第39話 出発
「さぁ、機械狩りに行くぞー!」
早朝出発だというのに、夜鬼はいつも以上に元気だ。
「……この乗り物、初めて乗る……」
(わくわく、わくわく)
それに、普段感情を抑えている白鬼の瞳も、今日はキラキラと輝いている。
「そうか、白鬼は初めて乗るんだったな。
ふっふっふ、なら、この俺が教えてやろう。この乗り物の名前はな……」
「ルガラクだよ、ルガラク」
「あっ……」
頭鬼の言葉を遮ったのは、左前方の席に座る黒髪の男子生徒。
彼の胸元には、『9』というシールが貼られている。
「……ねぇ……」
とその時、1枚のガラスにヒビが入った。
「ん? どうした?」
「……あいつ、殺していい……?」
白鬼の顔はまじである。
「ダメに決まってるだろ」
「……嘘、今の冗談……」
(これはまずいな)
頭鬼はすぐに、その事を察した。
「なら、もっと可愛く笑わないとな」
「……か、可愛く……!?」
「ああ、いつもみたいに……な」
「……う、うん……!」
……気をつける……」
そう言うと、白鬼は優しく笑った。
ちなみに、ルガラクでの長距離移動は、学園創設以来初の試み。
「これは、漫画でよく見る修学旅行ってやつなの!」
「へ、へぇ、就活旅行ねぇ……もちろん知ってるわ!」
「その旅行、絶対楽しくないの」
しかし、彼らは相変わらず普段通りのようだ。
この世界におけるルガラクとは、5車両からなる飛行電車のことである。
当然、これを作ったのはリベルタ国だ。
「おーい、ちゃんと座ってろよ。
やらかしたやつは全部、俺の責任になるんだからな」
3車両目の最前列に座るクラチが、席を立ち、生徒に呼びかける。
「はぁ、私も同行してるから大丈夫よ。
だって、みんないい子にしてくれるもんね? ねっ?」
次の瞬間、なぜか全員の背筋が伸びた。
「ほらっ、みんないい子にしてるわよ」
「あっ、ああ……。確かに、そう、みたいだな」
隣で一瞬顔を出し、言葉を発しただけで生徒全員を黙らせるハース。
「す、すげぇなおい……」
実はハース、クラチにだけ甘い先生として、学園では有名人である。
「だから、あなたは私と話してればいいわ」
「お、おう」
何とも言えない空気が流れるルガラク内。
見兼ねた分鬼は、簡単な結界を張った。
「こ、これなら、気にせず話せるでしょ?」
「うわぁ、凄く丁寧な結界だね!」
「あれれぇ、これは僕の身だしなみを整える様の鏡かな? 分鬼、随分気が利くじゃないか」
死鬼は鏡と向かい合い、髪を櫛で整える。
「ん? こんなところに、壁……?」
ただ、最近人見知りが加速した分鬼は、ルガラク内を4つに分けてしまった。
「えへへ、分けちゃった」
「じゃねぇだろ」
頭鬼はすかさずツッコミを入れる。
「ごめんなさい……!
何だか落ち着かなくて……てへっ」
「しかもこれ、めちゃくちゃ硬ぇぞ?」
それもそのはず、分鬼は体術より、遥かに鬼術が優れている。
「7割くらいで張っちゃいました」
「ま、まぁ、トイレだけは繋いでやってくれ」
「おまかせなの」
そんなこんなで、ルガラクは第62区画に到着した。
「代金は全て学校負担だってさ。
ほんと、総隊長様々だな」
「そうね。私もここまで規模の大きい作戦は初めてだから、正直助かったわ」
一足先に降り立ったクラチとハース。
「よっと」
その後を追い、頭鬼も新天地に足をつける。
すると、早速違和感に気づいた。
「誰かに見られてるな。
白鬼、どこか分かるか?」
頭鬼は手を貸し、白鬼を降ろす。
「……うん、あの柱の裏が怪しい……」
「分かった。一旦俺1人で行く」
「……気をつけて……」
そう言うと、頭鬼は柱へ向け歩いていく。
「はーい、どちらさんですか……っと」
柱裏を覗くと、そこには謎のエネルギーを持つ未知のキューブが落ちていた。
「な、なんだこれ ……。
まぁ、とりあえずクラチに渡すか」
そしてなぜか、頭鬼はそれをクラチに向かって投げた。
「ねぇ、何か飛んで来るよ」
「……ん? どうせ葉っぱとかだろ……って、やばっ!?」
「あれ?」
サイズがサイズだったため、本当に当たってしまうのではないか。
頭鬼は少し心配になった。
しかし、それは杞憂である。
「鬼装術、テムノー」
涼しげに大鎌を振るい、一瞬で真っ二つにするハース。
「はーい、お仕置が必要な悪い子はどこかなー?」
(あっ、もしかして……俺やったか?)
その顔は、掛け軸などに描かれる鬼のようだ。
「……わ、私が代わりに謝ってくる……!」
「待って、必要ないよ」
「頭鬼のことだから、何か考えがあるはずなの」
咄嗟に庇おうとする白鬼を、夜鬼と影鬼が止める。
「……で、でも……」
すると直後、頭鬼は言った。
「ハースさん、本当は気づいてるんでしょ?」
「あぁ?」
「……えっ……?」
そう、頭鬼は気づいていたのだ。
「今のキューブを切れるのは、自分とその大鎌だけだって」
「まぁね」
この女、嘘である。
本当はただ、クラチに感謝されたかっただけなのだから。
「あのさぁ、その場合の俺って、死にかけただけじゃんね……はぁ、まじでついてねぇわ」
こればかりは、誰も何も言い返せない。
「まぁまぁ、とりあえず進まないかい?
目的地はまだ先なんだろう?」
「お、おう」
にしても、この男はなぜこうも冷静なんだろう。
「それに……」
「ん? 続きがあるのか?」
ただ、死鬼はやはり死鬼である。
「僕はヒーローだから、かっこよく登場できる場所を見つけておかないとね!」
直後、ハースが言う。
「はーい、みんな行こっか」
「「「はい」」」
そして、ハースの後に続き、生徒たちは移動を開始した。
「あっ、あれ……?
僕だけ置いてかれてるような……まぁ、眩しすぎるのも罪ってことかな」
1人になっても、死鬼の心が折れることはなかった。
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