第2話
「はあ、はあ・・・」
女は両手でがっしりと容器を抱き抱えながら必死に走っていた。
(早く、これを皆に届けないと)
すぐに遠くからバイク音が聞こえてくる。
(はっ?!もう気づかれた!早く逃げなきゃ!)
女の走る速さではとうていバイクから逃げる事など不可能で、あっという間に発見されたのだった。
「ヒャッハー!!オラオラもっと早く走ってみろよ!」
モヒカンの男達のバイクが女を取り囲む。
(・・・・)
女はがっちりと容器を抱きかかえ座り込んだ。
モヒカンAがバイクを止めると女を見下ろしながら言った。
「人様の物を盗むとはずいぶん悪い子猫ちゃんだ」
女はキリっとした眼差しでモヒカンAに叫んだ。
「盗んだのはあなた達の方よ!これはもともと私達の物だったじゃない」
モヒカンAはニヤニヤしながら余裕の表情でバイクを降りると女に近寄ってきて言った。
「この世は力だ。力が全てなんだよ。悔しかったら奪ってみろ。それとも守ってくれる王子様でもいるのか?あの時みたいに栄養失調でフラフラのお仲間が頑張っても無理だけどな」
モヒカン達の笑い声が溢れた。
モヒカンAは避けようと体を仰け反らす女の肩に手を置くと服を掴み一気に引き裂いた。
「キャッ!」
服を引き裂かれた女はますます蹲る。
ニタニタしながらモヒカンAは弄び始めた。
女は身の危険を感じ、絶望の中わずかな希望を抱き助けを求めた。
「助けて―!」
その時だった。
「待てえーーーい!!」
崖の上から大きな声が轟いた。
モヒカン達がキョロキョロと辺りを見渡し、やっと見上げた崖の上の存在に気づいた。
逆光で良く見えないが、あのシルエットは何者だ!
「トオーーー!」
そう声を発すると崖の上からその存在はジャンプした。
地面に見事着地をするとその存在が顕わになった。
モヒカンAが異様なものを見るような眼差しで言った。
「テメー何者だ!」
その存在は質問には答えずに言った。
「双方、そのむき出しの欲望には無限の価値がある。その力を試してみないか?」
モヒカンAは突然現れて意味の分からないことを言っている男に呆れていた。
「はあ?何言ってんだテメー。頭のおかしい奴は引っ込んでろ!」
男はまったく動じることなく説得を続ける。
「凄まじい情熱、執着、こんな世界でも生き抜こうとするその執念!もったいない!是非その力を正しい場所で使うんだ!君達なら必ず掴むことができる!」
モヒカンAはあまりのかみ合わなさにうんざりとした。
「もういいからあっちに行け。おい女、早くそれ返せ!」
モヒカンAが女から容器を無理やり取り上げようとするのを女も必死で堪えた。
「だめ!絶対に渡さない!」
モヒカンAが力ずくで奪いにいく。
「うるさい、黙って寄こせ女!その腕切ってしまうぞ!」
その時、男は鼻をクンクンとすると表情を一辺させて叫んだ。
「おい!その容器の中身はまさかガソリンか?!」
モヒカンAが今度は男に敵対心をむき出しにして言う。
「だからどうした?テメーも欲しいのか?奪えるものなら奪ってみろ!」
モヒカンAは無理やり女から容器を奪うとそれを高々に掲げて見せた。
男は青ざめた表情で叫んだ。
「やめろ!危険だ、スグに容器を地面に置いて離れるんだ!その容器はガソリン用ではない!それは灯油用だ!」
モヒカンAが挑発する眼差しで男を見ながら容器を掲げながら踊った。
「ほらほらほら、だからどうした?欲しかったら奪ってみろよ。ほら、どうした?」
炎天下の下、容器からの臭いと陽炎のようなものが見える。
「わ、わかったから早く地面に置いて離れるんだ。とても危険なんだ!」
その時、他のモヒカン達が男を後ろから羽交い絞めにしたのだった。
「ヒャッハー!捕まえたぜー!」
「グッ!な、なにをする。やめろ!とにかく危険だからこの場を離れるんだ」
自由を失った男は焦った。
モヒカン達は男を痛めつける。
「おら!腹出せ!腹にでっかいウンチマーク書いてやるぜー。ヒャッハー!」
モヒカンは男の服を捲ると腹筋がまったく割れていない腹に何やら文字が書いてあることに気づいた。
「ん?なんだこいつ、体になんか書いてあるぞ」
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