第9話 秘密の場所

「「どうしてここに呼んだんですか」」

 私たちは声をハモらせて言った。松ノ殿は呆れたように言う。

「聞きたいのは私だ。なぜこんな所にいる」

 由紀ちゃんが答えた。

「だって、約束より10分前に着いたから・・・、散歩しようと思って・・・」

「なにが10分前だ。時計を見てみろ」

 私がつけていた腕時計を見る。4時5分。予定の5分を過ぎていた。返す言葉もない。

「・・・すいませんでした」

 私は謝った。

「まあ、いい。場所を言ってなかったからな。しょうがない」

「「場所?」」

「ここじゃ話しにくい。ついてきたまえ」

 そう言って松ノ殿は、ふよふよ浮きながら歩き(?)出した。

 ゆらゆら揺れながら進む神様に、私達は付いていく。なんだか落ち着きのない動きに見えた。

「あれ、ホントに神様?」

 由紀ちゃんが聞いてくる。自分でもよく判らないけど、とりあえず答えた。

「まあ、そうなんじゃない、かなあ?」

「なんか全然拝もう、ていう気持ちしないもん」

 その言葉はダメなんじゃ、と思いながら私は彼女に、

「シーッ!」

 と、慌てて唇に人差し指をつけた。

「案ずるな」

 前から声がした。

「ウギョッ」

「バレたか」

 口々に図星の声を上げた。

 神は言葉を続けた。

「そう思われるのも、確かだ。今私が居るのは、人間界。わざわざ本来の姿を見せることなどしない」

「人間界・・・、普段は聖域みたいな所に居るんですか」

「ああ。神と、神に許されたものしか入れない、神王殿で暮らしている」

「へえ」

 半分意味不明の思いを明かすように、頷いた。

 やがてこの公園のもう一つのシンボル、ひょうたん池(どこにでもありそう)を過ぎ、遊具広場を抜けてしばらく歩いたところで、松ノ殿の動きが止まった。

 右を向いた彼の先に、深い森があった。立ち入り禁止区域になっている。

「行くぞ」

 看板やカラーコーンに貼ってあるテープを無視して、進んでいこうとする。

 由紀ちゃんは大慌てで呼び止めた。

「ちょ、松ノ殿様!ここは立ち入り禁止ですよ!」

 すると、昨日私に見せた不思議な笑顔を見せて言った。

「神に不可能はない。さあ、きたまえ」

 少し困ったように私達は顔を見合わせたが、彼がどんどん奥に行くので仕方なく、森に入った。

 木の本数は多く、太陽の光が木々の隙間から少しだけ見えるくらいだった。

 ザッ、ザッ、ザッ。

 おそらく冬に地面に落ちて、そのままだろうと思われる枯れ葉が、靴とこすりあい足音を作る。

 私は少し不安に思いながら進んでいった。

 500メートルは歩いたかと思った時、松ノ殿は、さっきのブナの木よりも大きい広葉樹の前で止まった。

 由紀ちゃんが後ろから、ちょっとした段差を降りてやって来る。

「ここだ」

 まるでここまで大変な思いをして、やっとこさ街にたどり着いた勇者の様に言った。

「これは・・・、何の木だろう。ブナよりは大きいねえ」

 由紀ちゃんは、まさに今私が思っていたことを言った。

「クスノキだよ」

 どこかで聞いたことがある。確か、森の中に昔から住んでいる化け物が登場する、超有名映画に出てくる。その映画で出てきた物も、この木は大きかった。その木は化け物のすみかにつながっているという設定だったが、この件がそれにつながっているのは、まず、ないだろう。

「この木のここを、押してと」

 ス・・・、と木の表皮に触る。

 ガゴン!

 松ノ殿がグッ、と押した瞬間。手に触れた表皮が、いや、木そのものが凹んだ。

 彼が手を当てた場所に、"聖”の字が浮かび上がる。

 ギギギ、ズドオオン。

 木に穴が開いて、振動で木が揺れる。

 ゴロゴロ・・・。

 中をのぞくと、いつの間にかはしごが掛かっていた。

「降りるぞ」

 神の言う通り、私達は慎重に下へ降りた。

「うう~こわ~」

「暗いから、余計不安感が増すわ~」

 ゆっくり、ゆっくりと下って行った。

 ようやく地面に着くと、あたりは真っ暗で何も見えなかった。その時。フッと少しばかりの風は吹いて、明かりがついた。岩の壁にかかった松明の光が、前から奥へ幻想的に灯っていく。

「「うわあ」」

 これには私達も驚きの声を上げた。

「さあ、来い。あと少しだ」

 洞窟は、ヒンヤリしていた。今着ている、春用のブレザーが丁度いい。

 しばらく歩いて、目の前に大きな門が姿を現した。

「さあ、ここだ」

 松ノ殿は金庫のロックを開けるように、キーボタンを押していく。確認完了のピーッという機械音が鳴ったあと、重々しい動きで門が開いた。

「長いこと歩いてご苦労だった」

 付け加えるように言って、中に入っていく。そこは、何らかの研究所の感じがした。

 私達は小さな警戒心を募らせながら、奥へと進んでいった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る