第22話 思いがけぬ再会
時間になったので迎えに来たサカキと共に階段を上がる。彼は毎日律儀にも二人に挨拶をしてから帰っていく。雑用という扱いをされているが、今の所自分は彼に何かを頼んだ事は無い。送迎を別にすれば、日中彼はここに詰めているだけだ。
「カラスマさん、何ですか?それ」
彼はこちらの持っている茶色い紙袋を指して言った。
「研究素材です」
「研究素材?」
疑問が返ってきたがそれには答えず、黙って階段を上がる。彼もそれ以上は聞いてこようとしなかった。
基本的にエリート官僚というのは、聞くな、言うなと言われればその通りにする。それが出来ないと出世できないからだ。彼もご多分に漏れずという事である。
一階に出て、奥にある監視室へと向かう。ガラス越しのカウンターから、奥にいるオオイを呼んだ。
「カラスマさん、お疲れ様です。クルマの所までご案内しますね」
彼女自ら鍵を持って表に出てきた。防衛隊の車両なのでサカキに任せるというわけにもいかないのだろう。建物を出て、滑走路とは反対の方向へと歩き出す。
「一応貸与という形になりますので、交通ルールを守って事故にはくれぐれも気をつけて下さい。事故や違反の場合は私が報告書と始末書を書くことになりますので」
「いやあ、それは助かります。できるだけ安全運転をしますが、その時は宜しく」
「勘弁して下さいよ」
冗談だと分かっているので彼女は笑っている。それにしても維持費が殆どかからないクルマというのは素晴らしい。ただ、駐車場代だけはソウに払っておかないといけないだろう。来客用の地下ではなくて立体駐車場の方はいくらかかるのだろうか。
オオイは駐車場に停まっていた白い軽自動車の前で足を止めた。キーを差し込んで回してロックを開ける。
「あれ?板キーだけですか?リモコンは?」
良く見れば彼女が持っているのは、キーホルダーはついているもののリモコンらしきスイッチは無い。ただのイグニッションキーだ。
「盗難防止の為に板キーだけです。……あまり効果は無いと思いますが、慣例なので」
「そうですか。確かに、あんまり効果は無いですね」
イモビライザーにするのであれば兎も角、普通の板キーだけのロックなら従来通りの方法で開けられてしまう。最近流行っているリモコンやスマートキーを利用した車両の盗難というのは、高価なクルマが基本的にスマートキーを採用しているから流行っているだけなのである。旧式の方が当然ながら、簡単に開けられる。イモビにしないというのは単に金がかけられないというだけの話だろう。世知辛い。
クルマの鍵を受け取って、代わりに持っていた紙袋を渡す。中に入っている閉じられたビニール袋を確認した途端に、オオイは嫌そうな顔をした。
「これ、アレですか?」
「アレです。できれば彼女達のは勘弁してあげてくれませんか」
何も知らないまま自分達の出したものを取られていた、などと彼女達が知ったら、きっと物凄く嫌な気分になるだろう。ならば、知っている自分が先に提供してしまえば良いのだ。
「それは、私の一存では何とも……ですが、善処します」
「ありがとうございます、宜しくお願いします」
隣で聞いていたサカキは何の事か判らず怪訝そうな顔をしている。だが、先程自分が答えなかったので、それ以上は中身を聞こうとしないようだ。
二人に礼を言って、明日からは迎えはいりませんとサカキに言ってキーを捻った。
古い年式の軽自動車だが、流石に防衛省のクルマらしく整備は行き届いているようだ。パワーは無くとも軽快に走る。
防衛省の、ということで少しだけ警戒していたのだが、オートマチック車で安心した。ミッションも運転は出来るが、街中の信号だらけの所を一々クラッチを踏んでギアチェンジしながら運転するのは結構面倒くさい。渋滞だって頻繁に起こるのである。
意外と言っては失礼だが、カーナビまでついていた。遠出をすることはないだろうと思うが、あればあったで使う機会があるかもしれない。
教習所以外では久しぶりの運転だったが身についたものは忘れておらず、途中でスーパーに寄った後、スムーズにマンションの地下駐車場へと入って来れた。
来客用駐車場はガラガラなのでエレベーターの近くに停めると、一旦外へ出てからカードキーを使って中へ入った。駐車場のエレベーターはマンションの中にいる人間を呼ばないと入れないのである。
部屋に戻って夕食を作っていると、定時でソウが帰ってきた。
「ただいまー。おっ、唐揚げか!?」
「お帰り、唐揚げだよ。まだちょっとかかるから先に風呂入ってきたらどうだ?」
こちらも働いていると少し手の込んだものは帰ってすぐ、というわけにはいかない。適当な男はそうかと言って風呂場に入っていった。
何となくリビングのテレビをつけっぱなしにしている。HHKのニュースではなく、民法の方を映していると、未だにサクラダ駅の竜災害の報道が続いている。
