第28話 くっころガチ勢、違和感の正体に気づく

「はぁ……はぁ……!」


剣を振るう音だけがその場に響く。

かれこれ何時間もずっと剣を振り続けていたのでいくら魔装で身体能力が上がると言えど息は切れ、疲労の重みはどんどん増していった。


(もっとだ……!もっと早く的確に滑らかに……!)


今は魔装を普段より意識して動かしまくり、自分の身体にワンポイントだけ強化したり逆に強化しなかったりと戦闘に応用できるように剣を振りつつ魔装の訓練をしている。

マーガレットに負けたままではいられない。

勝負自体は引き分けだったけど、魔装の扱いは圧倒的にマーガレットのほうが上手いからな。

根詰めすぎてもしょうがないしここらへんで一度休むか……

俺は剣を振るのを止め、額に流れる汗を拭う。


「ご主人様。休憩ですか?」


「ああ、一度小休止を挟んでから再開する」


「承知しました」


この場にいたのは俺以外にカレン一人だけだった。

彼女は恭しく礼をしてタオルを手渡してくれる。

最初は拭おうとしてくれてたんだけどなんかやってもらうのもなんだか気恥ずかしいし、手渡してくれるだけでいいと言ってある。

俺はあらかじめ持ってきていた休憩用の椅子に座るとカレンが水筒を手渡してくれる。


「すまないな。感謝する」


「いえ、本当は紅茶をご用意しようと思ったのですが訓練後はこちらのほうが良いと思いまして」


いくら誰も見てないとはいえ、紅茶をがぶ飲みするのはマナー違反だからなぁ……

水筒のほうが気兼ねなく飲めてありがたい。

喉乾いてるからせっかく丁寧に淹れてくれた紅茶も味わえないと思うしな。


「それよりもどうだったか?」


「はい」


今のカレンはトレードマークとも言えるメガネをかけていない。

というのもカレンがメガネをかけている理由は目が悪いからではなく魔眼からの魔力漏れや発光を防ぐため。

今日は俺の訓練を効率的に行うためにカレンを呼んでいたのだ。


「かなり良くなってきたように思います。ただまだ若干体に魔力がついてきていない印象を受けたので、普通に魔力を纏ったほうが強力で速い攻撃を放てると思います」


カレンの魔眼は魔力やその流れが見える。

取り繕うことなく見たままを話せと厳命してあるので、カレンの言うことは間違いない。

これ以上無い効率的でほぼ反則的な訓練方法なのだが今ひとつ使いこなせない。


「………そうか」


悪くはないが、良くもない報告に俺は思わず唸る。

再会したばかりの頃のあのマーガレットの動きはやはり凄まじく繊細な魔装の制御によるものだったんだな。

これを自分の頭で考えて実際にやってのけて技術法を確立したマーガレットは受け継がれし紅月流の中に名を残していいと思う。

魔装に関する技術はただ自分にかけて身体や五感を強化する、としかなかったので魔装の奥義みたいな感じで。

まあマーガレット以外に使える者が現れるかはわからないが。


「やはり師匠は天才だな……こんなの思いついても難しすぎて誰もやろうと思わないぞ……」


「一度マーガレット様の動く魔力を見たことがありますが凄まじいの一言でした。あれほど自由で速く的確に魔力を動かせる人を私は見たことがありません」


「だろうな。やはり師匠は簡単に超えさせてくれないか……」


本気でりあえば5割以上で勝てると思う。

だがマーガレットが使えて俺が使えない技術がある以上それは超えたとは言えない。

マーガレットは今もなお師匠として俺の前に立っているのだ。


「ですが私から見ればご主人様も大概の怪物ですよ。私が今まで見てきた中で魔力の才トップ3に入れます」


「ちなみに後の二人は?」


「マーガレット様とフローラ様です」


フローラか……

実力という面ではまだ確かに少し荒削りなところがあるが癒やしの魔力とあの魔力量は反則級だ。

才があるというのは間違いない。

アリスも無意識に魔装を使っていた時点で才能があると思うがそれ以上に剣の才のほうがありそうだったからな。


「ジェラルト様、来客でございます」


「来客?」


俺が後ろを振り返ると白い髪を風ではためかせ儚く立っている少女の姿があった。

へえ……自分から来るのか。


「おはようございます、ジェラルト様。こんな朝早くに申し訳ありません」


「別に構わない。それよりこちらこそこんな格好ですまないな」


俺の今の格好はお世辞にも貴族らしいとは言えない機能性重視の訓練用軍服に汗をかいた姿。

貴族令嬢と会うならばやっちゃいけない服装ランキングのかなり上位に食い込む

服装だろう。

まあアポ無しなので準備などできないのだが。


「それでどうしたんだ?」


「……父が婚約に了承しました。陛下の名の下に近々アルバー王国と合同で声明を出すそうです」


やはり断れなかったか。

もしくは断らなかったか。

どちらにせよ婚約は確定し、フローラは俺達がアルバー王国に帰るタイミングで一緒にアルバー王国へと行くことになるだろう。

やはりこれも俺の日頃の行いかな。

まさかこうも上手くいくとは。


「それでは私はこれにて失礼させていただきます。いきなり押しかけてしまって申し訳ございませんでした」


フローラは一礼してここから去ろうとする。

だがまだダメだな。

もう少し確認しておくべきことがある。


「待て。少し聞きたいことがあるのだがいいか?」


「……?なんでしょう?」


「君はこの婚約のことをどう思っている?」


今のフローラの心情を確認するのはとても大事なこと。

過去にそれでやらかしているのだから同じ失敗は繰り返さない。

仮に取り繕うとしても少しでも異変があれば俺のくっころセンサーが反応しないことで気付ける。

それによってこれからの行動を変えようじゃないか。


「……ありがたい話だと思っています。これから私も貴方様の支えになれるように──」


「話の途中で止めてしまってすまない。よくわかった」


俺が止めるとフローラは不思議そうに首をかしげる。

たった今、今まで抱いていたフローラに対する違和感に気づいた。

フローラの言動には

唯一感情をむき出しにしていたと感じたのは戦っていたときだけ。


だがそれではダメだ。

俺はくっころを見るなら本人のコンディションばっちりの状態で感情のこもった迫真のくっころを見たいのだ。

好きじゃない相手と婚約しないといけないからって感情を殺されては困る。

ぜひともありのままの姿でくっころしてほしいものだ。


「一つ、俺から言わせてもらおう」


「……はい」


「そんなに良い子ちゃんしていて楽しいか?」


ここからがくっころの質と安定を目指すためには避けて通れぬ道。

上手いこと彼女の本当の姿を引き出してやらねば……!


世にも美しき聖女くっころをこの目に焼き付けるために──


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