第7話 くっころガチ勢、命令を下す

「大丈夫か?」


「うん。もう大丈夫だよ」


ゾーラへと帰る場所の中、俺の問いかけにフローラは笑顔で頷く。

先ほどまで泣いていたので目が少し赤くなってしまっているが今の笑顔に無理している様子はない。

そこに少し安心した。


「ゾーラに帰還したら1-Sのメンバーと合流し、アルバー王国に戻ることになる。そこからはドレイク家の本拠地ベトラウの領主館に部屋を用意してあるからそこを使ってくれ」


「うん」


「むぅ……私よりも早くフローラさんと同居するんですか?」


「シンシア王女の部屋だって用意されているだろう?」


シンシア王女はまとまった休暇ができたときにドレイク領主館に来ることが多くなった。

アリスと遊んだり、母とお菓子作りをしているらしい。

そこで滞在が増えたシンシア王女の部屋が用意された。

ちなみにシンシア王女の部屋はアリスの部屋の隣で逆のほうの隣は小さい頃マーガレットが使っていた部屋がそのまま残っている。


「それにどちらにしてもフローラだって士官学校の寮に入るんだ。あまり同居って感じじゃないぞ?」


「そういえばそうでしたね。ジェラルトさんに出会ってから学生らしからぬ出来事が多すぎて少しずつ麻痺してきました」


俺がトラブルメーカーみたいな言い方をするのはやめてくれるかな?

どちらかというと巻き込まれてる側だぞ、俺は。

でも確かに戦争が起こったり、実戦訓練でやばい魔物を放たれたり、普通ではありえないゴーレムの襲撃があったり、テロに巻き込まれたりしてるもんな。

学生っぽいか?と聞かれれば正直答えに窮する。


「大演武会のときはジェラルトが守ってくれなかったら危なかったなぁ……」


「フローラも相当強かったぞ?学生の身であの男相手にあそこまで戦えるのはほとんどいないはずだ」


「それを簡単に倒したジェラルトはどうなるの?」


「たまたま剣を振ったところにたまたま敵が来た。それだけだ」


「そんなわけないでしょ」


流石に騙されないか。

というかそんなもので勝敗が決まったらあまりにも理不尽すぎる。

もちろん勝負には運という要素が付きまとうが振ったところに敵がいたとしてもそれはお互いの動きを見た読み合いを制した結果であり適当ではたどり着けない領域だ。


「俺の場合師匠が良かったからな。その違いだと思うぞ」


「マーガレットさん、だよね?あの人が戦ってるところは見たことないけど相当強そうだよね」


「ああ、師匠は強い」


師匠は髪が綺麗な赤色だし美人なのもあって相当目立つ。

フローラも誰がマーガレットなのかをわかっていた。

その実力も見抜いている辺りやはりフローラは実力者だと思う。


「妹ちゃんとも仲良くなりたいな」


「アリスは気難しい性格じゃないし大丈夫だと思うぞ。母上とお菓子作りをしてアリスに差し入れしてやればきっと喜ぶ」


女子はスイーツが好き。

全員に当てはまるわけじゃないがウチの女性陣には当てはまる。

何を隠そう俺もご機嫌取り用の日持ちするお菓子を部屋に常備しているし。


「ふふ、楽しみだなぁ……」


「アルバー王国がか?別にゴーラブルとそこまで気候や景色は変わらないぞ?」


「違うよ。ジェラルトやシンシア王女、みんなと日々を過ごすのが楽しみなの」


「………光栄なことだな」


一人の人間としてはこれ以上ない評価。

しかし一人のくっころガチ勢からすれば死刑宣告のような言葉。

喜んで良いのか悲しめば良いのかよくわからず返事をした。


「仲良くしましょうね」


「うん……!」


シンシア王女とフローラがなんかいつの間にか仲良くなってるし……

女子会でなにかあったのかな?

