☆10000感謝SS
(なぜこうなった……)
俺は今、絶賛赤ちゃんになっている。
その理由としてはヴィクター王子が面白い薬を仕入れてきたと言ってなんか変な色をした液体を持ってきたのだ。
毒物検知の魔道具に反応しなかったので興味本位で飲んでみたらこの通り……
多分毒物の範囲が『体が死に至る、もしくは身体を傷つける』という条件なのだろうな。
はぁ……これ戻れるのか?
「あ、ぁぅ……」
呂律も回らず喋ることができない。
まるでもう一度転生したみたいだ。
やべ、なんだか眠くなってきた……このまま寝たらまず……い……
◇◆◇
私、マーガレット=カートライトは今所用でドレイク家の屋敷を訪れていた。
侯爵夫人であるオリビア様に挨拶をして所要も終え、まだ時間があったので久しぶりにジェラルトのところへ顔を出そうと思って屋敷内を歩く。
子供のときこの屋敷で数年間お世話になったので迷うことはない。
(それにしても本当に月日が流れるのは早いわね……)
数年前のことなのに昨日のことのようにジェラルトとの修行の日々が蘇る。
ジェラルトの自室の前に着くと私はつい手鏡を取り出して身だしなみが乱れていないか確認する。
普段はそこまで気にすることはないけど、やはり気になってしまう。
(べ、別に意識してるとかじゃないけど……そう、これは師匠としてだらしないと思われないために必要なこと……気にするのは当然なのよ……)
誰も聞いているはずないのについ心の中で言い訳じみた言葉を吐く。
だがジェラルトはあくまで弟のような存在であり異性としての対象ではない。
本当にこれは師匠として意識してるだけなのだ。
「はぁ……なんでこんなに私が色々考えてるんだか……気にしすぎてもしょうがないしもうやめよ……」
私は手鏡をしまい一つ息を吐く。
そしてコンコンと扉をノックした。
「ジェラルト。マーガレットよ。開けてくれる?」
しかし返事は一向に返ってこない。
おかしい、オリビア様には間違いなく自室にいると言われたのに。
もう一度ノックをするが先ほどと同じように部屋は静まり返ったままだった。
(一度出直そうかしら……あら?)
私はジェラルトの部屋の扉が微妙に開いていることに気づく。
本当は良くないことだが私は意を決してドアノブに手をかける。
施錠もせず扉が開いているということは何者かが侵入した可能性がある。
ジェラルトが人質にとられるとは思わないがたまたま部屋を留守にしている最中で泥棒が侵入している場合を考え、私は剣をすぐに抜けるように手を添え扉を勢いよく開いた。
(泥棒じゃない……?えっ!?)
私はありえないものを目にした。
部屋の中心でなぜか赤ちゃんが寝ていたのだ。
しかも周りにはジェラルトのものと思わしき服が散乱している。
「赤ちゃん……?一体なんでこんなところに……?」
まさかジェラルトの隠し子とか?
でもあいつは女性関係のことを隠すのはとことん苦手だしそもそもイアン様がそれを許すはずがない。
仮に妊娠させてしまったとしても堕胎させ闇に葬るはず……
それに私が育てた愛弟子は天才だけどバカだし突拍子もないことをすることもあるが人を傷つけることはしないはず。
ということは使用人の子か、どこかの家の赤ちゃんを一時的に預かってるとか?