考えてみればこの国にとってはとんでもない大災害だ。死亡者が100名以上出た上に災害のあった周辺は未だ封鎖中で、大都市のど真ん中という事で経済的影響も計り知れない。
大地震なんかの広範囲災害と比べればまだ影響は小さいと言えるものの、自然の脅威という分かりやすい天災に比べて、こちらは意味不明な部分が話を大変ややこしく、かつセンセーショナルにしているのだろう。
HHKでは殆ど災害に対する考察などは出されていない。被害者人数が更新されたら時折出てくる、ぐらいだ。こちらは報道規制をかけているのだろう。
しかし民法はかなり好き勝手に報道している。恐らく自主規制はしているのだろうが、加熱するSNSの反応に呼応するかのように朝の報道バラエティなどでは、言い方は悪いが面白おかしく脚色しているように見える。
特に取り沙汰されているのはやはり紙袋の少女の事だ。動画サイトであるサブウェイでは、自分があのトカゲをボコボコに殴り殺している所の動画が、瞬間的PVで常にトップを独走している。他に視覚的にインパクトのある出来事が無い、というのもそうだが、グロ認定ギリギリの映像というのは人気が出やすいのである。
あちらは顔出しをしていないので、どうしてもサブウェイに圧力がかけられないのか、未だ削除はされていない。周囲の人間が映り込んだものだけは全て消されているが、該当の動画は竜と紙袋を被った自分だけが映っているので、上げられた当初からずっと残り続けている。
金属パットの上で油を切った唐揚げを、クッキングシートを敷いた皿に盛っていく。少し揚げすぎた気もするが問題ない。ソウが食いきれなくても自分が全て食べ尽くす。
冷蔵庫から大量に刻んだキャベツとトマトのサラダを出してテーブルに置く。軽く洗い物をしていたところでソウが風呂から上がってきた。
「おぉ、唐揚げ。まさしく人類最高の発明」
「分かったから服着てこい。あと、ちゃんと髪乾かしとけよ。毎朝寝癖ついてるじゃねえか」
バスタオルを腰に巻いたままの男はへぇへぇと返事して寝室に入っていった。ビールとグラスを冷蔵庫から出してテーブルに置いた。
「このカリカリジュワッっがたまらん!やはり唐揚げこそ最強のビールの友だな!」
スウェットに着替えた男は実に適当な事をほざきながら、次々と肉を口に放り込んでは酒を流し込んでいる。
「サラダも食えよ、お通じが悪くなるぞ。そういえばさ、防衛省のクルマ借りてきたんだが、立体駐車場って月いくらぐらいするんだ?」
こちらも唐揚げを一つ齧って咀嚼する。下味が十分についているので、なにもつけなくても生姜と醤油のシンプルで明確な味が滲みていて美味い。
「ああ、駐車場ならあるぞ。俺、クルマ買ってねえから腐らせてたけど」
「はぁ?」
何だこいつ。一体どれだけ適当な買い物をしているのだ。これが食料品や衣料品ならまだわかる。だが、マンションだぞ。駐車場付きだぞ。
「てことはお前、使いもしないのにここ買った時からずっと駐車場代払い続けてるのか?」
「そうだぞ。管理費と一緒に引き落とされてるからあんまり気にならん」
目眩がした。サクラダの中心部付近のマンションで駐車場、となれば、どんなに安くても月に3万から5万は取られるだろう。それを、毎月使わないのに放置とは。信じられない。
「お前な……いくら適当だと言っても程があるだろ」
合計いくら無駄金を支払ってきたのだ。管理組合側は金さえ入ってくれば良いのだろうが……。
「いや、クルマっていつか買うと思うじゃん?結婚したり子供産まれたりしてもさ。後から買おうと思っても、駐車場が一杯だったら買えないだろ?」
「それはそうだが。お前なあ……」
「いいじゃねえか。丁度良かったろ?ほら、今まで払ってたのは無駄じゃなかった」
結果的にそうなったというだけだ。計画性があるのだかないのだかさっぱり分からない。結果オーライと言ってもこれはただの偶然なのだ。
「はぁ、お前の適当さがここまでだとは、この俺の目を持ってしても予測ができなかったぞ」
「どうだ、まいったか」
グラスのビールを飲み干して胸を張っている。アホである。
「まぁいいや。そんで、アレ、いつ出しに行くんだ?こっちは外出許可が貰えたけど」
ソウのデスクの上に視線を送って言った。既に免許証に記載されている情報は書き込んである。
「いつでもいいぞ。なんなら明日でも構わん」
「いや、明日って。急に休んだら会社の人に迷惑かかるだろ」
病気ならまだしも、いつでもいいものを出しに行くだけなのだ。そんな事で仕事に穴を開けて周辺にフォローさせて良いものだろうか。
「いいんだよ、別に。たった一人が一日程度急に休んで、立ち行かなくなるような会社なんて潰れたらいいんだよ」
