【希望】に絶叫するのは、
キャラ考察する感覚で激ヤバ状況を見極めちゃいけない
「この人、めっちゃが三個くらいつく勧善懲悪系の、どヒーローですよ?!?!?!」
颯天の大声が響き渡った。
次の瞬間の颯天視点、里盆と氷波がギョッとした顔で振り向き、隣を見れば正と雪葉が引いた目で見てくる。その刹那、颯天は自分の声量が思いのほかクソデカだったことに気がついた。
「す、すみません…」
「いえいえ。お気になさらず。ご存知の方なら当然の感想ですから」
なんとこの家の人たちは颯天の言ってることが正しいとわかっている上でこの人に協力を依頼したらしい。それって大丈夫?そもそも反ヒーロー派ってヒーローと協力しなくない?というのが率直な感想であろう。
「颯天くん。大事なのは、ここより酷くて大きい悪の組織があるということだよ。より大きい悪を消すためには、小さい悪くらい利用しなきゃ」
発言したのは朝陽だった。合理的と言えば聞こえが良いが、颯天の考えるヒーロー像より効率の良さへの思い入れがバッキバキだ。
「あ、せんぱい…目の前で小さいとか言うのはマナーが欠けてますよ…」
「胸張ってモラル欠かしてる相手にマナーなんていらないよ〜」
話が通じない。颯天がイラついていると、気の利く爺さんが話を変えてくれた。
「ところで、話ばかりというのもつまりますまい。余興に、これを聞いてもらいたい」
組織挨拶の時点でかな〜り余興だったが、本人たちは満足してないらしい。北斗会メンバーが立ち上がると、なんだか喧しくなった。
それは何故かと言えば、楽器とかカラオケ機とかよくわからんロボットとか、喧しい物が出てきたからである。
「えー、それでは。ワン・ツー、ワン・ツー・スリー・フォー!」
星彦の合図で少年少女幼女がエレクトーンやベースギターを弾き始め。
「はるか未来まで〜〜君と約束する〜んだ〜…未完結スト〜〜リ〜〜〜〜ッ!」
咳払いした流星がぶりっ子声の張り上げのクソ高クソデカボイスで歌い始め。
「やめろおおおおおおおお!!!うわあああああああっ!!!!!」
余裕の表情だった朝陽が溶けそうなくらい真っ赤になって演奏を止め始めた。
みたらし側は、何一つ状況を理解していない。分からないけど、どっちかのテンションには合わせたほうが良さそうなので、満場一致で手拍子を始めた。
「い〜つか〜見〜た〜♪星降る〜よ〜る〜は〜♪」
「黙れーーーっ!!!」
「君の〜ひと〜みと〜似て〜いた〜ん〜だ〜♪」
ここで難しそうなギターソロが来る。しかも弾いてるの雪葉の友達であろう幼女。
二分ほど経って、演奏は終わった。ヒーローにくれてやる気遣いなどないみたらしメンバーはスタンディングオベーションしている。
正はチキりが、颯天は気まずさが勝って、ささやかな拍手を送った。
「そんで、何やったんです?さっきの歌」
「星空朝陽さんがアイドルデビューの三年前に各種動画投稿サイトで初投稿したオリジナル曲です。総再生回数は自分で上げた切り抜き縦動画を含めて、千回弱でしょうか」
叫び狂いそうな朝陽を片手で止めながら話す流星。しかしオタクの颯天は考える。
「オタクたちも見てないんですか?」
「ええ。アカウントは削除されて、新しくなりましたから」
「じゃあなんで…」
「個人的に星空さんとの交渉材料を探しているときに埋もれた古参の投稿から手がかりを発見しまして。音源を発掘して練習して、顔を合わせた途端に流せばあら不思議、星空さんは大慌てでこのように…」
「黙れっつってんだろぉ!!!」
声を聞いて見上げれば、さながらツンデレキャラの如く茹で上がった顔で羞恥心と怒りに震えながらアイドルらしからぬ罵倒をする朝陽がいた。
これはこれで…とか言わせないほどの怒りのオーラを纏って全員を思いっきり睨んで、朝陽はソファに腰掛けた。
「とにかく!!私は一時的に北斗会に協力するだけ。君らもそうでしょ?」
「おや、お知り合いで?」
「知ってるも何も、この子らヒーロ」
「エスパー発動!!」
雪葉は急いで時を止め、朝陽の口…というか喉の奥にきな粉を突っ込んで未来の言葉を止める。ちなみにきな粉は、こういうときのために標準装備してあるものだ。
「解除」
「ゲホッゲホッ!…うぇっ…なにこれ…」
ここでもエスパーの出番である。
(ヒーローってバラしたら殺す!!!)
