第14話 入学試験アリシア
次にアリシア試験官を見ていこう。
アリシアの最初の相手は、
「あれ? もしかして私が小さいの?」
と、つい勘違いしてしまうほどガタイのよい、短めな黒髪の男子生徒だ。
「私はいつでも大丈夫ですわ」
「お手柔らかにお願いします!」
模造刀を手に持ち、向かい合う2人。
しかし、そのあまりの体格差に、順番を待つ新入生から心配の声が上がる。
「本当に大丈夫なのか……?」
「格闘技なら6階級は違うだろ……」
「流石に先輩でも、なぁ……」
ただ、アリシアの顔は何一つとして変わらない。
それどころか、新入生と向かい合ってからずっと、自信に満ち溢れたいい表情をしている。
お互いに構えを取り、敬意と感謝を込め一礼。
新入生は中段の構えを、アリシアは八相の構えを取った。
「では、行きます!」
「私、こだわって入れた紅茶以外は受け付けない身体をしてますの」
「お気に召せば光栄です!」
いい笑顔でそう答えた新入生は、力強く地面を蹴り、アリシアの元へと向かう。
そして、間合いに入るや否や、力強く模造刀を振り下ろした。
その勢いは凄まじく、グラウンド全体に砂埃が舞う。
(まずは、相手の出方を見るための一振り!)
無意識なのか、模造刀には溢れんばかりの鬼力がこもっている。
(これは、かなりこだわり抜かれた1杯ですわね……)
「でも……!」
自身の模造刀先端部に左手を当て、全身でそれを受け止めるアリシア。
その瞬間、模造刀とは思えない大きな音がグラウンド全体に響いた。
「……くっ……」
しかも、先に辛そうな声を上げたのは新入生の方だった。
(俺の一撃を正面から……流石だ)
体格差の影響もあるだろうが、グラウンドにアリシアの靴が半分ほど沈んでいる。
ただ、押し勝っているのは間違いなくアリシアだ。
その後、アリシアは流れるように身体と模造刀を抜くと、相手の後ろ側へ回り込んだ。
「勝負は力が全てではありませんわ。
重要なのは……勝ちに至るまでの過程ですの」
アリシアは、がら空きの大きな背中に一振り。
いくら模造刀を鬼力でコーティングしているとはいえ、その痛みは中々のものだろう。
「……」
ただ、新入生は何も言わない。
「さぁ、後半戦ですわ」
「流石は先輩です。
でも、スパルタ教育には人一倍慣れてますから」
「……えっ」
振り返り、笑顔を浮かべる新入生に、痛みを感じている様子は全くと言っていいほどない。
その様子を見て、アリシアは少し胸が苦しくなった。
(少し手加減したとはいえ、ある程度の痛みは感じてるはずですわ……)
「じゃあ、次で決めますから」
「ええ、問題ないですわ。
その前に、お名前を伺っても?」
「マウントです」
「私はアリシア。
鬼望学園では生徒会長をしてますわ」
「なるほど。強いのも納得です」
改めて構えを取り、向かい合う2人。
そして、隣で試験をしているシュリがハヴァをお姫様抱っこしたその時、2人は地面を蹴った。
「おりゃぁぁあああ!」
先程より素早く、そして鋭く振り下ろされたマウントの刀。
しかし、アリシアは瞬時に模造刀を添わせ、それを可憐に左へと受け流した。
「これでは先程と同じ……」
「そう見えました?」
「なっ……!」
敢えて同じ動きをし、相手の油断を誘ったマウントは、即座に身体を捻り、再びアリシアに切りかかる。
「はぁ!」
完全に裏をかいたように見えた攻撃だが、アリシアは模造刀の動きを冷静に見極め、低い姿勢を取った。
「残念、惜しかったですわ」
「……くっ……」
「実を言うと、この太刀筋の相手と斬り合うのは200回目ですの」
刀はアリシアに触れることなく、空を切った。
「はぁ、完敗です」
マウントの後ろ側へ回り込んだアリシアは、刀の柄で背中を軽くついた。
「素晴らしいティータイムに感謝ですわ」
その時、新入生は確かに見た。
アリシアの綺麗な青い瞳が、光輝いていたのを。
(今のは……聖剣の……輝……)
直後、新入生は気を失った。
「ふぅ、疲れましたわ」
体格差をものともせず勝利したアリシアに、新入生たちから大きな拍手が送られた。
「マウント。
あなたの過去に何があったのか、私には分かりません。
でも、努力は必ず実りますわ。
私がそうであったように」
アリシアはマウントを両手で抱え上げると、グラウンドの隅へと移動させた。
「私、意外と力持ちですのよ」
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