「乱暴だなおい。まぁ、そりゃそうだけど、同僚の印象とか」
言っている事はまともなのだが、現実問題としてどうなのかというのはあるだろう。あまり急に穴を開ける、なんて事を繰り返していたら、職場の居心地が悪くなるのではないか。
「大丈夫だって。みんな適当に休んでるんだし。そもそも課長も急にラーメン食いたくなったからって、いきなり3日間有休とってエゾに言ってたぞ」
なんだそれ。おおらかなのは良いことだが、大丈夫なのかそれで。
「まぁ、それで大丈夫なら別にいいんだが……やっぱ大企業は違うな」
「上に立つものが行動で示さないとな。下も休みにくいだろ」
「お前は別に上の人間じゃねえだろ」
とはいえ、それはそれで良いことだ。有給休暇は労働者に与えられた正当な権利だ。お互いが気兼ねなく使えるというのならそれは望ましい環境だと言えるだろう。
「そんじゃまあ、明日、昼休みに車寄せに戻ってくるわ」
結構忙しい。カレーは早めに作っておくとして、食べ終わって片付けてすぐに出てこないと昼休みが終わってしまう。まぁ、昼休みが終わっても大体ジェシカ達は昼寝を続けているのだが。
「おう、それじゃ昼飯も外で食うか?」
「馬鹿、こっちは職場で作って食ってから来るんだよ。昼飯は朝に作っておくから、適当に温めて食え」
弁当を作る必要はなくなったが、結局こいつの昼飯は準備しておかなければならない。労力としてはあまり変わってはいない。別に苦ではないので構わないのだが。
「いや、別にそこまでしなくてもいいぞ?外で食ってもいいんだから」
適当なくせに割と気を使う男はそう言った。別にそれでも構わないが。
「昼には蟹玉飯を作っておこうと思ったが、外食の方がいいのか?」
「お願いします」
カニの魅力にころりと転んだ。誰も舌と胃袋の要求には勝てないのである。
ごま油をベースとしたドレッシングのかかったキャベツとトマトを頬張り、飲み込んだ後にまた唐揚げを齧る。舌が新しくなっていくらでも食える。
「ていうかさ、ミサキ。職場で作るって、同僚にも作ってやってんのか?」
「そうだぞ?明日はカレーの予定だ」
唐揚げを口に運んでいたソウの手がぴたりと止まった。
「カレーか、カレーもいいな……同僚って、前言ってた女の子二人か?」
「そうだよ。物凄く可愛い女の子二人。ほっとくと肉と甘味ばっかり食ってるからさ」
何故かソウは渋い顔をして唐揚げを齧った。不味そうな顔をするな。料理に失礼だろうが。
「何だよ。不満なのか?」
「いや、不満というか。何て言ったら良いのか、お前が俺以外の人間に料理を作ってるってのがなんか、変な感じがして」
何言ってんだこいつ。こっちは別にこの適当な男専門の料理人ではないのだが。しかしどういう事だろうか。自分がこいつ以外の人間に料理を作って、何の問題があると。
しかも別に男に作ってやっているわけではないのだ。女の子にである。嫉妬というわけではないのだろうが。嫉妬。
「ひょっとしてお前、ジェシカとメイユィに嫉妬してんのか?」
グラスを傾けていた適当な男はビールが気管に入ったのか、激しく噎せた。慌ててティッシュを二、三枚引き抜いて渡す。
「ゴホッ……ああ、わりい。いや、意味わかんねえし。なんで女の子に嫉妬するんだよ。俺は乙女かよ」
じゃあ何で噎せたのだ。こいつ、図星ではないだろうか。
「ていうかさ、お前さっき、『俺以外の人間に』って言っただろ。それってつまり、独占欲って事じゃ」
口に出して首を捻った。独占欲。こいつが、俺に。
「……ビール、おかわりいるだろ?」
「……ああ、すまん」
どうにも妙な空気になってしまった。それでも唐揚げとビールの組み合わせというのは、そんな空気を吹き飛ばすほどのコンビネーションである。食って飲んで喋っているうちに、気がつけば翌朝になっていた。
「じゃあな、来る前にワイアー入れるから」
「おう、安全運転でな」
地下に降りて、来客用の駐車場から白い軽自動車を出す。ここに来るのも今日で終わりだろう。
それにしても、空いている。いっそのこと一部区画を有料駐車場として貸し出せば良いのではと思うのだが、ブランドを気にしてそれが出来ないのだろう。このヒノモト人口減少時代に頑なな事である。
ナナオ駐屯地に顔パスで入り、昨日このクルマが停まっていた場所に駐車すると、いつもの建物の中へと入った。中では既にサカキが待っていた。
「おはようございます、サカキさん。毎朝お疲れ様です」
「おはようございます。いえ、普通に仕事なんで」
それは分かっている。社交辞令というやつだ。そもそも、自分は彼が昼間この駐屯地で何をしているのか全然知らない。外務官が防衛隊の駐屯地に駐在するというのも良くわからない。前例はあるのだろうか。
考えても仕方のない事を考えながら監視室を覗く。いつもの席にオオイは座っていなかった。