その念をひたすら朝陽に送り続けて、諦めたように口を閉ざした彼女を見たのでようやく雪葉の仕事は終わりだ。
「それで、先ほどは何と?」
「いえ…同年代がいると咄嗟に同意見を求めてしまう発作があって…」
意味不明な言い訳をしているが、ヒーローとバラしてないので許容範囲内だった。
ーーーーーーーーーーーーー
「じゃあ合意ということで…!」
「合意パーリナイしますか!」
「しましょう!」
なんということだろう。パーリナイは悪の組織ではメジャーな行事のようだ。何も理解できない正たちの気持ちは、勉強する範囲を間違えていたテストを見た時とよく似ている。
「はいあなた、煙が出ないクラッカーですよ!」
「おじいちゃん!おれカレー食べたい!」
少年のおれの発音が完璧な小学生男子のお↑れ↓だったので、颯天は感動してしまった。
「カレーか…月子は作れるか?」
「無理ですよ、あなた」
この月子というらしい婆さんは料理が苦手なようだ。颯天は自分が作るのを申し出るべきか迷っている。正は抹茶スイーツが出ることを期待しているだけだった。
「よし、こんなときこそアレの出番だな!」
「どれ…?」
「最近話題のデリバリ・イサアビス!」
「デリバリーサービスですけど…?!」
田舎でもないのにこんなことも知らないお爺さんもいるのか…と流石に正も引いている。しかもデリバリーサービスって流行りとしてはちょっと前のやつである。
「作らんのですか?」
里盆は咄嗟に聞いたあとに、しまった失礼だったかと慌てた。
「ええ!北斗家は代々料理が苦手でね!お手伝いさんも全員料理ができない徹底ぶりなんだ!」
杞憂で済んだ。
「じゃあ普段は……?」
「コンビニや外食で食いつないでる!」
「んな激ヤバいこと…カレーくらいなら作りましょうか?」
「!!」
颯天の出番が里盆によって無意識に奪われるのは珍しいことではない。対策は滑り込むことのみ。
「あの!僕もちょっと料理できます!」
「おお、頼もしいことだ、ではお願いしますよ!」
しばらくすると、意気揚々とキッチンに向かったものの知ってる調理器具がなく絶望した里盆が帰ってきて、炎を使える氷波を連れて行った。
「もう耐熱性ならなんでもええわ。颯天くん、鉄鍋でも四角フライパンでもいいから探そ」
「そんなあなたに!風鈴颯天のセールだよ!」
「里盆やめとけ。ボッタクリマーケットの間違いだろ?しかもなんで持ってんだよ、持ってんなら最初から出せよ」
「一回五十円!」
「…」
微妙な安さとよく知ってる鍋の安心感と颯天の視線に負けて、里盆は渋々財布を取り出した。
「何してんですかー闇取引ですかー」
「お、名前なんやっけ?」
「北斗星弥でーす」
里盆が五十円を明け渡しているときに入ってきたのは、完璧なおれの発音の少年だった。
「闇取引ちゃいますよ〜。星弥くんは料理練習した方が得するで。モテるモテない以前に生きてけんからな」
星弥はきょとんと首を傾げ、溢れるクソガキ感を消し、いきなり育ちのいいショタみを出してくる。この年でこの盛れアングルと表情筋への理解。末恐ろしい。
「言われなくてもねー、おれ、料理できるよー?」
「えっ?」
「モテるためなら何でもするからねー」
「えっ?」
「将来はホストにでもなってー、若いうちに一生分の金貯めるつもりー」
「えっ?」
「もうこの際ねー、男も女も沼らせたいわけー。だからこんな猫かぶってんの」
「「「エッ…?」」」
初手で里盆の言葉を詰まらせ、次にモテない颯天を叩きのめし、次に氷波をドン引かせ、最後は衝撃発言で締める。完璧である。
「ど、どんな闇で生きてきたらそんなことになんねん…」
「ぎ、ぎゃ、虐待?虐待なの?通報する?」
「ウチ来るか?なんならここ爆破してでも…」
「いや、違うからね?」
「「「じゃあなんで!!」」」
「おれ、ヒーローの才能もあってさー。魅了の能力あんの。んで、これでどう生きようかってなったときにー…」
「良いヒモになろうと?」
「違う」
「世界征服しようと?」
「違う」
「全ての人に愛されようと?」
「違うよー。魅了の能力バレるまで素でモテ続ける逆RTAしよって思ったんだー」
