魔術の王
その剣はあまりにも重かった。
白刃取りをしてみせたが、重さでねじ伏せられそうな、そんな力をひしひしと感じる。
剣をずらして攻撃を凌ぐ。
「そら」
横薙ぎの一撃に飛び乗って、足場にする。
剣のデカさが命取りだ。
ボクはディアプラーダに向かって旋風脚をかます。右脚での、回し蹴りだ。
何かに阻まれて直撃までは行かなかった。
急いで大きく距離を取る。
「なんか異常に固いな、キミ。バリアでも張ってる?」
「いいや。我に宿る膨大な霊魔が常に我に忠誠を示し、盾となっている」
「バリアじゃん」
肉壁……いや霊魔壁か?
ボクからすればバリアと変わらない。
「しかし貴様にはこれっぽっちも霊魔がついていないな。それで魔王など笑わせる」
あ、ボクに霊魔ないんだ。
「その体、装備でなぜサラマンダーを倒し、我と対峙できているか興味が尽きないな」
「……そうかい」
どうやら互いのエネルギー源は認知できないらしい。
「貴様が大人しく我のモノになり、その力を提供するというのであれば望むものを与えてやろう」
「やだね」
どーせ、
「そのバリアぶち抜いて赤っ恥かかせてあげるよ」
「ほう? やってみせろ」
ディアプラーダは巨剣を大地に突き刺し、両手を広げる。
「……え」
「やってみせろと言ってる」
全く抵抗する気配もなく、ディアプラーダは待ちの姿勢でいる。
「いいの?」
「構わん」
「やったー! おにいさん大好きぃー!」
「なんだその浮かれ具合は……」
隙はあればあるほど良い。
ボクはるんるんスキップしながらディアプラーダに近づく。両の拳を、ディアプラーダの腹に当てる。
というか上めに拳を構えてもそれが限界だった。
「……すぅーーーーーーーー」
息を吸う。
「警戒するな。渾身の一撃があるのなら楽しませてみよ」
背中を押すような言葉に、ボクは瞳を閉じた。
息を吸う。肺に空気を満たす。
息を吸う。腹に空気を入れる。
息を吸う。
息を吸う。
「スゥ」
魔力を集中させる。
体の中心……頭から心臓、腹の下あたりまで七つに分けて魔力を高魔力状態に持っていく。
今までは全身で超高魔力状態にしていたが、体の部位ごとに魔力密度を分ける。
「はぁああ」
息を吐く。
ゆっくり空気を押し出す。
息を吐く。
ゆっくり魔力を満たす。
息を吐く。
拳と、脚の魔力密度を上げる。
「フゥーーーーー」
脚は高魔力、拳は超高魔力状態まで持っていく。
通常、魔力の密度を体の部位単位で調整したりはしない。全身をその状態に持っていくだけでも高度で、危険を伴う。体全体でその状態になるようにして、攻撃の瞬間にそこに魔力を流して集中させることはあっても今のように事細かにやっていたら集中力が切れるし、魔力が枯渇して死ぬ。
一瞬で必要最低限の魔力を部位に分配して瞬時に魔力を上げ、拳に全火力を上乗せするなんて──バカみたいなことを思いつく人間さえいなければ。
何はともあれ、準備はできた。
食らってくれ。
「──零勁」
ロ
ディアプラーダは見た。マオの体が陽炎のように揺らぎ始める様を。
ディアプラーダは見た。空気が怯え、大地は震え、空が泣くその様を。
バチバチと周りに極小の雷が多数発生し、そして──
「──零勁」
それで何もかも──消し飛ぶ様を。
ロ
ぶち抜いた。
バリアどころではない。
ディアプラーダの、少なくとも鎧ごとぶち抜いた。
零勁の威力で空にある雲が割れている。
うん、完璧。
少しでも加減を間違えたら不発になるし、超高魔力まで魔力密度を高めてしまうと街ごと大爆発する規模という超危険な技なんだけど、まぁ失敗してもアーティンベルはその範囲外にあるし、ダメージ当たられるからいいかと思って使ってみた。
「……どうだい?」
「…………」
俯いたディアプラーダの鎧は気持ち悪いくらいヒビだらけでボロボロと崩れていく。その中は真っ暗で何も見えない。
「────フハ」
ディアプラーダは額に手を当てる。
「フハハハハハ!」
笑いながら天を見上げるディアプラーダ。その鎧は完全に崩れ去り、小さな火の玉だけが残った。
「面白い! 面白いぞ! 分け身とはいえ我を倒すなぞなかなかできることではない!」
火の玉が燃え盛る。興奮しているのだろうか。
え、何。こいつ今分け身って言った?
姫を攫いに舐めプ状態で来たってコト!?
「名を聞かせろ娘! 覚えてやろう」
「……マオ」
「マオ! マオか! そうかそうか!」
フラフラと楽しげに火の玉が揺れ動く。
……潰していいかな。
そう思っているとディアプラーダの後ろに鎧が出現した。
黄色の鎧。
──エリアボスだ。
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