こちらを認めた近くにいた女性の防衛隊員が、こちらからは見えない衝立の向こう、恐らく打ち合わせか休憩スペースに向かって、二佐、と呼びかける。衝立の後ろからひょっこりと顔を出したオオイは、こちらに気付いて立ち上がった。
「カラスマさん、おはようございます。お待ちしていました」
待っていた、というのはまぁそうだろう。毎朝ここに顔を出しているのだから、毎朝彼女は自分を待っている。という事は、それ以外に何か用事があって待っていたという事だ。
彼女が衝立の裏に向かって、いきましょうか、と呼びかけた。立ち上がってこちらを見たのは。
「ま、マツバラ先生!?何故、ここに?」
「お久しぶり、カラスマさん。元気そうで良かった」
衝立の向こう、肩から上が見えているのはあの親切な産婦人科医、マツバラだった。彼女は回り込んで監視室から出てくると、改めてこちらの格好を見下ろした。
「うん、まともな格好してるね、偉い偉い。私も今日からここで働くから、宜しく」
「働く、って。西区の医院は?」
既に白衣姿の彼女は軽く肩を竦めて言った。
「大学の後輩に譲った。大学病院から独立したいってずっと言ってたし、引き継ぎも済ませてきた。私は反対に研究医に逆戻りってわけ」
研究医。聞いたことは無かったが、元々彼女は研究者だったのだろうか。ずっと臨床医師だとばかり思い込んでいたのだが。というか、研究者、という事は、ここの上か。
「詳しいことは下でお話しましょう。カラスマさん、先生。サカキさんも」
彼女はそうだねと言ってオオイの後ろについて歩き出した。慌ててそれに並ぶ。
「マツバラ先生は、元々研究医だったんですか」
まさかあの事は漏らしていないだろうか。彼女は賢いので大丈夫だとは思うが。
「うん。ヤマシロ医大でね。まぁ、若い頃色々あって在野に降りてきたんだけど」
言っても彼女だってそう年を食っているという風には見えない。せいぜい前の自分と同い年ぐらいではないだろうか。
「カラスマさんの方はどう?体調とか悪くない?」
「お陰様で。今は生理中ですが、それほど重くありません。先生の仰った通り、慣れてきたようです」
「そう、良かった。でも、激しい運動は控えるように」
「承知しています。ありがとうございます」
後ろで咳払いが聞こえた。そういえばサカキが居たのだった。マツバラは後ろを振り返って見ると、ふっと嘲笑的な笑いを漏らした。この反応は良く分からない。
いつもの通りに大きなハンドルを回して重たい扉を引き開ける。中ではこちらもいつも通り、二人が元気にトレーニングをしていた。
『おはようございます、ジェシカ、メイユィ』
扉が開いたことに気が付いて駆け寄ってきた二人に挨拶する。おはようと返してきた二人は、こちらの隣りにいるマツバラを見て不思議そうな顔をした。
『おはよう、二人共。こちらはヒトミ・マツバラ医師だ。君たちの健康管理を担当してもらう』
硬い口調でオオイが彼女を説明する。なるほど、産婦人科医であれば女性ばかりのメンバーの体調を診る医者としては最適だろう。しかし、何故彼女が。
『初めまして、ジェシカ、メイユィ。ヒトミ・マツバラです。身体に関する困ったことは何でも相談して頂戴。勿論、メンタルの方もね』
美人の医師は流暢な連合王国語でそう言った。発音も非常に聞き取りやすい。そのまま二人と笑顔で握手を交わしている。そのまま今度はサカキが二人に近寄って、何か変わったことはないか、必要なものは無いかなどと話し始めた。
「オオイ二佐、体調の事で少し先生と話がしたいのですが」
「ああ、そうですね。談話室か、カラスマさんの部屋でどうぞ」
出来ればカメラのついていない脱衣所で話をしたかったが、そう言われてしまえば場所を変えるのは不自然だ。自室に彼女を誘い、デスクの椅子を勧めて自分はベッドに腰掛けた。
「驚きました。どういった経緯でこちらに?」
元研究者、とは言え、彼女は単なる市井の産婦人科医だ。こんな特殊な場所に来るような人だとはとても思えない。
「貴女の健康診断の血液検査結果を求められてね。こっちの研究者にあれこれ所見を求められたからそれに正直に答えたら、一緒にどうだ、と。まぁ、情報漏洩防止の為に半ば強制みたいなもんだったけど、渡りに舟ではあったかな」
「渡りに舟、ですか。先生が元研究医だというのは初めて知りました。ここでの研究、というと、恐竜……新古生物というのでしたか、それの研究、という事ですか?」
産婦人科医としては大幅にかけ離れている。何故彼女が、としか思えない。
「そう、そっちもそうだけど、私の場合は主に貴女達の方がメインかな。言ってなかったっけ?私、ヤマシロ医大で遺伝と動物細胞に関する研究をしてたんだけど」
遺伝。動物細胞。動物には人間も含まれる。勿論恐竜もだ。