まあ俺には知るよしも無いし知る必要もないと思うけどな。


(その前に……平和なくっころライフを脅かすゴミを掃除しておかなくちゃならないな……)


俺は女子たちの仲よさげな声を耳に、空を見上げ目を細めた。


◇◆◇


ウォルターの街を出発し馬車に揺られること数日、俺達はゴーラブル王国首都ゾーラへと戻ってきた。

ウォルターの街も自然や空気が綺麗で良かったがゾーラの活気も悪くない。

こういうのはどちらが良いとかではなく個人の好みの問題だろう。


「お疲れだったな。二人共体は大丈夫か?」


「私は癒やしの魔力があるから大丈夫だよ」


「私も馬車は乗り慣れていますから。少し体が凝りましたがこれくらいなら体を動かしていれば治ります」


お、おう……俺の婚約者はめちゃくちゃタフだな……

というかフローラの能力は本当に強力だな。

放出系の魔法は使えないというこの世の理だがそもそもフローラは自分を治す際に癒やしの魔力を体外に出す必要が無いので魔道具無しで自分を回復できる。

化け物かな?


「それならばいい。俺はやることがあるからこれで失礼する」


「またボランティアか何か?」


「あれはたまたまだ。今回のはドレイク家として動く」


「わかりました。ではお邪魔しないように私達はこれで失礼します。行きましょう?フローラさん」


「あ、うん」


シンシア王女はフローラと一緒に歩いて去っていく。

エセルも後ろから着いていったので安全面は問題ないだろう。

ドレイク家の諜報隊も護衛についてるしな。


「さて、と……」


俺は尾行に気をつけながら歩き出す。

そして路地裏のほうにある一軒家の前で止まり扉を開けた。

外のボロボロの見た目とは裏腹に内部はとても綺麗に整備されている。


「誰かいるか?」


「はっ、ここに」


俺の問いかけに何者かが応える。

そして暗闇の中から何人もの人が現れた。

ほんとこいつら気配を隠すのが上手いよな。

どうやってやってるんだか……


俺はリビングらしき部屋に置いてあったソファーに腰をかけると現れた奴らはついてきてひざまずく。

その正体はドレイク家の諜報隊。

この家はゾーラにある諜報用の一軒家だ。

現れた人間の中にカレンの姿もあった。


「カレン、なんだか久しぶりのような気がするな。元気だったか?」


「はい。体調に問題はありません」


「ならばいい。体調を崩すとシンシア王女や母君、ランとロンに心配されるぞ?最低限気をつけておけ」


「はい。私としてもシンシア王女殿下と家族に心配をかけるのは本意ではありませんので」


ならいいか。

正直諜報隊って前世だったら労働基準法違反で訴えられそうなくらい働いてもらってるから俺がそんなこと言える立場じゃないのはわかってるけど言っておく。

自分には心配してくれる人がいるということを意識するだけでも人は力が湧いてくるものだ。


「さて、今日来たのは他でもない。諸君らに頼みたい仕事がある」


「はっ。我らジェラルト様の命じるままに。何なりとご命令くだされ」


「─────────てこい」


「っ!?ご主人様!?本気ですか……!?」


俺の命令にカレンが驚きの声を上げる。

しかし諜報隊メンバーはなんの声も漏らすこと無く頭を下げた。


「どれくらいやっていいのでしょうか?」


「犯人が俺達だということはバレても構わない。むしろそれくらい派手にやってくれ。ただし絶対に相手がこちらを糾弾できるような証拠を残すな」


「御意。必ずや結果を残してみせましょう」


本当に頼もしいな。

流石ドレイク家が誇る諜報隊だ。

言葉に重みがあるし任せられる安心感もある。


「ご主人様……!本気でやるというのですか……?」


「俺が冗談でこんなことを言うと思うか?」


「いえ……それは……」


「異論は認めない。これは既にとして決まったことだ」


「……!わかりました。全力を尽くします」


「君の活躍にも期待している」


「はっ」


この機に教えておいてやろう。

ドレイク家は誰にでも優しく、清いヒーローのような家ではない。


優しいだけではこの世界はやっていけないということを──

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