動機は想像してた百倍ほど、意味不明かつ好奇心旺盛なガキだった。
「じゃあなんでホスト?」
「金稼いだら年取ってもモテる可能性あるじゃん?あと、ずっとたくさんモテたいなら全身脱毛、美容整形、ホワイトニング、脂肪吸引、ジムでの運動くらいはマストでしょー?普通に何かと金かかるし。それから、稼ぎピーク過ぎるまでは勉強して、北斗グループの子会社継げばいいと思ってさ」
「以外とシビアに考えとったんやな…」
「カレー作んないのー?」
「作る作る、君も一緒にどう?」
「作ろーかなー」
こうして、ようやくクッキングが始まった。星弥は、役に立ちすぎて他三人の自己肯定感を破茶滅茶に下げた。
ーーーーーーーーーーーーー
「では、合意を祝して、乾杯!」
『かんぱーい!!!』
クラッカーが炸裂し、カレーパーリナイが始まる。どら焼きとその他お茶菓子も開封済みだ。
やはり七星であったギター幼女が、エレキギターで弾き語りしている。
流星と朝陽はまだあの曲のことで喧嘩を続けている。
颯天は喋りまくることで人脈を広げようと画策し、里盆は子供たちとガチ遊びを繰り広げ、雪葉は月子と永遠にオセロをしていた。
正はというと、何をしていいか分からずにその場で紺色のお茶を啜り続けていた。
「正くんも来てー!」
「僕?」
声のする方へ向かう正だったが、数秒も経たないうちに回れ右をしたくなった。
雪葉、七星、里盆、流星、朝陽…こんな見るだけでめんどくさい組み合わせの面子とは、颯天なしで話し合うことすら難しい。
「誰か呼んだ…よね?」
「うん、ねえ大楽くん、雪葉ちゃんをキルするまで戦い続けるゲームしない?」
「ごめんなさい先輩。なんて言いました?」
「私を全員で殺しにかかるゲームです」
殺しにかかる、というのは、物理的にだろうか。
「ちょっと倫理観合わないかも」
その後もしつこく誘われ、結局正は折れてしまった。
そして、ヒーローじゃなくても絶対に人の命は奪うまいと正は決心をしたのだが、冷静に考えてみたら物理的に殺すわけがなかった。
「だああっ!負けたっ!」
台パン五回目。正は雪葉に、大得意とするリズムゲーム、それなりにやり込んでいた日常ゲーム内の金策ゲームやモンスター対戦ゲーム…全てのゲームでゴリ負けしていた。
朝陽はトランプ、流星は暗算、里盆はタイピングでそれぞれ、誰が見ても分かる程度には雪葉に負けている。
そう、雪葉を得意ジャンルで殺すまで終われないという話だったのである。
万能すぎる雪葉に何かしらで勝つべく、割と頑張ったのだが、そろそろみんな飽きてきた。
「そろそろ終わりにしませんか?頭痛いです」
「えっ…私らの相手に疲れてきたってこと…?」
「いや、能力の使いすぎで。知恵熱みたいなもんです」
「そ、そう…ごめんね…?」
「いえお構いなく…いや、構ってはもらいましょう」
よく見れば確かに顔色の悪い雪葉は、スパァンという効果音がつきそうな速度で朝陽の膝を枕にして目を閉じた。恐ろしい遠慮のなさに、雪葉以外の全員は驚愕の表情しか浮かべられなかった。
ーーーーーーーーーーーーー
「今日はありがとうございました!」
「いえいえ、こちらこそ、この年で未来への手伝いができるとは…」
「またまた、御冗談を〜」
なんだかんだでパーリナイは終わり、夕方である。どうやら悪の組織は、パーリナイと昼のパーティーを混同していいと思っているらしい。
「雪葉ぁ、頭痛いの、ちっとは良おなったん?」
「もう余裕です。ワープしますよ」
里盆のエセ関西弁…この場合、大阪弁は、尾張弁や鹿児島弁などとゴチャゴチャになるきらいがある。
雪葉のイマジネーション・エスパーの前半部分の意味を、正はまだあまり理解できずにいた。
なにはともあれワープした。
ーーーーーーーーーーーーー
「あ、お兄………」
「なあ颯天、お前ここで何やってんの?」
「うわっ」
「ヒュッ」
みたらし談合のドアを開けるやいなや、約二人が地獄の扉を開けられてしまった。
みたらし談合内のソファーに、確実に病んでいる顔の珊瑚と、確実にキレている顔の颯天の姉、
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