「そうでしたか、それで。あの、聞いて良い事なのかは分かりませんが……」
何故研究者を続けたかったのに、臨床医師になったのか。
「ああ、研究をやめた理由?うーん……まぁいいか。ちょっと前、万能細胞ってのが話題になったじゃない。で、研究手法や論文の不備が取り沙汰されて、メチャクチャに叩かれてた理研の女性研究者がいたじゃない」
その言葉に頷く。いた。画期的な発見だと大騒ぎされたのだが、雑すぎる論文に大量に疑義が見つかったのだ。彼女を持ち上げていたマスコミや世論は一斉に手のひらを返して、これでもかとその女性研究者を連日連日叩きまくった。
「で、それに味を占めたのか、マスゴミ連中が
「え……そういえば、一瞬そんな記事を見た記憶はあります。もう何年も前ですが」
テレビの方はその頃バカバカしくなって見なくなったのだが、ネットニュースには何日かその報道が載っていた。
「確か……母体を使った胎児の細胞実験をしていたとかで」
マツバラは苦々しく笑った。
「ほらね、間違って伝わってる。だからクソマスゴミって嫌いなんだよ。間違っててもロクに修正もしようとしないし、人の人生メチャクチャにしておいて謝罪すら無いんだから」
確かに、この誠実な医師が、そのような非人道的な実験をするようにはとても見えない。
「実際にやってたのはね、胎児の体細胞を少しだけ取って、遺伝性の先天的異常が無いかどうかを調べる研究だったの。細胞の採取にも細心の注意を払って最先端の技術を使ってたし、研究自体も異常の早期治療や、今まで妊娠中に見つけられなかった病気を発見する為に、間違いなく意義のある事だった。それなのに」
「潰されたんですか」
マツバラは頷いた。いつも冷静な彼女の鋭い瞳には、僅かに怒りの色が滲んでいる。
「先のぶっ叩き状態を知った研究主任と教授が日和っちゃってね。研究は取り止め。研究の意義を唱えてた私だけがマスゴミどもの槍玉にあげられたってわけ。で、研究室に居られなくなって、親から引き継いだ土地にあの医院を建てたの」
何とも、酷い事だ。愚者が視聴率やページビューを稼ぎたいが為に、有用な研究を潰したという事になる。社会的どころか、国家として、ひいては人類にとっての損失ではないか。
「酷い話ですね。謝罪すら無かったんですか?」
「無かったよ。腹が立ったから知り合いの弁護士に依頼して、慰謝料をふんだくってやったけどね。裁判に負けたって記事すら出てなかったでしょ?連中、都合の悪いことはひた隠しにするんだから」
彼女がマスメディアを敵視する理由が分かった。そんな事があったとは。
「その事をここの研究者も防衛省も知ってたんでしょうね。そんならうちでどうだ、と、こういうわけ。本当に偶然だけど、カラスマさんのお陰かな」
偶々である。すぐ近所の産婦人科医にそんな過去があるなんて、全然知らなかった。医院も繁盛していたし、悪評なんて全く聞かなかったのだから。
「ま、私の事はどうでも良いかな。カラスマさんの方はどう?無いとは思うけど、酷いことされてない?」
「それは大丈夫です。いきなり現地に投入されて超音速機からパラシュートで降下させられたりはしましたが」
「何それ。でも、出来たんだ」
「出来ましたよ。体力測定の結果、ご存知でしょう?」
あのデータも上の研究室には渡ったはずである。だからこそあれだけ乱暴な扱いでも平気だと判断されたわけだが。
そもそも自分はビルの五階から飛び降りてきた所の動画も撮られている。パラシュート降下なんぞ屁でもないだろうと思われたに違いない。ただ、初心者が誤操作で傘が開かずに激突死したらどうするつもりだったのかとは思うが。
「まぁ、知ってるけど。未経験の事って何かしら事故が起きやすいから、普通は訓練してからするものだと思うけどね。……未経験、と言えば」
マツバラはキャスター付きの椅子をこちらに近付けてきて、耳元で囁いた。
『あの事は言うとまずいと思ったから話してないよ』
初めての生理で三度目に彼女の所を訪れた事を言っているのだ。20歳で初めて生理を経験する人間などまずいない。つまり、以前は男だったという事を黙っている、という意味だ。
『ありがとうございます。それは言わないほうが良さそうです』
『ご家族とか、知ってる人から漏れたりしない?』
『多分。言えば言った方に不利益になる事ですから』
ソウの実家の人達は、どうにかしてソウに嫁を連れてこようとしていた。戸籍がどうにかなったというのはフユヒコから聞いているだろうし、まず漏らしたりはしないだろう。
弟家族もそれは弁えているはずだ。念の為現状はワイアードで弟にも妹にも逐一報告している。
父はそもそも自分が女になったという事を信じてすらいない。もうあれは放置でいいだろう。どうせ向こうから連絡を取ってくる事すら無いのだ。
