異世界転生したので本物のくっころが見たい!と思って悪役を演じながら女性騎士と片っ端から戦って負かしまくってたらみんな俺に懐いて即落ち二コマだった
砂乃一希
1章 正義の姫騎士編
第1話 くっころガチ勢、死す
くっころ。
それはこの世の神秘であり宝。
気高き女性が敗北してもなお強く、誇り高くあろうとするその姿に紳士諸君はゲフンゲフンと鼻息を荒くするのである。
そして俺、
どこにでもいるような一般男子高校生でお小遣いは全てくっころヒロインが出てくる漫画や同人誌を買うためだけに使った。
それでもまだくっころを求める俺の心は収まらずついにはあまり人付き合いが得意じゃないのに衝動でバイトを掛け持ちしまくりその給料すらくっころに全ツッパする自称くっころガチ勢。
これはそんなくっころガチ勢の俺がくっころを見るためだけに奔走する物語である──
◇◆◇
「ふわぁ………」
朝、いつも通り登校してあくびをし目尻に浮かんだ涙を拭う。
昨日の研究も実に興味深く没頭してしまい寝不足なのだ。
「はは。今日も寝不足か?駿」
そんな俺を見かねて親友である
田村もくっころ好きの同志であり高校に入ってお互いの好みを知った瞬間すぐに意気投合した。
まさに生涯の友と言っても過言ではない。
「研究に少し熱が入っちまってな。見るか?くっころで話題になった漫画の最新話だぞ」
俺がスマホを差し出して漫画の映った画面を見せると一成は不敵に笑う。
そして俺にスマホを見せつけてくるとその画面にはくしくも俺が見せた漫画の最新話が映っていた。
「ふ……俺がそれを見逃すはずがないだろう……?当然昨日配信された瞬間に見たさ!」
「おお……!だが、まだ甘いな。これを知っているか?」
俺はスマホを制服のポケットにしまいカバンの中から一つの本を取り出した。
いわゆる同人誌というやつであり最近あったイベントで見つけ秘蔵コレクションとして俺の部屋の本棚に飾ってあったのを今日は気まぐれで持ってきていたのだ。
「な、なんだそれは!?」
「これはだな。まだあまり名の知られていない作者が書いているものなのだが……画力も展開も素晴らしく何よりも!ヒロインが敵に敗北し悔しさをにじませながらも芯は全く折れていない表情!読んでみたくはないか?」
「お、おお……!ま、まさか読ませてくれるのか!?」
「ふ、俺とお前の仲だろう?もちろん構わないさ」
そう言って俺は一成に同人誌を手渡すと一成は震える手でそれを受け取り丁寧な手つきで食い入るように読み始めた。
やはりこうやって丁寧に本を扱ってくれるし気も合うからこいつと一緒にいるといつも楽しい。
一成からの感想を聞くべくワクワクしながら待っていると本を読み終わった一成が目を輝かせてばっと顔を上げる。
「これはすげぇな!この作者は天才だ!」
「フフフ……だろう?」
「ああ!俺この作者のファンになった!次の作品も絶対に買うわ!」
こんなにも喜んでくれるんだったら読ませてあげて正解だったと思う。
俺もこれを買って帰ってから読んだときはあんなにも小さいスペースに書かれていたくっころの4文字を見逃さなかった俺を褒めてやりたい。
おそろしく小さなくっころ……俺じゃなきゃ見逃しちゃうね。
「今度この作者がSNSで出るって言ってたイベントがあるんだが……一緒に行くか?」
「行きたい!ぜひ行かせてくれ!」
「わかった。日程はこの日だが大丈夫か?」
「予定があってもなんとかして空けるから大丈夫だ!」
清々しい笑顔と共にサムズアップする一成。
こいつ大丈夫か?と思いつつ俺も同類かそれ以上にやばい自覚があったので何も言わなかった。
そして放課後。
俺達は並んで帰路についていた。
お互い最近読んだくっころについての情報交換をする。
「それでだな。その作品の最後に──」
「おい、ちょっと待て」
俺が得意げにある同人誌について語っていると一成が静止しある場所を指さしていた。
俺もつられてそちらに目を向けると俺達と同じくらいの派手目な女の子が不良っぽい集団に囲まれていた。
「い、いやっ!離して!」
「へへ……ちょっと遊ぶだけだぜぇ?楽しいしついでに気持ちいいかもなぁ!」
そこそこ距離はあるはずなのに会話の内容がこちらまで聞こえてくる。
どうやら結構揉めているらしく女の子が必死に抵抗する様子が詳しく見れなくても伝わってきた。
通りすがりの人達も相手が不良だからか誰も助けようとしない。
「行ってくる」
「へ?おいちょっと駿!」
俺はカバンをその場に適当に置き走り出す。
運動もできないし正義感があるわけでもない冴えない部類に入る俺が何の躊躇もなく走り出したことに自分でも驚いていた。
俺は全力疾走し息切れした状態で女の子を庇い不良たちの前に立った。
そんな俺をリーダー格の男が機嫌悪そうに睨みつけてくる。
「あん?なんだお前」
「通りすがりの高校生です。彼女が嫌がってるのでやめてあげてくださいませんか?」
「はぁ?俺等はなんも悪いことしてないぜ?ただそこの女に遊ぼうって声かけてるだけさ。なぁお前たち?」
「ギャハハ!違いねぇ!」
「気持ちいい遊びだもんなぁ!」
正直怖くてしょうがない。
今までの人生喧嘩なんてしたことないしカースト上位の奴らにはくっころで盛り上がることを除いて目を付けられないように行動してきた。
そんな俺がいきなり不良たちの前に立っている。
昨日の俺に言っても信じられないような現実だ。
「ほら、さっさとどけよ!」
「ぐっ──!?」
いきなりリーダー格の男が拳を振り上げたかと思うと左頬に急激に衝撃と熱が来て倒れ込む。
殴られたのだと気づくのにそう時間はかからなかった。
普段の俺ならここで泣き出して立ち上がれなかったかもしれない。
だが俺は立ち上がって殴ってきた男たちを睨み返した。
(はは……何やってんだ俺。でも俺がどうしてこんなことしてるのかわかった気がする……)
「あん?なんだよその目は」
くっころとは信念を持ってヒロインが戦い敗れそれでも誇り高くいるからこそ美しい。
だがこんなのは一方的に攻撃するだけのただの集団イジメであり何一つとして美しくない。
同じ女の子がやられるシチュエーションだったとしてもこれは俺に美学に反するんだ!
「くっころの美しさを知れぇぇぇ!!!」
俺が殴りかかると喧嘩慣れしていない俺の攻撃なんて当たるはずもなく逆にボコボコにされる。
それでも許せなくて食らいつき続けた。
「チッ!本当になんなんだこいつ!」
「くっころの……美しさを知れ……」
「ああもうめんどくせぇ!」
そして男が叫んだかと思うと脇腹に先程までとは比べ物にならないほどの熱を感じる。
痛みも今までの人生で一番で上手く呼吸ができない。
(痛い……息が……できない……)
見ると俺の脇腹にナイフが突き刺さっていた。
血が止まること無く吹き出しその場に崩れ落ちる。
意識がどんどん遠のいていき死が近づいてきているのがわかった。
(ああ……俺はここで死ぬのか……最後に……本物のくっころが見たかったな……)
そこで俺の意識は途絶えた──
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