スキル。
中程度なのが、【魔術師】【僧侶】【剣士】【戦士】といった一般的なジョブ系スキル。
外れといわれるのが【双剣使い】【盾使い】【棒使い】のような馴染みの薄いジョブ系スキル。
大外れが、そのどれにも属さないユニーク系のスキルだ。そんなユニーク系のスキルを、僕は獲得してしまったというわけだ。
「はあ……」
自分がどのジョブ系スキルを得るのか楽しみにしていただけに、ショックはとても大きかった。
大体100人に一人はユニーク系のスキルを得るって聞いたことはあったけど、まさか自分が当事者になろうとは夢にも思わなかった。
どうしてそこまでショックを受けてるのかっていうと、それにはちゃんとした理由がある。
マイナー系はもちろんのこと、ユニーク系のスキルは独特なのでとっつきにくいし、先例が少ないこともあってそれを教えられるような人がいない。そのため、それを極めることはもちろん、上達するのも難しいとされ、問答無用で外れ認定されているってわけだ。
「……あの、モーズさん。これって、どういう効果なのでしょう?」
僕はようやく声を絞り出せた。
「効果ですか。んー……」
モーズさんも困惑した様子で、少し首を傾げて考え込んだような仕草を見せた。
「ユニーク系のスキルに関しては、私も詳しくはないので確実なことは言えないですが、おそらくそのままの意味でしょうね。何かを回転させるんだと思いますよ」
「ですよね……」
「ここで試してみますか?」
「……はい。どうやって使うのでしょうか?」
「念じるように強く意識してみることです。そのスキルの名前を」
「わかりました。回転っ……!」
モーズさんに言われた通り、僕は自分自身に【回転】スキルを使用してみる。
すると、クルクルと回った。
おお、結構早い。しかも、どれだけ回っても目が回ることはない。
……それでも、それだけだった。
「えっと、今度はモーズさんに試してみても?」
「ええ、構いませんよ。どうぞ……わ、回ります。目が回りますうぅ……!」
「……」
回転させる対象が自分じゃないと普通に目が回るみたいだ。
戦闘に使えないこともないか。相手を回転させればそれだけ有利になるだろうし。
ただ、モーズさんが柱にしがみついたら回らなくなったのを見ればわかるように、障害物がないところで使うべきだろうね。あと、踏ん張りが利く人だと上手く回らならさそうだ。
そのあとも、スキルの範囲がどれくらいなのか試してみた。大体2メートルくらいまで有効で、それ以上となるとモーズさんは一切回らなかった。遠距離タイプのスキル以外は、大抵の場合半径2メートルまでしか効果を及ぼせないってモーズさんが教えてくれた。
「モーズさん、ありがとうございました……」
「いえいえ。アルムさん、そんなにがっかりなさらないでください。いつか良いことも……ププッ……あ。失礼」
「……」
モーズさんに笑われるのもしょうがなかった。あまりにもしょうもなさすぎる効果だし。
「はあぁ……」
教会からそう遠くもない自宅に帰ってきた僕。自分が大外れスキルを貰ったことが恥ずかしすぎて、母さんやお婆ちゃんにただいまも言えなかった。
僕の家はパン屋をやってるので、お客さんが来店する用の表口ではなく裏口からの帰宅になる。
一階は店舗用のスペースで、二階は狭い個室がちょっとだけある小さな家だけど、パン屋の『クラインベーカリー』はそれなりに繁盛していて忙しい。
店主はミーナ・クラインといって僕の母で、お手伝いさんがアリス・ワイズマンという名前で母方の祖母だ。パン作りが得意なのもあって、15年ほど前にミーナに提案したことがきっかけで店を開業するようになったんだとか。齢90になる現在でも元気に働いてる。
一人息子の僕も本来ならパンの配達を手伝わなきゃいけないんだけど、どうしても今はそういう気分になれなかった。
パンを色んな家に配達するたびに、知り合いからどんなスキルなのか尋ねられるだろうから働きたくないんだ。
パン屋なのが悪いっていうつもりはないけど、店を継ぐつもりなんて微塵もなかった。この世にはスキルというものがあるから猶更、僕はそれを使って冒険者として成り上がることを夢見ていたんだ。
近所に住んでてよく絡んでくるならず者たちも、これで余計に調子に乗りそうで嫌だな。憎んでるってほどじゃないけど、配達してるところをよく冷やかされるから鬱陶しいんだ。
うちのパン屋じゃ生きていけないってわけじゃない。そこそこ儲かってるし、頑張ればなんとか暮らしていけると思う。でも、目指してるのはそういうところじゃないんだ。あくまでも冒険者として強くなりたい、有名になりたいっていう思いがあった。
とはいえ、今の立場を考えればそれも難しいのかもね。パン屋の息子でしかない僕が人生を逆転するには、当たりっていわれるジョブ系スキルをゲットするのが前提だと思ってた。
それで大手の冒険者組合に入って色んな依頼を成功させたり、ダンジョンでお宝を見つけたりして稼ぐのが成功の近道だって信じてたのに……。
いつも夜遅く仕事から帰ってきて、ろくに口もきいてくれない父さん――アレン・クラインはともかく、僕の夢を応援してくれてた母さんやお婆ちゃんにはなんて言えばいいのか。
「ふあ……」
面倒臭いことばかり考えて気が滅入ったせいか、強烈な睡魔に襲われちゃった。まだ夕方だし寝るような時間帯じゃないけど、我慢できそうにないしもう眠っちゃおう。
外れスキル【回転】が神様の加護で化けたので、伝説の冒険者を目指すことにします。 名無し @nanasi774
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