お風呂だぁあああああ! でっっか!!

 ――ちゃぷん。


 大浴場をひとり満喫する。


 あったけぇ。


 いや好きに使っていいって言われたから使ってるけど、良いのかなぁ。スーパー銭湯でもこんな広いお風呂見たことないよ。ローマ人にしか見えない日本人が出てくる映画でしかみたことない。


 見渡す限り湯船だもの。


 ……お泳いだりしていいよね。大声で歌ったり。


 あぁ、またひとりカラオケとか行きたいなぁ。行く相手がいないからひとりで行くだけなんだけど。恥ずかしいし。


 歌っちゃおうかな。


 んんっ。


「すぅー……酒が」

「失礼します」

「のふぇあ!?」


 誰か入ってきたので慌てて口を塞ぐ。

 視線を向けると、入り口に姫ふたりがいた。


 女神だった。


 ラスティ姫はテンチョーほどじゃないけどボン・キュッ・ボンの美しい曲線が描かれた、もうなんか彫像みたいな体型しているし、セーナ姫はスレンダーで小柄でひたすらに可愛い。


「お、お邪魔でしたか……?」


 ラスティ姫の後ろで不安げに聞いてくるセーナ姫。何この最強に可愛いお姫様。これほど助けられてよかったと思える子はいない。


「いえ。むしろわたくしめが一緒でよろしいのでしょうか」

「なぜ急にキリッとなったのでしょうか……? あなたとお話したかったのですよ、マオさん」


 夜なのに太陽でもあるのかという錯覚しそうなほどの微笑みでラティナ姫が答える。


「お隣よろしいでしょうか」

「ぜひ」


 天国だぁ。


 テンチョーとスーパー銭湯行ったときを思い出すなぁ。いやでかかった。


「マオさん、聞きたいことがあったのです」


 静かに、ラスティ姫がボクに話しかけてくる。


「なんでしょうか。何でも聞いて下さい」


 至って真面目なラスティ姫は、ボクの内心の興奮なぞ知らないまま問を投げる。


「なぜ、協力してくださるのですか」

「表向き旅人とは言ってはおりますが、故郷に帰りたいからです」


 即答した。びくりと、セーナ姫の方が震える。


「ボクは……そうホロービダンダの秘宝、その奇跡によって神話の英雄が呼び出された、そういった現象に近いと思ってください。端的に言えば、ボクの国はこの世にないのです」


 異世界転移なんて、昔のボクは想像すらしなかったものだ。どううまく説明したらいいかわからなかったが、素性の全くわからない者が無条件に協力する存在というのは困るだろう。魔法というものが存在するのだし、というかすでにアークがちょっとよくわからない奇跡パワーなので、ある程度の非現実さは受け入れてくれるだろう。


「ごめんなさい。わ、わたくしがその、秘宝で呼び出してしまったから」


 しゅんとしてしまうセーナ姫。あー可愛いんじゃー撫でたりしたら不敬かなぁ。やめとこ。


「罪悪感がおありですか? ですが気にしなくとも良いのです。ボクの国からここ来れるとしたら帰りたくなくなる人もたーくさんいますから。ボクは帰りたいだけであって」

「マオさんの国は、転移でどうにか帰れないのです?」


 セーナ姫の疑問にボクは首を振る。


「難易度が段違いです。時間ごと移動する必要があるかもしれませんし」

「そんなこと、可能なのですか」

「可能にするために協力するのですよ、ここには奇跡を起こす秘宝も、アークもあるじゃないですか。だから、手がかりがほしいのです。ラスティ姫」


 ラスティ姫が胸に手を当てる。己の中の力を確かめるように。


「存在しない国に帰るにはそれだけに触れる必要があります。結末が破滅でも」

「それほどまでに帰りたい国なのですね。マオさんの国は」

「国というより人ですかね。ラスティ姫にもいるのではないですか?」


 傍にいたデザイアメイロの主人公を思い出しながら、問いかける。ラスティ姫は顔を赤くした。


「まぁ……はい」

「ちなみにお名前は」

「……内緒です」


 ぷい、と顔をそらすラスティ姫。


「セーナ姫はご存知で」

「はい!」

「そうですかそうですか」

「セーナさん、秘密にしておいてください」


 恥ずかしそうなラスティ姫に満足し、ボクは天井を見上げる。


「ホロービタンダは都市を焼き尽くされ、領土は魔物にまみれておりました」


 デザイアメイロの結界のある場所以外は結構荒廃しているところが多い。廃墟だとか、洞窟だとかダンジョン扱いされてるし、当たり前に魔物もいる。


 結界がなければ人類の文明は滅びているだろう。


「国が滅べば情報も手に入りません。共有の敵というやつです、あの魔物たちは」

「……そうですか。なら、魔王ディアプラーダを倒すまでは協力してくださるということですね」

「……え? なんて?」


 魔王ディアプラーダ? 知らないぞそんなの。


「ちなみに魔王の姿とかわかります?」

「黒く金の装飾の施された鎧姿でした。その巨大な影が空に現れ、わたしたちに宣戦布告をしてきたのです。本当の姿はわかりませんが……」


 ……全然、違う。デザイアメイロのラスボスになる魔王はドラゴン形態ひとつだけのはずだ。


 エリアボスは四天王よろしく四体いる。サラマンダーのように誰もが第一形態と第二形態があり、第一形態目は鎧姿だ。そして体力を削ると真の姿で戦い出す。


 魔王が鎧ではなくドラゴン形態しかないのは、まぁ、エリアボスとの差別化なんだろうけど。


「どうしました? 難しい顔をされて」


 セーナ姫が心配そうに顔を覗き込んでくる。ボクは笑顔をつくった。


「なんでもありません! そろそろボクは上がりますね! これ以上はのぼせてしまうかもしれないので。失礼いたします」


 立ち上がって大浴場を後にする。


 魔王……、サラマンダーの強さといい、やっぱりゲームと同じと考えちゃいけないみたいだ。


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