あとは会社の元上司二人だが、彼らの場合はどうだかわからない。ただ、自分を不当に解雇したという後ろめたさはあるだろうし、滅多な事が無い限りは漏らしたりしないだろう。
「そう、ならいいけど。今も引っ越した先のお友達の所に住んでるんでしょ?彼とは?」
「あ、あー」
どうしようか。だが、言わなくてもどうせオオイには言ってしまった事だ。彼女には早晩伝わってしまう。
「籍を入れる事にしました。同棲してるのにそのままだと向こうのご家族の体裁が悪いという事で」
マツバラはあまり反応しなかった。何かを見定めるかのようにこちらをじっと見つめている。表情も変えていない。
「籍を入れる、という事は、もうしたの?」
「ああ、はい。勿論避妊はしていますが」
そう言うと、彼女は特に顔色を変えることも無く冷静に頷いた。
「そう。いつかそうなるとは思ってたけど、相手が誠実で良かったね。貴女は非常に魅力的だから、それもある種の武器という事かもしれない」
優れた容姿は武器になる、というのは、現実として当然の如くに存在する。
誰だって可愛いものや格好良いものには近づきたいと思うし、第一印象というのはかなりの部分、人間性の評価に影響を及ぼす。それは男女の別に関係なく、太古より普遍的に存在するものだ。生物として、社会的動物としてより好ましい遺伝子を残したいという本能的なものでもある。ただ。
「別にその友人がそうしようと言ったわけではないのですが。どちらかと言うとあちらの家族が早くしろと……それで、今日、婚姻届を出す予定なんですが」
キョウカやハルコがせっついたのだ。フユヒコも会った時にそれを打診しようとしていた節があったので、彼としても年貢の納め時だったようではある。
「ご家族が?それはまた、随分と信頼されてるね」
「はぁ……まぁ、付き合いは長いですから。料理が趣味なのも知られていますので」
美人の医師はこちらが籍を入れるという事実よりも、この事に遥かに驚いたようだった。やや前かがみになっていた背筋を伸ばして、大きく目を見開く。
「料理、出来るの?あぁ、そりゃ強いわ」
「別に、特別な料理とかじゃないですよ。普段は普通の家庭料理しか作りませんし」
「それ、貴女ぐらいの年頃の新婚夫婦に言ってごらん。まず間違いなく嫉妬されるから」
そうなのか。いや、そうか。20そこそこでいきなり料理の出来る人間というのは、最近はいないのかもしれない。花嫁修業などという言葉は消えて久しいし、今は調理済みの冷凍食品がいくらでも店に並んでいる。
共働きでなければ成り立たない家庭が殆どの現状、料理に悠長に時間を使っていられる夫婦など、今は極めて少数派なのである。
だが、こちらはもう30年以上――まぁ、実際は15年そこそこだが――のキャリアを積んでいるのだ。時短の方法はいくらでも知っているし、既製調味料の普及や冷凍技術の進んだ今、料理というもののハードルはかなり下がっている、ように感じる。感じるのは普段から作っていたからそう思うだけなのかもしれないが。
「年の功ってやつですかねえ」
「喧嘩売ってるの?」
何故か怒ったふりをするマツバラ。ふりだと分かるのは、彼女はこちらの本来の年齢を知っているからだ。
「まぁ、料理は数少ない私の特技でもありますから。そうだ、先生もお昼をご一緒にどうです?今日はカレーを作る予定なんですが」
「それはぜひ一度、ご相伴に与りたいところだけれど。ここの規定がどうなってるか分からないから、オオイ二佐に聞いてからになるかな」
そうか、ここは防衛隊の駐屯地だった。ここにはここの決まり事があるだろう。勝手に作って食中毒でも起こされてはかなわないだろうし。
「それじゃ、聞いてみましょうか。ちょっと時間をかけすぎたので、もう戻られているかもしれませんし」
ついつい長話をしてしまった。彼女達は待ちくたびれて戻ってしまったかもしれない。そう思ってトレーニングルームに戻ると、サカキは居なくなっていたが、オオイだけはその場に残っていた。上半身を鍛えるマシンの上にちょこんと座っている。
「すみません、オオイ二佐、お待たせしました。お先に戻って頂いても良かったのですが」
彼女はこちらに気付くと立ち上がって近付いてきた。
「いえ、マツバラ先生にはまだカードキーをお渡ししておりませんので。お話はもう結構ですか」
そう言えばここを出るには専用のカードキーが必要なのだった。マツバラは今日からここに来たという話であるし、それも当然か。悪いことをしてしまった。
マツバラも待たせたことを侘びた上で、先程の昼食の話を彼女に言った。
「カラスマさんの手料理ですか。うーん、同じDDDのメンバーである二人は構わないのですが、それ以外は……一応、この駐屯地に勤務する人間は、駐屯地内の食堂で食事をすることになっていますので」
