第10話
フードの男はじっとリーテのネックレスを見つめた。口の中で何やら呟いている。
「ふむ…言われてみればそのネックレスは女神の神紋のうちの一つが意匠とされている。
…こやつ、本当に巫女だな。
ならば、ネックレスに魔術の力があるという話も本当だろう。
とすると…このネックレスさえ、手に入れることができれば…ここまで来た目的は達せられるのだな…」
リーテはよく聞こえなかったため「なあに?」と聞き返すと、男は目を上げ、リーテの目を見ながら話した。
「そのネックレスを手にとってよく見たいのだ。
私はあなたが気に入りそうな素敵な装飾品を、少しばかり持って来ているよ。貢ぎ物のつもりで持って来た物もあるのだが、他の者達に売る予定の品もある。
どれも、かなり高価で珍しい品ばかりだ。
それらの品を、あなたにお見せしようかと思う。
貢ぎ物でない、売り物の方も、お気に召すようなら、あなたへ差し上げてもよい。
代わりに、私の手元にそのネックレスを少しの間、預けて見せてほしいのだ。見終わったらすぐにお返しするので、どうかお願いしたい。」
リーテは少し考えた。「そうねえ…これを少しの間あなたに見せるだけで、貢ぎ物以外にも、色々珍しい装飾品をくれるって話をしているのよね?」
男はうなづいて懐から何か光るものをちらりと見せた。
「まずはこちらの腕輪だ。お気に召すようであれば、そのまま差し上げてもいいが、これは売りさばく予定のものだ。
これが欲しいと言われるのであれば、差し上げてもよろしいが、一度そのネックレスをこちらへ手渡してもらいたい。」
男は、リーテの表情を見て、話に前のめりになっていることを悟りそっと笑みを浮かべた。
「えっ、まず、それよく見せてみてよ。」リーテは腕輪を受け取った。白い金属が丸く輪となり、金色の石がところどころ嵌め込んである。リーテには少し大きかったが、手首から肩の辺りまで滑らせていくと腕輪はどうにか装着することができた。
実際に身につけてみたリーテは、この腕輪が欲しくてたまらなくなった。どちらかといえば貧しい育ちであり、こんな素敵なものを自分の手にしたことは、これまでなかった。
島に宝物はあっても、一族の物で個人の所有物ではないとされているので、今後もリーテがそれらを自分のものとして手に入れることは無いかもしれない。
だが、この男から貰うものは自分だけのものとなるだろう。誰にも文句言われる筋合いは無いだろう。
リーテは取引に乗り気になり、期待で胸を膨らませた。腕を上げ下げして満足気に装着した腕輪を見ており、早く返してねと言いながらネックレスを男に手渡した。
その時、気になっていたことを何気なく口に出した。
「ところでさあ、あなたはなぜこの島に入れたのかしら。ここには一族の者しか入れないってされてるのよ。
私、遠くからあなたの船を見たとき、二人乗っていたように見えたの。でも私がここで出迎えたときは一人だった。なぜかしら…
もう一人はどこに行ったの?
まさか水面下に落ちて、そのまま助けずにここまで来たり…なんてこと、してないわよね?」リーテは冗談を言うつもりでクスクス笑いながら言った。
フードの下で男は目をわずかに細めた。見る者によっては、鋭い目つきになったようにもみえるが、リーテはそこまで気づかなかった。
「いや、ずっと私一人だ。それはきっと見間違いだよ。」
「それと、ここまでどうやって入れたのかしら?
ここってよそ者が近づくと、魔術をかけてあるから、幻影を見たりして道に迷うはずなんだけど?」リーテは首をかしげた。
「わからぬ。そんな術が仕掛けてあったとは知らなかった。もしかしたら私には一族の血が流れているのかもしれないな。」
男は表情を変えず、しらを切り通しながら話した。
そして口の中で小さく呟いた。「巫女であるならばネックレスを用いてどのような儀礼を行っているのかも確認したほうが良いかもしれぬ。
それを聞き出すまでは、こいつは連れて行こう。」
そしてリーテに聞こえる大きさの声で呼びかけた。「こちらにおいで。船のところに貢ぎ物を置いているんだ。」
「えー船に乗るの?島に来たばかりなのに?」リーテはそう言いながらも男に手を引かれて船に乗り込んだ。
「ここに貢ぎ物の荷を置いてあるからな。自分でいいと思うものを選んでくれ。」
リーテが船底の荷をしゃがみ込んで調べているうちに、男は渡し場を足で蹴りだし、船を密かに漕ぎはじめた。
リーテは夢中で船底にある宝を見ており気づかなかった。
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