第4話 くっころガチ勢、感謝される

「いやはや、今日という1日は色々な事があったな」


「全くですよ、本当に驚きました」


放課後、俺はヴィクター王子の部屋に招待されていた。

内装は俺の部屋と変わらないがこの部屋には強力な結界が張り巡らされていて防犯性が凄まじい。

まあ俺も母から大量の魔道具を渡されたからこの部屋と同じくらい防犯性は確保されているけども。


「座ってくれ、茶でも出そう」


「そんなにお気遣いされずとも構いませんよ?」


「何を言うんだ。将来の義弟に粗相などできるはずもないだろう?余がシンシアに怒られてしまう」


「……それはそうかもしれません」


今、一瞬でヴィクター王子がシンシア王女に怒られている姿が想像できてしまった。

まあいつも怒られてるしな。

俺がお言葉に甘えて座っているとヴィクター王子がお茶を出して俺の正面に座る。


「いただきます」


そう言って一口、口を付けるといい香りが鼻を抜ける。

茶葉も良いが淹れる腕も良い。


「美味しいですね。使用人がいずともこんなに素晴らしいお茶が出てくるとは思ってませんでした」


「はっは!王族たるもの専門家ではなくいろんな知識を持つ万能者でなくてはならんのだよ」


「ええ、驚きました」


「まあシンシアには敵わんがな。今度中庭で婚約者どうしで茶会でもしたらどうだ?」


「そんな目立つところでしたくありませんよ。それが狙いなんでしょうけど」


「照れずともよいだろう。仲が良いのは良いことだからな」


そう言ってヴィクター王子は頷く。

でも今度シンシア王女のお茶も飲んでみたいな。

お菓子作りが好きな母さんと気が合うかもしれないし今度提案してみよう。


「そろそろ本題に入りますか?」


「待て、その前にお前に言いたいことがある」


「……?なんですか?」

 

「お前カートライト嬢にデレデレだったな」


「ブフッ!?」


思わず口の中のお茶を吹きそうになる。

見るとヴィクター王子はニヤニヤしながら俺を見ていた。


「……そんなことありませんよ。あくまで師弟という関係性でしかありません」


「そうか?」


「この話続けるならもう味方してあげませんよ?」


「ハッハッハ!それは困るな。だがそれなら別にいい」


ヴィクター王子はひとしきり笑った後、真面目な顔になる。

それを見て、俺も一つ姿勢を直した。


「それで、どうだった?」


「時期といい内容といい、まず人為的と見て間違いないでしょうね」


俺たちが話しているのは先日のベトラウへの魔物襲撃事件の話だ。

昨日父の代官として政務を一時的に取り仕切っている母から調査の途中経過の資料を預かっていた。

機密情報もあるため全てを見せることはできないが、ある程度まとめた資料をヴィクター王子に渡すと、すごい速度で目を通し始める。


「……なるほど」


「当時魔物の出現を直接確認した者によると近くの森から次々に魔物が現れたそうです。定期的に魔物狩りをしているのでこの量の発生はありえません」


方法はまだ判明していないがこの数は流石に自然発生とは思い難い。

そしてもう一つ根拠がある。


「ゴーレムがベトラウ近郊に出現した例が過去に無いか調べてみましたがここ100年の記録では一回も出現していませんでした。たまたまとは思えません」


「確かに出来すぎているな。そうなると目的はなんだと考える?」


「正直に申し上げますと掴み切ることは出来ないかと」


そう、敵の狙いの候補はあげることはできても絞り切ることは不可能に等しい。

なぜなら軍や一般人に怪我人は出たものの行方不明者や死者は出ていない。

空き巣が多少あったが重大な物も何も盗まれていないのだ。

軍を消耗させると言っても本隊は父と共に遠征に出ているしヒントがあまりにも少なすぎる。

所詮は想像の域を出ないのだ。


「シンシアを狙った可能性は?」


「それは無いと思います。もしそれが狙いなら成功してもおかしくない程度には危うかったので」


俺がそう言うとヴィクター王子は苦い顔をする。

家族が狙われていい気がする人はいないしシンシア王女は政治的にも重要な人物。

それだけ今回の件は危うかったのだ。


「本当にすまなかった。シンシアはそなたを嫌っている様子だったので事が本格化する前に片付けなくてはと思ったのだ。敵が動き出すタイミングを見誤った余の失態だ」


だがヴィクター王子の言うことも分かるのだ。

マーカム公率いる貴族派と本格的にやり合うなら王家とドレイク家の連携は必須だ。

不仲なのは良くないしいざ争いが始まってから仲直りなどしている時間はない。

もしわかり合うならこのタイミングしかなかったのも事実なのだ。


「いえ、私こそ申し訳ありません。私の噂や態度が事の発端だったわけですし責任は私にもあります」


「ずっとそのわけは聞きたかったが……今の余に聞く権利はないな。あくまで今回は王家の責任でありそなたに責は無い。訪問だって知らなかったわけだしな」


「承知しました」


シンシア王女もヴィクター王子とロナルド王にこってり絞られたらしい。

マーク殿がいればシンシア王女もあそこまで命の危機に晒されることもなかっただろうしな。


「そなたがいなければ、しかもあと少し遅れていれば妹の命は無かったと聞いた。王子として、一人の兄として礼を言わせてくれ。本当にありがとう」


ヴィクター王子は頭を下げてくる。

王族としてだけでなく家族としてだからこそ頭を下げたのだ。

俺は首を横に振り、ヴィクター王子に顔を上げてもらう。


「目の前に困っている人がいれば助けるのは当然のことですよ。まあ助けた人物がシンシア王女だったのはびっくりしましたけどね」


「……ありがとう」


やはりなんだかんだ兄妹仲は良いんだよな。

会ったばかりだけどアリスに会いたくなってきた。

今頃頑張って剣の訓練でもしてるのかなぁ……


「この話はもうやめにしましょう。どちらが悪いという話をしても前には進めませんから」


「ああ、同じ過ちは繰り返さない。そう心に誓おうじゃないか」


一度やったら二度目をやらない、それが人間にとっては難しく大きく前に進んだ証だ。

反省して次に活かせばあとは抱え込みすぎるだけ時間の無駄というもの。

俺もシンシア王女のくっころが絶望的になって一時は目の前が真っ暗になったがずっとそのままではさらなる大物を逃すかもしれない。

切り替えは得意なのだ。


「では今回の首謀者は大体決まりだな」


「ええ、マーカム公でほぼ間違いないかと」


タイミング的にマーカム公しか考えられない。

シンシア王女を横から掻っ攫われた八つ当たり、小手調べ、嫌がらせ。

ちょっかいをかけてくる理由は大いにある。


「どうせならば尻尾を出してくれるとありがたいんだが」


「相手は何十年も権の座に居座った古狸ですよ。そう簡単に尻尾は出さないでしょう」


「わかっている、言ってみただけだ。本当に厄介なこと極まりない」


「私も全力で力になりますよ。殿下の剣として、義弟として、ね」


「ふっ。余は良い剣を持ったものだ。頼りにしているぞ」


「ええ、殿下が我が夢の邪魔をしない限りいくらでも力を貸しますよ」


俺達は口では少し物騒になりながらも表情は穏やかに笑い合うのだった──

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