聞けば、自分達は外に出られないが故に外部からの出前やここでの調理を許可されているのだという。融通の利かない話ではあるが、決まっているというのであれば仕方がない。
「ま、決まってるなら仕方無いね。カラスマさんの手料理はまた別の機会にでも」
「すみません、余計なことを聞いて。休みの日にでもうちにいらしてください」
彼女は、とんでもない、そうさせてもらうと言って、オオイと一緒にトレーニングルームをを出て行った。帰り際に無理をしないようにと釘を刺すことは忘れずに。
『ミサキ、あのドクターと知り合いなのか?』
トレーニングを終えたジェシカが、汗を拭きながらこちらへ近付いてきた。
『そうですよ。以前お世話になった先生です。とても親切で優しいお医者さんですよ』
『そっか。ミサキの知り合いなら安心だな、何より女だし』
『何かあったの、ジェシカ』
給湯室の冷蔵庫から飲み物を取ってきたメイユィも寄ってきた。
『あー、昔ちょっとな。クソ医者にあちこち関係ない所を触られてぶん殴った事があって。それ以来、医者と聞くと鳥肌が立つんだ』
なんだか聞いてはいけないことを聞いてしまった気がする。それは、ひょっとしてあれではないだろうか。医者の性犯罪というやつでは。
『それは、オオイ二佐には話しましたか?ジェシカ』
『いや?一々話す事でもないだろ、そんなもん』
医師アレルギーになったというのならそれは大問題だ。そもそもジェシカの言っている事が事実であるなら、それは犯罪である。合衆国での性犯罪者に対する扱いはこの国よりも遥かに厳しい。その医師はどうなったのだろうか。
『私から彼女に話しても良いですか?それと、そのぶん殴った医者はどうなりました?』
『ああ、別に言うのは構わねえよ。クソ医者か?知らねえ。それ以来医者にはかかってねえし、どうなったかも』
自分もジェシカも、別にその医者がどうなったかというのを知る必要はない。ただ、合衆国から来ている一応客人扱いの人間がそう言っているのだ。本国で知らなかった、となればそれはそれで問題なのではと思ってしまう。
この国の事であるから、上の者は大袈裟に騒ぎ立てることはしないだろう。あまり騒ぐと逆に被害者への二次被害になってしまうのだ。その辺りは合衆国の方もよく分かっている。
『どうでも良いよ。それより、ミサキ。カレー作るんだろ?作る所、見てても良いか?』
まだ昼までかなり時間があるが、カレーの場合は早めに作っておいても問題は無い。
『良いですよ。何なら一緒に作ってみますか?』
『オレが?いや、いいよ。なんかクソ面倒くさそうだし』
『簡単ですよ。それに、料理は出来たほうが男性には受けますよ』
先程マツバラが言っていた事だ。
『ミサキ、私に教えて』
ボトルのドリンクを飲み終えたメイユィが、真剣な表情をしてこちらを見ている。
『それじゃあ、一緒に作ってみましょうか。シャワーを浴びて、着替えてきて下さい』
彼女は大きく頷いてシャワールームの方へと走っていった。着替え、持っていかなくて良いのだろうか。
『オレは見てるだけにするよ。しかし、メイユィの奴、料理に興味があったのか?意外だな』
『意外でも何でもないですよ、ジェシカ。料理は楽しいですよ、作ったものが美味しいと尚更ね。それより、メイユィは着替えを持っていくのを忘れています。持っていってあげてください』
『へぇへぇ。ミサキってなんかママみたいだな』
『そんな大きい歳の子がいる年齢ではありません』
彼女を急かして脱衣所へと送り出すと、給湯室に入って準備を始めた。
野菜の皮の剥き方や切り方から始まって、まな板を使う順番や洗い方、食材を炒める方法と煮込む方法まで一通り教えたが、やはり彼女達はすぐにそれを習得していった。ジェシカは見ていただけだが、それでもやらせれば一通りはこなせるだろう。
味付けの順番などはまだだが、炒める、煮るというのはどの料理でも概ね同じだ。揚げ物は油の扱いが大変なので、まだ教えるには早いだろう。
後は煮込みながらアクを取るだけなので、一旦彼女達に鍋を見させておいて、部屋の中にある内線で一階にいるオオイを呼び出した。
「ただの報告です。ジェシカが合衆国に居た時の話なんですけど」
オオイはわかりました、上に報告しておきますとだけ言って通話を切った。どうなるにしろ、これで一応自分の手からは離れたことになる。
それにしても、ジェシカが医師アレルギーだったとは。
ここにいればいずれ体調の検査を受けることになるだろうし、その時は研究室にいる誰かの仕事になったはずだ。そうなった時、女性の医師資格を持つものがいれば良いが、そうでなければその時になって彼女の医者嫌いが発覚する所だっただろう。
