第16話 寮

 頭鬼、白鬼、分鬼、死鬼の4人は、メルサーの指示で試験免除となり、残された新入生20人の試験が全て終了した。


 そして後日、ガオルとマッチョンに倒された新入生もまた、改めてこの3人の試験を受けたらしい。


「意外と呆気なかったな」


「……うん……」


「うーん、僕の輝きは足りなかったって言ってるよ……」


「うるさい」


 その日、入学試験を終えた頭鬼たちはシュリの案内で寮の前に来ていた。


「あんたたち、ほんと仲良いのね」


 寮の前には、綺麗に手入れされた芝生が広がっている。


「鬼望学園の寮はほぼホテルよ。

 30階建て、ワンフロアに25部屋。

 基本的に2人で1部屋だから、3000人は住める計算ね」


「なにっ!? 僕にも負けてないスペックの良さじゃないか!

 で、でも、まだ僕には及ばないけどね!」


「いいや、それだけじゃないわ!」


「なぬっ!?」


「3食バイキング形式の食事付き、ベッドはふかふかのフランスベッドで疲れが吹き飛ぶ、近くの銭湯は露天風呂とサウナ完備で、学園の生徒なら使い放題よ!」


「な、なんだって……。

 そんなの僕より全然高スペックじゃないか。

 許さない、許さないぞ! 寮……!」


 死鬼は寮に激しく嫉妬した。

 シュリは死鬼を無視して説明を続ける。


「あっ、こっちが男子寮で、こっちが女子寮ね」


 男子寮には青色のガーデンライトが、女子寮にはピンク色のガーデンライトが入口の自動ドアまで等間隔に配置されており、しっかりと区別されている。


 ただ……。


「……距離が近い……」


「ああ、これはどうなんだ?」


 白鬼と分鬼が言うように、男子寮と女子寮の間はたった100mほどしかない。


「私も大丈夫なの? って思ったから、学園長に聞いてみたの。

 そしたら、

『それぞれの寮に入るには個人カードをかざす必要がある。だから心配いらんよ』ってことらしいわ……。

 あっ、そういえば……」


 シュリは制服の胸ポケットから4人の個人カードを取り出し、一人一人に手渡しで返した。


「今の今まで完全に忘れてた!

 まじでごめんね!」


 シュリは深々と頭を下げた。


「いえいえ、大丈夫ですよ」


「いいや! あんたねえ、個人カードは簡単に悪用出来ちゃうんだから注意しなさい!」


 頭鬼は静かに頷いた。

 心の中で、


 (あなた、忘れてましたよね)


 と思いながら。


「ところで、あんたたちって鬼なの?」


 さりげなく重要な事を聞くシュリ。


「厳密にはまだですけど、一応鬼です」


「へぇ」


 そしてなぜか普通に答える頭鬼。


 直後、立場が入れ替わり、逆に頭鬼が聞く。


「胸元に付けてるその金バッジって、特別な生徒の証か何かですか?」


「うん、生徒会だけが付けるバッジだよ。

 ちなみに私は副会長ね」


「へぇ」


 生徒会副会長というのは隠すどころか誇るべきものだが、ラゼルに存在しないとされている鬼(鬼候補)だと打ち明けてしまった頭鬼たち。

 しかも、今目の前にいるのは生徒会副会長。

 流石の頭鬼も焦りを見せた。


「えっ、あの、その、鬼だったら何かしますか。例えば生徒会権限で永遠に監視……とか」


「いや、それは絶対に無いから大丈夫。

 でも、鬼って学園にいてもいいの?」


「はい。なんか特待生として入れられたっぽいんで、大丈夫だと思いますよ」


「へぇ、ふーん、そうなんだ。

 てか、特待生ってことは、元々試験免除だったはずなのにね」


「えっ、そうなんですか」


「うん。あっ、そういえば、アリシア会長に鬼力順応率がすごい生徒がいるってWINEしちゃった……てへっ」


 シュリはアリシアとのWINEを頭鬼たちに見せた。


「えっ、会長さん何か言ってました?」


「うん……。1回会ってみたいって」


「あはは……」


「あはは……」


 早口の会話を終え、気まずくなる2人。

 見兼ねた白鬼たちが声をかける。


「……シュリ、たくさん話しすぎ……」


「そうだよ! 僕を仲間はずれに盛り上がるとか、君たちセンスないよ」


「はぁ、もう鬼とかどうでもよくね」


 いつも以上に冷静な3人を見て、頭鬼は焦っているのが少しバカバカしくなった。


「確かに、シュリ先輩に知られただけか」


「えっ、いいの?」


「……うん……別に秘密にしろとは言われてない……」


「あっ、そうなの。よかったー!

 私はてっきり口封じに殺されるのかと思ったよ」


「Hey,Ms.シュリ。僕がそんな汚い手段を取るとでも?」


「あー確かに! そうよね!

 死鬼くんがそんなダサいことするわけないか!」


「おー、流石は副会長!

 僕の魅力に気付いてくれましたか!

 そんなあなたには特別、名前呼びを許可しましょう!」


「あっ、うん。ありがとう」


「いえいえ、お気になさらず」


 死鬼のどうでもいい話のおかげで、すっかり元通りとなった空気。


 頭鬼は胸に手を当て、心の中で死鬼にお礼をした。


 (死鬼、君がバカで助かったよ。本当にありがとう)


 その時、頭鬼の右手が胸ポケットに入っている何かに触れた。


「ん? 何か入ってる?」


 取り出してみるとそれは、学園の招待状と一緒にポストに入っていた、謎の金色の鍵だった。


「あっ、そういえば、何か分からないから一応持ってきたんだっけ」


 シュリはその鍵を見て一言。


「それ寮の鍵だよ!」


「……えっ?」


「もしかして……ちょっと来て!」


 分かりやすく首を傾げる頭鬼たちの手を引き、シュリは頭鬼の個人カードを入口の端末にかざす。


「突然どうしたんですか?」


「いいから! 黙って着いてきて!」


 重そうな扉が開くと、シュリは走った。


「ちょっと君たち、女の子連れ込んじゃダメでしょ!……って、あれ?

 女の子が男の子を連れ込んでる?」


 寮長の声を無視し、シュリは進んだ。


 そして、そのままの勢いでエレベーターに乗り込むと、最上階へと向かった。

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