「もう……こんなところで赤ちゃんを一人で放置しちゃダメじゃない……」
私は赤ちゃんを近くにあった大きめのタオルでくるんで抱き上げる。
幸い体はあまり冷えていないようだった。
私の腕の中の赤ちゃんは黒髪の男の子。
年は1歳くらいだろうか。
すやすやと眠る姿は可愛らしい。
「ふふ、可愛いわね……」
実は私は赤ちゃんに限らず子供が好きだったりする。
カートライト家では末っ子だったので、お世話されることはあれどお世話することはあまりなかった。
なのでアリスが産まれたときは可愛くてしょうがなくてたくさん構いまくったのだ。
今でも私のことをメグ姉と呼んでくれて嬉しい。
「それにしてもこの子、なんだかジェラルトに似ているような……?本当に隠し子じゃない……?」
見れば見るほどなんだかジェラルトに似ているような気がする。
まあそんなわけないか。
まだ赤ちゃんなんだし、顔で判断するのは中々難しい。
髪の色も珍しくない黒だし。
「んぅ……」
赤ちゃんは何やら寝言のように言葉を漏らしながら眠っている。
指を手のひらに差し出したらぎゅっと握ってくれるのがなんとも微笑ましかった。
「私とあいつが結婚したらこんな感じなのかしら……………っ!?」
口にしてから自分の失言に気づく。
こうしてジェラルトと同じ黒髪の赤ちゃんを抱いてるからつい漏れてしまっただけで本当に他意は無かった。
(わ、私とあいつで赤ちゃんができるわけないでしょ……!何言ってんのよ私……!)
私はすでに20であり、貴族の女性としては結婚適齢期がもうすぐ終わりそうな頃。
だが父も政略結婚ではなく騎士として大成したいならそれでいいと言ってくれた。
良い縁があれば結婚したいが特に出会いもない。
そんな私が次期侯爵の子供を産む、なんて言うのは冗談では済まされず増長にもほどがあると言われることだろう。
「誰にも聞かれてない……わよね?」
周りを確認するが人の気配は全くない。
今ばかりは使用人が少ないドレイク家に感謝しかなかった。
私はホッとして息をつく。
「全く……ジェラルトに聞かれていたら笑われてたわね……」
私は再び腕の中で眠っている赤ちゃんをじっと見つめる。
やはり見れば見るほどジェラルトにそっくりな気がしてきた。
「……あなたもあいつみたいにすごい人になれるかもね。まああいつみたいに女の子の気持ちを察してあげられないのはダメだけどね」
そして私は優しく赤ちゃんの頬にキスをする。
すると突然赤ちゃんの体が光りだした。
「えっ!?一体何が起こってるの!?」
突然のことに驚いたといってもまさか赤ちゃんを放り投げるわけにはいかない。
取り敢えずすぐに赤ちゃんをベッドに寝かせ、守る体勢に入るがあまりの眩しさに目を背けてしまう。
「ん……今の光は……そうだ!赤ちゃんは!?……ひゃあ!?」
後ろを振り返るとそこにいたのはなぜか裸で寝ているジェラルト。
布団で大事なところは隠れていたが恋人がいたこともなく、そういう方面にまったくもって耐性がなかった私はすぐに顔を背ける。
顔が熱くてたまらない。
「ふわぁ……ん?師匠?」
「じ、ジェラルト!?」
「……俺なんで裸なんだ?まさか師匠……」
「わ、私じゃないわよ!?」
このままでは男の部屋に忍び込んで寝ている間に服を全て脱がすという師匠としての威厳どころか変態淫乱女になってしまう。
なんとしても誤解を解かなくてはと焦る。
「部屋の扉が少し開いてたから侵入者を警戒して突入したら赤ちゃんがいたの!それでいつの間にかこんな状況に……」
「赤ちゃん?いや、待てよ……そういえば……」
「心当たりがあるの?」
「ああ。ヴィクター王子から怪しげな薬をもらったんだが飲んだら赤ちゃんになってたんだ。で、眠気に耐えられなくなったわけだな」
その言葉で私は事の真相を理解する。
つまり私が最初にジェラルトの隠し子なんじゃないかと疑った赤ちゃんはジェラルト本人で私は相当なやらかしをしてしまったのだ。
「〜〜っ!バカッ!」
私はジェラルトに今の顔を見られないように部屋を出る。
つまり抱っことか、き……キスとかも赤ん坊だったとはいえジェラルト本人にしてしまっていたということ。
(は、恥ずかしい……うぅ……私なんであんなことしちゃったんだろ……)
せめてもの救いはジェラルトの赤ちゃん云々の話が聞かれていなかったことだけである。
だがそれでも唇に残る温かい感触は消えてくれそうになかった──
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