電撃稲妻熱風!
青く金色の龍が描かれた
黒に青いラインの入ったオープンフィンガーグローブの手の甲には太陰太極図が描かれている。大車輪グローブと鉄拳の腕輪を改良した完成形の装備だ。
黒いスパッツに、クンフーブーツ。
これでフルセットだ。
フォームチェンジ、セット装備呼び出し……呼び方は何でも良い。
要はその場の状況に合わせた特化装備セットに早着替えする。コスプレ……だと戦闘服っぽくないので、空装と名付けた。それを身にまとい、敵を倒す。
それが
初回に限りカードに込めた魔力で強固な結界魔術を発動し、
ともあれ、
格ゲーとアクション映画のアイデアと、
「――セット、クンフードレス」
片足をあげて構えを取りながら、サラマンダーを睨む。
『ふざけた格好を』
「ふざけてるかどうか、試してごらん」
サラマンダーの鎧が震える。
『……いいだろう。オレは魔王様からさらなる力を授かったのだ。オマエなぞ取るにたらんということを教えてやる』
サラマンダーはメイスをどこかに仕舞うと両手を広げた。そこに炎の球体ができる。両手ともに、だ。
『プラズマフレイム……!』
サラマンダーからプラズマフレイムが何度も放たれる。両手から連続で、だ。ボクは両手を交差させた。
炎と閃光が空を包む。
十数発ほど続いて、それが止む。
『フハ、フハハハ! どうだ、これでオマエなぞ』
「ふんッ」
呼気とともに両手を振るうと、炎が霧散した。
「心頭滅却すれば火もまた涼し……ってね」
ま、この空装のおかげなんだけど。
『ば、ばかな』
「……さて、空中は戦いづらいからね。落ちてもらうよ」
ボクはブーツの効果で空気を蹴ると、サラマンダーを肉薄した。
「ロケット……」
拳に魔力を集中させる。腕を一回しして、巨大化した魔力の拳を放つ。
「パァアアアンチッ!」
サラマンダーは大盾を出現させる。そして受けた。
『ぐぉおおおおおおおお!』
しかし、防ぎきれずに平地に飛んでいく。ボクはそれを追いかけた。
サラマンダーは大地に激突し、ボクは華麗に着地する。腕を組んで、サラマンダーが立ち上がるときを待った。
土煙の中からサラマンダーが出てくる。大盾ではなく、メイスを両手に持っていた。ダブルメイスだ。
炎をまとわせながらメイスによる猛攻が迫る。
ボクは腕で弧を描くように振るい、攻撃をすべて受け流す。
「隙あり!」
バランスを崩したところでサラマンダーの胸めがけて蹴りを当てる。
『ぐおぉ……』
メイスを落とし、両手で胸を抑えながら後ずさるサラマンダー。
「コォ」
息を長く吐く。
魔力を扱うにおいて
呼吸のリズムと体の動きを合わせ、血流を促進し、身体機能を向上させる。そして、魔力を圧縮する。そうすると魔力によってさらに身体能力が強化される。
この装備は魔力を体内でかなり圧縮させるのに適したものになっている。呼吸を促し、集中力を高め、身体能力を大幅に向上させる。そして魔力の圧縮を助ける。
圧縮させた魔力の扱いはかなり難しい。
なぜなら圧縮した魔力というのは柔軟性がない。即座にありとあらゆる魔術を発動させやすい自然な状態と違って、圧縮しただけ魔術を発動する際に集中力が必要だし、解放される魔力に対応できなくて爆発四散という自体もあり得る。常に集中して魔力をコントロールし続けないと圧縮した魔力が爆発する。
爆弾は正しく扱えば強力で便利な道具だが、その分危険物であるのと同じだ。
基本的に魔術を使うものは魔力を圧縮させない。「そうでもしないと発動しない強力な魔術を発動する」ときか「肉体強化として使うか」だ。
よってこの装備は魔術使用には何の補助も役割も持てないどころかデメリットになる装備だが、その分肉弾戦が得意になる。魔力が体に集中するから自然と体中に魔力が纏われて天然の魔力壁と化すから頑強さも増すし。
『なぜだ、なぜ。今の状態でも、オマエと引き分けたときより圧倒的に強い。だというのになぜだ』
「単純さ、ボクのほうが強い。それだけさ」
『どこまでも気に食わぬ虫けらめ……! 国ごと滅びたいというのならそうしてやろう!』
鎧が炎に包まれる。どんどん巨大化していき、ワニの姿になっていく。ボクは後ろに飛んで、距離を取った。
『炎の嵐に呑まれるがいい!』
ボクは精神統一をしながら、ゆっくり息を吸う。
『ファイアー』
「ストーム」
「『ブレス!!』」
本来の姿を現したサラマンダーのブレスと、ボクのブレスがぶつかり合う。この装備は魔力圧縮と身体強化のために呼吸も重視されているし、呼吸そのもの、息吹の補助、強化の効果もある。そして何より、「ブレスを放つために魔力を圧縮」した。
こうなるともう、この間のただの真似っ子ブレスではない。
正真正銘、ボクのブレス攻撃だ。
二つの嵐がぶつかり合い、炎を巻き上げる。しばらく拮抗した後、ボクのブレスが押しのけてサラマンダーを焼いた。
ブレスを終わらせる。
黒煙の中、巨大な影がボクを睨む。
炎のブレスだからか、やつは無傷なようだ。
『このオレが……炎で負けただと……』
「帰るなら今のうちだよ。逃がすつもりはないけどね」
両手をかざしながら、サラマンダーを警戒する。サラマンダーは体を震わせると、空に向けて大口を開ける。
『許さん! 許さんぞ! 虫けらァアア!』
口元にバーニングフォールらしき炎を形成すると、それを喰らう。
『滅び去れ、アビスフレイム!』
サラマンダーの口から高熱のブレスが吐き出される。マグマがそのままウォーターカッターのように吐き出されたような、見るからにヤバそうなブレスだった。
ボクは両手の間に空気を固めるように、手を動かし、息を吐く。魔力を両手の間に集中させ、そしてそれを胸の前に構える。
全身にめぐっている魔力の圧縮を解いて、代わりに両手の間の空間にありったけ流して圧縮する。
「スゥ……ハァ……」
あのブレスごと、サラマンダーを消し去ってやる。
――さて、問題です。拳法といえば、格ゲーの必殺技といえばなんでしょう?
「クンフー……」
そうだね。
「砲ォオ!」
両手を押し出し、魔術によるビームを放つ。サラマンダーのブレスをぶつかり合い、そして、貫いた。
『ばかなぁあああ!』
ボクの放つ光に包まれながら、サラマンダーの断末魔が木魂し、そしてかき消されていった。
「押忍!」
爆発するサラマンダ―を眺めながら、ボクは拳を握りしめて気合を入れた。
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