事前に分かった事も幸いしたし、何より気心の知れたマツバラが来てくれた事が大きい。この件は間違いなく彼女にも伝わるだろうし、彼女であればその辺りの配慮にも抜かりはないだろう。何しろ、不安を抱えた妊娠少女を何人も見てきたベテラン産婦人科医なのだ。
ふと、彼女の実際の年齢が気になった。見た目は30代前半だが……いや、やめておこう。その情報と検証は必要な事ではない。邪な考えを振り切って給湯室へと戻った。
『すごい!いい匂い!』
『あぁ〜、たまんねえぜ。なあミサキ、もう食っちまおうぜ』
『時間まで待って下さい。我慢したらそれだけ美味しく食べられますよ』
昼が近付いたので、市販のルウを投入した。たちまち立ち籠める食欲を刺激する香りに、二人は激しく鼻をひくつかせた。
溶け終わった後に一旦火を止めて、トレーニングルームから談話室へと戻る。毎日掃除されているとはいえ、食卓を消毒した布巾で丁寧に拭く。これを経験しておかないと、いざ外で生活するとなった時に困る事になるのだ。
ここにいれば大体の事、掃除や洗濯、食事や寝床の支度なんかは業者が全部やってくれる。だが、見た所生活経験の少ない彼女達が、ずっとここで生活していくのが良いのかという疑問も浮かんでくる。
彼女達が外で生活しても大丈夫だという判断がなされれば、自分と同じように外で伴侶を作って出ていくかもしれない。竜災害だってもしかしたら収まって、自分達が必要なくなる時が来るかも知れない。そうでなくとも、例えば自分が殉職して、食事をまた外部から運び入れる、なんてことに逆戻りでは、それはそれで悲しい。ある程度、身の回りのことは出来ておくに越したことは無いのだ。
冷蔵庫に入れておいたサラダを彼女達に運ばせ、こちらは皿に大盛りにしたカレーライスを持っていく。テーブルの上に並べると、目を輝かせた二人から歓声が上がった。
ヒノモト語でいただきますと言って、二人は猛然と皿の上のものを搔き込み始めた。
『うおっ、うめっ、うめえ!前食べたのと全然違う!』
『辛いけど、辛くない!いくらでも食べられそう!』
瞬く間に皿の上の料理が彼女達の胃袋の中へと消えていく。こちらも負けじと匙を只管に往復させた。
『はー、美味かった。もう食えねえ』
『あんなに簡単な料理なのに、こんなに美味しいんだね』
仲良く食器と鍋を洗いながら二人が言う。初めて作るとなると色々戸惑うものだが、このメイユィにとっては簡単な事だったらしい。
『自分達で作ったものだと思うと余計に美味しく感じるでしょう?私が料理が好きなのは、そういう理由からです。勿論、美味しいと言って食べてくれる人がいるのも重要ですけどね』
自分で作って自分で食べるのも良いが、食べて喜んでくれる人がいるというのは、料理をしようという強い動機になる。それはここ数ヶ月、あいつに食事を出していて気付いたことだ。勿論、この二人にも。
『ミサキ、出かけるんだろ?こっちはやっとくから、行ってこいよ』
『私達はこの後お昼寝だから、気にしないで』
食器を受け取っては拭いていると彼女達にそう言われたので、ありがたくお言葉に甘えることにした。二人共気遣いの出来るとても良い子だ。外出許可が降りるのもそう遠くない事だろう。
内線でオオイを呼び出すと、少し待ってから彼女が出た。どうやら食堂ではなく監視室で食事をしていたらしい。扉の外で食事中に呼び出したことを侘びて、駐車場に停めてあるクルマの所へと向かった。
食堂で食べる事になっている、と彼女は言っていたが、やはりこれも我々に対する特別措置のようなものなのだろう。とは言え、休憩時間にまで仕事をするというのは良くない。後でちゃんと別に休憩時間が取れるのなら良いのだが。
クルマの扉を開けて乗り込もうとした時に、サカキの乗っている黒塗りのクルマが戻ってきた。どうやら彼は外務省勤務なので、外で食べてくる事を許可されているらしい。
「こんにちは、サカキさん、お昼は外食ですか?」
「ああ、カラスマさん。そうです。ここの食堂はなんだか味気なくて」
駐屯地ではメニューも割と似たようなものになりがちなのだろう。海上防衛隊は割と凝ったものが出ると聞いたことがあるが、ここは陸上と航空の基地である。
「サカキさんはご自分で料理などは?」
「僕ですか?いえ、全然。というか、作ってる暇も無いですからね。休日も専ら寝て過ごしますし、大体ルームサービスか出前です」
世の働く独身成人男性は皆こうなのだろうか。以前のソウと殆ど変わらない。
かといってこちらが料理ぐらいしろだとか、料理してくれる相手を見つけろだとは口が裂けても言えない。そうですか、大変ですねとだけ言ってクルマに乗り込んだ。
クルマを出す前にソウにワイアードでメッセージを送る。答えを待たずにキーを捻って駐屯地を出た。
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