ボクが魔物扱いってマジですか!?

 うぅ……。


 すがりつくように見えない壁に手を当てて引っ掻く。

 あんまりだぁ、人がせっかく魔力をなげうったのに、入れないなんて。


「どういうことー!」


 ガリアとセーナ姫が近寄って座り込んでボクを見る。


「マオ殿、国には魔物避けの強力な結界が張られておりましてな。結界に阻まれたということはマオ殿は魔物ということに」

「あわわ……」


 確かに吸血鬼だし、魔王だけども!

 魔術で吸血鬼の弱点は克服して、そこそこ肉体改造してほぼ不老不死だからって!


 ……うん。人外イコール魔物なら魔物かも。


「ど、どういたしましょ」

「恩を仇で返すわけにもいきますまい。なんとか一時的に結界を解除していただくようお願いするしか……」

「それはだめだ!」


 今ホロービタンダが襲われて滅ぼされたばかりなのに、一時的でも結界解除なんてしたら魔王サイドがどんな行動を取るかわからない。


 うぅ。仕方がない。諦めよう。


「ひとまず姫様を保護してもらえる目処は立ったわけです。ボクはボクで行動します」

「しかし」


 言い淀むガリアに、ボクは指を立てる。


「恩義を感じているのなら、旅立つための装備と道具の一式を貰えればそれでいい。最低限の額で大丈夫だから」

「マオ殿はどうするつもりで」

「結界を素通りできる術を探しに行くさ。また魔物が人を襲ったとき、ボクが助けに行けるように」

「マオさん……」


 最優先はこの二人の安全の確保だ。ボクはボクでゲーム知識を活かして情報収集することにしよう。


 サラマンダーの強さが明らかにゲーム内と違ったり、国同士の距離がリアルだったりゲーム内と違うところはこれからいくらでも出ると思うから、ゲーム知識は補助にしかならない。


 でもないよりはずっと頼もしい。ボクのこの肉体なら全然サバイバルする分には問題ないし。


「ボクはここでゴロゴロしてるから持ってきてぇー」

「た、たくましいな……」


 真冬とか真夏の床の上に比べると全然快適だしー眠いから寝ちゃおう。


「ふぁあ……それじゃあよろしく。おやすみ」


 パタンと手をおろして思考を放棄する。そして寝た。







 なんかすっごい騒がしいな。

 ざわざわと声が聞こえるので、ボクは寝返りを打ちながら目を開ける。


 兵士がいっぱいいた。


 顔をあげて、ずり落ちていたメガネを掛け直す。目を凝らして、見直す。

 ボクの眼の前には赤っぽい茶髪のデコ出しストレートのお姫様がいた。お淑やかそうな雰囲気を持っており、なかなかナイスバディだ。デザイアメイロの公式イラストだったり、リメイク版のパッケージイラストにいたヒロインのラスティ姫だった。その隣にはセーナ姫がいる。


 姫たちを守るようにそばにはガリアと、あと灰色の髪を持つイケメンが立っていた。ゲームのパッケージイラストで見たことある。ドット絵のほうが馴染みの深いデザイアメイロの主人公だ。名前は決められる仕様になっていたけど本当の名前はなんなんだろう。


 その後ろにはもういっぱい兵士がいた。


「……こひゅっ」


 軽いトラウマを思い出して変な声が漏れる。いやあの、吸血鬼だからよく退治の対象にされて集団に囲まれたことがよく……。魔王になる前に散々経験したから、魔王を経ても怖いものは怖いわけで。


「あなたが、セーナさんを助けてくれたのですね」


 落ち着いた優しげな声で、近寄ってくるラスティ姫。


「ラスティ様! 危のうございます! 魔物なのですぞ!」


 兵士のひとりが叫ぶが、姫はガン無視。

 

「起き抜けに申し訳ございません。わたしはこの国の第一王女ラスティ・アーティンベルと申します。この度はわたしの大切な友人を助けていただきありがとうございます」


 純白ベースに赤いアクセントと金の刺繍のはいったドレス。巫女服みたいなカラーリングのそのドレスの裾を持ち上げて深々と頭を下げる。


「あ、いえ、むしろこのような姿で申し訳ありません、デス。ハイ」


 思わず正座をして変な答え方をしてしまう。

 え、魔王なら堂々としてろって? うるさいこちとら魔王歴よりゲームショップ店員の歴のほうが長いんだい。「世界の半分をくれてやろう」より「いらっしゃいませー」のほうが言い慣れてるわ!


「結界を抜けられないということは魔物ということ。危険だと、皆来てしまって……驚かせてすみません」

「とと、当然の懸念かと」


 ガリアに視線を向ける。


 ヘルプ、ヘルプミー!


 しかしガリアは思ったより大事になってしまったみたいな顔で頬を掻くだけだった。


 がりあぁ!


「失礼なことを承知で尋ねるのですが、あなたは魔物なのですか」

「かもしれません。しかし少なくともここの魔物ではありません」

「やはり魔物ではないか!」


 ボクの言葉に兵士たちがざわめき野次が飛ぶ。


「やめなさい。


 ピシャリとラスティ姫が言う。


 野次やざわめきは続かなかった。



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