装備
王様はボクの発言に鼻の下のもわもわのヒゲを撫でた。
「それを得てどうするつもりだ」
「無論、ボクの装備をつくるのです」
周りにいた有力そうな貴族や騎士がざわめく。
「ボクはここらの装備では肌に合わない可能性があります。しかし装備は必要なのです。魔物を討ち倒すには、ボクの体ひとつでは足りない」
「そなた自身が作るというのか」
「えぇ」
頷くと、深く息を吐く王様。それから傍にいるラスティ姫を見た。ラスティ姫はただ、静かに微笑む。
「すまぬが軍備強化も急がねばならぬ。優秀な人材はあまり割きたくないというのが本音だ」
申し訳無さそうに告げる王様。当たり前だ。友好国が滅ぼされて、いつ己の国が襲われるかわからない状態だ。急いで備える必要があるだろう。
「なんでも構いません。武具の仕組み、知識が得られるであれば、それで」
デザイアメイロでは右手武器、左手武器、頭防具、体防具、腕防具、ベルト、足防具、そしてアクセサリーの組み合わせで戦闘していた。そしてどの装備にも特殊効果というものがついていた。
それが単なるゲームシステムなのか、それともこの世界の法則なのか、それを知らなければならない。そして、ボクの作成する武具がこの世界で適応させられるのかを。一応指鳴らしの指輪が効果を発動できていたし、ボクも魔術を発動できていた。魔力というものはボクの体が生成して、ボクの体から発せられるものだし、指輪はボクの世界の素材で作成したものだから効果が発動してもらわないと困る。
この世界の素材で魔術を強化できるのだとすれば、ボクの環境を整えたり、装備で身を固めて魔術で戦うという本来の戦い方ができる。
もしかしたら……いや、いずれにしてもやってみなければわからない。
戦わないにしろ元の世界に戻るためにこの世界の、
「知識さえあれば、素材を採取しにいくのも、加工もすべてボクが行えます。ですので、必要なのは武具の仕組みや素材の知識なのです」
王様は頷いた。
「精査して、必ずそなたに学んでもらおう。魔物と戦ってくれるというのであれば、これほど心強いこともない」
「あの……」
ボクは周りを気にしながら、身を縮める。
「ボクが人でない、それでも……でしょうか」
王様から一瞬感情が消える。
ずっと疑問に思っていた。結界で魔物判定を受けたにしてはあまり警戒されてない気がしたからだ。
「卑下しなくともよい。無論、我らが容易にそなたを信用することはできない。都合よく魔物を追い返せる旅人が現れるなぞ、そんなことはあろうはずがない」
しかし、と。王様は首を振る。
「かつて奇跡をもたらしホロービタンダの国を造り上げるに至ったという、ホロービタンダの秘宝ホロウマターが砕けてそなたを呼び出し、そして我が娘の身に宿るアークがそなたを認めた。この国にとってはそれだけで十分なのだよ」
周りの人たちの様子を見るが、特に異論はなさそうだった。
「アークとは大いなる力としか言うことができぬ。コントロールできるものではなく、そして我らの心に応えてくれるときもあれば意思を持って働くこともある。そしてアークは闇には弱く、勇気によって輝きを増すと伝えられている」
ちゅ、抽象的すぎる。まぁ、ゲーム内でもどのくらい強い力なのか実感する機会はあんまりなかったしな。ただ、魔王がアークを得ようとして、そして主人公がラスティ姫を助けるまでラスティ姫を守り続けられる、強い力があるのは確かだ。ゲームシステム上の役割がなかっただけで、印象が薄いけれど影ではものすごい貢献度だっただろう。
「アークは大いなる意思であり守らねばならぬ力だ。この国の存在意義というのも古からアークを守るためであり、そう伝えられている。初代国王はアークに頼らず守れとお教えくださった」
守られるべき力。それがアーク。お姫様に宿るのは納得かもしれない。
だってお姫様のほうが皆守りたくなるからね!
「アークが引き入れたということはアークがそなたを守ってもらうための力だと認識したのかもしれん。故にアークが認めたのであれば我らに異論はないのだ」
「……であればボクに命令しないのですか? ラスティ姫を守れ、とは」
王様は笑う。
「言ったであろうアークに頼らず守れと。国としてアークを任されているのは我らなのだ。我らが使命に尽力する。そなたはセーナ姫と騎士ガリアと共に来た客人だ。協力することを喜びとすることはあっても強要はせぬ」
……なんだ、この国。
序盤に旅立つだけの国がこんな思想が強いと思わなかった。
ボクにとっては好都合だけど。
いや、好都合になるから入れてくれたのか?
ボクはラスティ姫――正確にはそこにあるだろうアークを一瞬だけ見て、視線を戻した。
「装備を作成するにあたりそなたの居住環境も整えよう。後ほど希望をまとめてほしい。目覚めたばかりですまなかった。ゆっくり体を休めるといい」
マジ!?
居住環境も整えてくれるの!?
ボクは頭を深々と下げて、心の底から王様に感謝した。
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